2020/08/14 コラム

クリフカットとコーダトロンカというデザイン用語をご存知?【東京オリンピック1964年特集Vol.18】

●driver1964年7月号より

前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載18回目は、driver1964年7月号に掲載した「新しいスタイル用語 クリフカットとコーダトロンカ」について。

〈該当記事はこちらより〉
driver1964年7月号
driver1964年7月号
driver1964年7月号


懐かしい?デザイン用語を解説


拙欄は2度目の東京オリンピック開催にかけた連載企画であるにもかかわらず、肝心なことを失念していた。2020(令和2)年7月24日は本来、東京オリンピックの開会式が新しい国立競技場で盛大に行われるはずだったのだ。

とはいえ、新型コロナウイルス第2波の襲来に、そんなことなどすっかり忘れていたという人は少なくないはず。オリンピックの日程はちょうど1年延期になり、開会式は2021年7月23日が予定されているが、その実施は現状ますます想像すら難しくなっている。

さて、driver誌が創刊した1964(昭和39)年の7月号では、拙欄で採り上げただけでも様々な姿カタチのクルマが登場した。そして、そのデザインへの理解を深めるタイムリーな企画が活版6ページで組まれている。題して「クリフカットとコーダトロンカ」。



1980年頃に初めて自動車雑誌を手にした筆者の世代にとって、その2つはエクステリアのデザイン用語としておなじみだ。が、副題に「新しいスタイル用語について」とあるように、当時は世界的に流行中、あるいはこれから流行するかもしれないニューモードだった。

クリフカットとは何だ?


まず、クリフカット。
「クリフとは断崖、つまり崖のようにキャビンの後端を切ったスタイルを指す(逆傾斜で切ることを条件とする)」(文中より)

だから、リヤウインドーがストンと垂直に切り立ったデザインでも、クリフカットとは言わない。真横から見たら、キャビンがまるで平行四辺形を描くようなシルエットが特徴だ。発祥は50年代のアメリカ車と言われる。

キャロル マツダ 初代
●マツダ キャロル(1966年)

筆者がクリフカットを初めて知ったのは、間違いなく初代のマツダ キャロル。ただし、それまでに実車を見た記憶はなく(実際には見ていたとしても)、キャロルにしてもクリフカットとしても自動車史の中の知識といった感じだった。「これがスバル1000だ!」(連載第15回)に登場した試作車A-5の存在など、もちろん知る由もない。

WiLL Vi
●WiLL Vi(2000年)

自動車メディアに携わってからキャロルの実車を目にする機会もあったが、クリフカットでは「カボチャの馬車」と言われたWiLL Viのほうが強く印象に残っている。歴史上のデザインが新世紀を迎えるタイミングで突如姿を現した復活劇は、過去と未来の遭遇に立ち会ったような不思議な感覚だった。

コーダトロンカとは何モノか


次に、コーダトロンカ(Coda Tronca)。こっちはイタリア語である。
文中ではいすゞベレル(連載第4回)のPR文を引用するかたちで、次のように説明されている。

「コーダ=尾、トロンカ=切る。つまり弾丸スタイル。カー・デザインのメッカ、イタリアが起源の新しい流行……」

コーダトロンカ

尾とは何かと言えば、走行中ボディに沿って後方へ向かう気流が乱れることなく理想的に収束する空力形状。文中に掲載のイラストがわかりやすい。現代でもオリジナルボディで空力を極限まで追求したソーラーカーや超低燃費車のレース車両は、まさにこうした形状をしている。量産乗用車の場合、リヤオーバーハングの長さには限度がある。そこで、それを潔くスパッと切り落とし、空力と実用性の両立を狙ったのがコーダトロンカだ。

ただ、基本的には四角い4ドアセダンのいすゞベレル(連載第4回)がそうかと言えば、正直ビミョー。文中でも「ハムかソーセージのような紡錘形物体を、ハッキリ切り口を見せて切り落とした形を表していなければ、この新しい言葉もピッタリしない」と、疑問を呈している。

コーダトロンカの典型は、何と言ってもジュリエッタSZ2やジュリアTZをはじめとする、60年代のアルファロメオだ。連載第16回で採り上げたジュリアSSもそう。


●初代バラードスポーツCR-X(1983年)

日本車では、やっぱりホンダの初代・2代目CR-X。そのデザインは2010年にCR-Zとして蘇ったが、リヤエンドは左右へ回り込んだ曲面で、大胆な“切り落とし”感は初代インサイト(1999年)のほうが強かった。ついでに言えば、CR-Xに限らず80年代のホンダ車は今見てもカッコいい。グッと遡れば、初代・2代目の日産フェアレディZもコーダトロンカの好例と言える。


●初代フェアレディZ(1969年)

誌面では、そのほかにも当時のスタイリングに見られるデザイン手法が紹介されている。フォード タウナス(連載第17回)は正面、サイド、平面とどの角度から見ても楕円モチーフが使われた、見事なオーバルライン。日本車ではいすゞベレット(連載第12回)がオーバルに近い。

キュービックタイプの成功例として評価されているのは、プリンス スカイライン(連載第6回)。スラブサイドスタイルはボディを側面から矩形の板(スラブ)で挟んだようなアメリカンデザインで、三菱デボネア(連載第14回)に採用された。

デボネア
●三菱デボネア(1970年11-5号のdriver誌面より)

そして、再び流行するかもしれないデザインとして、ルーフ後端からリヤにかけて完全に流線化したプレーンバックスタイルが挙げられている。「いつの時代を問わず、スピード感への憧れを示す」(同)スポーティなデザイン手法で、今日ではファストバックという呼び方が一般的だ。

このファストバック、現在はマツダ車にその名称が見られる。だが、リヤウインドーが強くスラントしたクーペも基本的に同じとすれば、世界的に採用が相次いでいるのは欧州発祥のSUVクーペだ。SUVがまだ「ジープ型」と呼ばれていた当時、その特殊な不整地走行車がスポーツカーのようなクーペボディをまとうとは、誰も想像すら難しかったに違いない。

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