前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載6回目は、同年3月にデビュー、プリンス自動車が誇ったスカイラインとグロリアについてだ。 ※毎週金曜連載中
driver誌が産声をあげて2号目となる1964年5月号では、プリンス自動車が同年3月14日に発表したニューモデル3台をグラビアで紹介している。スカイラインに追加されたGTと1500スタンダード、そしてグロリア6に登場したワゴンだ。
主役は言うまでもなく、スカイラインGT。日本屈指のスポーツセダン&クーペとして人気を博すことになる「スカG」の初代にして、今なお羨望の存在であり続けるGT-Rの始祖である。扉始まりの1ページ目に使われているのは、思わせぶりなメーターまわりの写真。翌年正式にラインアップされるGT-A/GT-Bの2眼ではなく、1500デラックスと基本的に同じ横長のスピードメーターに小型のタコメーターを後付けした、貴重なショットが垣間見える。
発売は、第2回日本GP(グランプリ)の開催を翌日に控えた5月1日。ちなみにこの年のカレンダーを見ると、これまた偶然にも曜日が2020年の今年とまったく同じで、GPが行われた5月2~3日は土日だ。3日は憲法記念日で、今ならゴールデンウイーク真っ只中。しかし、当時は祝日が日曜と重なってもまだ振替休日にならなかったため、翌4日の月曜はフツーに平日だった。そういえば、昔は「飛び石連休」なんて言ってたっけ。「国民の祝日に関する法律」の改正で振替休日になったのは、1973(昭和48)年から。
スカイラインGTは、前年の第1回日本GPで惨敗を喫したプリンスが、必勝を期して送り込んだ切り札だった。2代目スカイラインは前年に1.5L直4OHV搭載のファミリーセダンとしてデビューしたが、GTはグロリア6の2L直6OHCに換装。ノーマルボディのままで直6エンジンは収まらず、エンジンルームは200㎜延長された。スペックは1.5Lの最高出力70馬力・最大トルク11.5kgmから、105馬力・16.0kgmへと大幅アップ。グロリア6より圧倒的に軽い車重と相まって、0→400m加速18.5秒、最高速170㎞/h(1.5Lは140㎞/h)の動力性能を実現した。今では1.5LのCセグメントセダンのほうが速いが、当時は「かなりの高性能ぶり」だった。
「スポーツカーとして使用できる反面、ファミリーカーとして家族ドライブやビジネスへの実用性をもかね備えているところがミソ」(記事より)
日本GPのGTⅡクラスに出場すべく、100台が生産されるホモロゲーションモデル。それでいて価格は88万円と、スカイライン1500デラックス(73万円)と比べてもリーズナブルな設定だった。
しかも、プリンスはスカイラインGTをまさにモンスターたらしめる、数々のチューニングパーツまでオプション設定していたのだ。3連装のウエーバー製キャブレター、4段+オーバードライブの5速ミッション、低いファイナルギヤの組み合わせで29万5000円。ほかにもノンスリップデフ(今で言うLSD)2万円、燃料タンク(70~110L)6000~1万円、シートベルト2400円など、紹介記事では充実のアイテムが列記されている。それらを装着すれば、スカイラインGTはまさに公道を走るGPマシンへと変貌したのである。その動力性能については触れられていないが、GP出場車の最高出力は130馬力以上とも伝えられる。
そして迎えた日本GP。鈴鹿サーキットを舞台に、スカイラインGTはポルシェ904と伝説の死闘を繰り広げることになるのだ。
一方、1500スタンダードはデラックスの普及版。装備の簡略化によって62万円の求めやすい価格としながら、エンジンは改良によって「2カ年間4万㎞のあいだ封印」、「3万㎞無給油シャシー」などの特徴はそのまま受け継ぎ、現在では当たり前のメンテナンスフリー化を進めた。当時はまだ、エンジンのヘッド分解やシャシーのグリスアップといったメンテナンスが必要だったのだ。
グロリア6ワゴンは、「品4」のナンバープレートやクオーターウインドーのガードバーでわかるように、ワゴンを名乗るもじつは豪華な商用バン。「この種の車でとかく軽視されがちであった」後席は100㎜の前後スライド、10度のリクライニングが可能になっている。リヤゲートのウインドーには換気に便利な電動を採用した。
スカイラインとグロリア。志高きプリンスが誇る乗用車の二枚看板であった。
〈文=戸田治宏〉
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