前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載4回目は、driver創刊1964年4月号から始まった連載企画「ここにもドライバーがいる」。東京オリンピック開催にあたって奮闘していたとある国会議員の話だ。 ※毎週金曜連載中
巻末グラビア「ここにもドライバーがいる」は、この創刊号からスタートした連載企画の一つ。一般ユーザーの中でもちょっと珍しい職業などを持つ人と、そのカーライフにスポットを当てた“人物もの”だ。第1回は何と国会議員である。
日本社会党(現・社会民主党)で現役バリバリの参議院議員だった藤田進氏。誌面には「社会党政策審議会副会長 大阪工業大学教授」とある。筆者は寡聞にて存じあげなかったが、ネットで検索するとその名前はすぐに見つかる。日本最大の労働組合中央組織だった総評(日本労働組合総評議会)の議長を経て政界入り。1983年に引退するまで社会党の要職を務める一方、学界でも名を残した実力派である。
藤田氏がこの企画になぜ登場したかといえば、当時、衆参合わせて717名の国会議員の中で氏は唯一のオーナードライバーだったからだ。
「高級車にふんぞり返る議員連をヨソ目に いすゞベレルのハンドルを握って登院する その心掛け その貫録 ゴ立派である」(原文ママ、以下同)
国産高級車といえばすでにクラウン・セドリック・グロリアだった当時、ベレルという選択がまたシブい。いすゞ初の自社開発乗用車であり、タクシーなどの営業車としては一定の実績を残したが、自家用としては残念ながら不人気車に終わった。氏はいすゞがノックダウン生産していたヒルマンミンクスから乗り替えたのか、それとも乗用車開発に乗り出したいすゞを応援したかったのか、などと想像を楽しんでしまう。
氏みずからハンドルを握った理由は、「毎日忙しいが 人の3倍能率が上がる」。また、2カ月に一度は神奈川・箱根へ家族でドライブもしたようだから、必要に迫られてというだけでなく、やはりクルマの運転がお好きだったのだろう。
高級自家用車でファミリードライブを楽しむというのは、職業を別にしてかなりのステータスだったに違いない。当時、日本の自動車保有台数は約594万台(昭和39年度運輸白書)で、現在の13分の1以下。しかもトラックの比率が高く、乗用車はわずか27%にすぎなかった。
それでもクルマの渋滞や事故はすでに社会問題となっており、特に都市部では現在を大幅に上まわる深刻な状況だった。急増するクルマに対してインフラ整備がまったく追いついていなかったのだ。道路は数が圧倒的に少ないうえ、舗装率は一般国道でも約45%、主要地方道は20%未満という低さ(国土交通省のデータより)。高速道路はまだ、前年(1963年)に栗東-尼崎間が開通した名神高速と、62年の京橋-芝浦を皮切りに都心の一部が開通した首都高の、それぞれ一部区間のみだった。
「参議院議員になって10余年 悪路ニッポンを走りまくってきた藤田氏だ(中略)オリンピックも高速道路も結構だが 現在の交通地獄は〈流速〉の問題が解決されてないからだという 交通は水の流れに似ている 国土総合開発委員会の委員でもある彼の構想は さすがマトをついている」
日本の政治家のセンセイは自分で運転しないから道路の実情がわからないと、昔から言われてきた。もちろん、自分ですべて体験しなければ政策を実現できないというものではないだろう。しかし2020年の今、仕事であれプライベートであれ自分でステアリングを握る“ドライバー”は、713人の国会議員の中にはたしているのだろうか。移動で後席を温めてばかりいるのは、言ってみれば自動運転と同じようなもの。過剰な議員特権に守られているばかりでは、いまだ立ち遅れた道路行政も、通行料金やマイカー維持費の驚くべき高さも、一般市民と同じように肌身で感じることはできない。
戦後の政治家や官僚は敗戦からの復興と経済成長を目指して、紆余曲折ありながらも新生日本の国家建設に邁進した。そして民間の不断の努力と相まって、今日のクルマと道路は世界最高レベルと言われることが当たり前になった。
日本の政治も進歩しただろうか。逆に劣化していないだろうか。昨今の惨状を見ていると、旧来の代表制民主主義や選挙システムの限界も感じるが、この国の主権は一般国民ではなく永田町の住人(それもごく一部の)にある気がしてならない。それでも国民は失政に堪え続けながら無力さ嘆き、批判とグチをSNSにぶつけるのみだ。
日本がまだ豊かでなかったあの時代には、藤田氏も身を砕いた労働運動や反戦などを訴える学生運動が非常に激しく行われた。あの頃の“熱さ”を日本人が取り戻し、自分たちで政治のハンドルを握るべく立ち上がるべき時なのかもしれない。匿名のネット民やワイドショーのコメンテーターは何もしてくれない。
〈文=戸田治宏〉
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