2023/08/30 コラム

駐車違反の「放置違反金」を滞納していると…「防刃チョッキと特殊警棒で差押え」!?

「駐禁のカネなんぞしらばっくれてればチャラになるさ」は通用するのか?

交通違反の金銭ペナルティといえば、主に罰金、反則金、放置違反金だ。それぞれまったく違う。

罰金は刑罰だ。刑事裁判の手続きを経て科される。払わなければ、つまり財産刑として執行できない場合は、「労役場留置」という名の自由刑に換刑(かんけい)して執行する。反則金の納付は任意だ。そのことについては以下の記事をご参照いただければ。

参考記事:反則金を払わないと逮捕される? そもそも反則金って何?

放置違反金は刑罰ではない。けど納付は任意じゃない。納付しない者に対し警察は、強制処分(要するに差し押さえ)をおこなうことができる。ときどき報道される。8月25日、神戸新聞NEXTが「駐車違反50回も違反金滞納 差し押さえた『ステップワゴン』公売に、ネットで4万円から 兵庫で初」と報じた。以下はその一部だ。

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放置違反金は、駐車違反の状態で放置された車両の使用者が支払う。発表では、男性は2019年12月~23年7月に神戸・三宮などで計50回の駐車違反を繰り返した。これまで納付した違反金は2回分(計3万円)だけで、現在も延滞金を含む計約64万円を滞納している状態という。

県公安委は7月中旬、男性の自宅敷地に駐車されていた車にタイヤロックをかけて差し押さえたが、その後も支払いがないため公売に踏み切った。8月25日午後、オークションサイト「KSI官公庁オークション」に掲載した。

公売するのはホンダのワゴン車「ステップワゴン」で、最低価格は4万円。参加申し込みは9月6日まで。その後、指定の期間内に入札を受け付ける。落札額が滞納金を上回った場合、差額は男性に返金される。

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このニュース、諸君はどう読んだろう。「たかが駐禁でクルマを強制売却かよっ」と驚いた方もおいでだろう。私はねえ、交通警察官向けのマニア雑誌『月刊交通』(東京法令)の2011年12月号を思い出した。

放置違反金の制度が誕生したのは2006年6月。放置違反金の時効は5年。5年を経過すると差し押さえもできなくなる。その危機感からだろう、2011年12月号に「駐車取締りの現状と今後の取組について」という特集があったのだ。強烈な特集だった。以下、その一部をご紹介しよう。≪≫内が引用部分だ。

■自宅マンションを差押え

≪ 滞納者は、12件の放置違反金を滞納し催促にも応じない悪質者であった。財産調査により銀行口座から違反金3件分の預金を差し押さえたが、その後、残高が少なくなり、差押えが困難な状況となった。よって、他の財産調査を開始し、居住先の不動産登記簿謄本の照会等を行ったところ、当該居住先のマンションが滞納者名義であると判明したことから、差押登記の嘱託を実施したものである。≫

たかが駐車違反のペナルティのために、そんなことを勝手にしていいのか? いいのである。道路交通法第51条の4第14項が「地方税の滞納処分の例により、放置違反金等を徴収することができる。この場合における放置違反金等の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする」と定めている。

つまり放置違反金は税金のようなもの。滞納があれば“マルサ”ならぬ“マル駐”が動くんである。ちなみに「放置違反金等」の「等」は、「年14.5パーセントの割合により計算した額の範囲内の延滞金及び督促に要した手数料」(同第13項)だ。

≪ 調査の結果、当該マンションは、住宅金融公庫による抵当権があったことから、公売した場合は債権額を差し引いた額を未納の放置違反金等に充当する手続を進めていたが、滞納者は送付された差押書に驚き、滞納していた違反金等13万円余を納付した。≫

そりゃあ、驚きびびるわ。

■防刃チョッキに特殊警棒

ベンツが自宅マンション前の道路を駐車場代わりにしているケースがあり、放置違反金の滞納はなんと84件。預金調査では財産が発見されなかった。そこで、≪財産調査の一形態で国税徴収法第142条第1項に基づき実施する…裁判所からの令状を必要としない強制調査≫としての家宅捜索を実施した。≪相手方からの攻撃等受傷事故防止に万全を期し≫て、防刃チョッキを着用し、特殊警棒を携帯して! 結果、現金や通帳等は発見できず、パソコン1台を差し押さえた。

≪この捜索効果は大きく、相手方は違反をくり返さないため自ら車を手放す決意を固め、その後の納付に応じることになった≫

「駐禁のカネなんぞしらばっくれてればチャラになるさ」ぐらいに思っていたとすれば、防刃チョッキに特殊警棒の警察官たちが捜索令状なしに乗り込んできて、ブルったろうねぇ。

そのほか、≪刑事部門と連携して県警察運営の最重要課題である暴力団××組系「××会対策」の一環として、××会関係者をターゲットに保有車両の差押登録、預金口座の差押え等を実施≫というのもあった。≪組員総長≫は≪国家権力には勝てんわな≫と全額を支払ったそうだ。

柔道整復師の男に対しては、国民健康保険の診療報酬請求権を差し押さえたそうだ。別件で逮捕され留置場に収容中の被疑者の、その所持金から放置違反金を差し押さえたケースも報告されている。「警察はもう徹底的にやるんだな!」という感じがばりばり出ている。

ただ、滞納者はあとを絶たず、警察はたいへんらしい。金額の大きいケース、あるいはフィギュアとかゲーム機とか差し押さえ対象にニュース性がありそうなケースなんかをマスコミに大きく報道してもらう。他の人たちが「滞納はヤバイんだ!」とびびって自発的に納付するよう期待する、そういう面も大きいようだ。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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