2023/05/02 コラム

反則金を払わないと逮捕される? そもそも反則金って何?【交通違反の基礎知識・その1】

反則金納付額のピークは1987年、前年の約613億円から約1037億円へどかんと増えた。なぜか?

反則金とは何か、払わないとどうなるか、そこが私のルーツといえる。徹底的に深掘りして1990年、初めての単行本『交通取締りに「NO」と言える本』(恒友出版)を上梓。すぐにテレビから声がかかった。深夜の生放送で司会は蓮舫さんだった。懐かしい。

2000年から警察が情報公開条例・法の対象になり始めた。私は警視庁、警察庁へひんぱんに通い、マニアな警察文書をさまざまゲット。反則金とは何か、何度も何度も書いてきた。今回、そもそもの話から改めてちらっと書いてみたい。

■交通戦争 vs 交通取り締まり

戦後の高度経済成長期、自動車が激増した。死亡事故も激増、「交通戦争」と呼ばれた。警察は交通違反を徹底的に取り締まった。警察庁のデータによれば取り締まり件数は、1950年は約50万件。1958年には200万件を超え、1962年には300万件を超えた。

当時、交通違反はすべて「窃盗」や「強制わいせつ」などと同じく刑事手続き(刑事訴訟法による手続き)で処理されていた。「違反は事実か」「事実として処罰すべきか」「すべきとしてどれぐらいの刑罰が相当か」を、取り締まった警察官以外の者、すなわち検察官と裁判官が判断する手続きだ。検察官が不起訴とすることも、裁判官が無罪とすることもある。

だが、交通違反は大量だ。いちいち面倒なことをやっていられない。1954年には「三者即日処理方式」を導入。警察官、検察官、裁判官が1カ所に集まり、違反者を出頭させてさくさく罰金刑とした。即日納付もさせた。1963年には「迅速処理のための共用書式」=違反切符も導入した。それでも死亡事故は増えるばかり。1965年に取り締まり件数は500万件を超えた。このままじゃ検察も裁判所もパンクする!

■反則金制度の誕生

そこで1968年7月1日、「第八章」までだった道路交通法に「第九章 反則行為に関する処理手続の特例」を加えた。「交通反則通告制度」が誕生したのである。要するにこういう制度だ。

1、交通違反のうち軽微で定型的なものを「反則行為」とし、その違反者を「反則者」とする。
2、刑事手続きで科される罰金額より若干低額の金銭ペナルティ「反則金」を創設。
3、反則者は、反則金を払えば刑事手続きへ進まずにすむ。違反処理は終了する。

免罪符って聞いたことあるでしょ。「このお札(ふだ)を買えば地獄へ墜ちずにすむぞよ」とかいうやつだ。反則金は「これを払えば刑事手続きへ進まずにすむぞよ」である。免罪符に似ている。反則金を払わず、つまり免罪符を買わず、刑事手続きへ進んで不起訴や無罪になる道も残された。しかし…。

「運悪く捕まっちゃったらしょーがない。金を払えばいいんだろ。払うからとっとと終わらせてくれ。忙しいんだ」

そういう人たちにとっては、反則金は非常にありがたい免罪符だったろう。やがて「反則金の納付は義務だ。納得いかなくても払わねば」と思い込む人が多くなった。反則金の納付率は95%を下回ったことが1度もない。2019年は98.3%だ。

反則金制度が登場する前は「警告件数」のデータがあった。1967年は約610万件。取り締まり件数より多かった。が、1968年に反則金の制度が誕生して取り締まりが爆増。警告件数のデータは姿を消した。

■莫大な反則金収入と事故死者の激減

罰金は国庫に入って一般財源の一部となる。反則金は、いったん国庫に入ってから「交通安全対策特別交付金」として都道府県等に交付される。信号機、標識、歩道、歩道橋、ガードレールなど交通安全施設の整備にあてられる。

反則金の納付額は、1968年は約71億円。「これで信号機などは飛躍的に整備される」という趣旨の興奮の報道が当時あった。1969年は約122億円。1971年に200億円を超え、1974年に400億円を超えた。信号機などの整備が飛躍的に進んだ。その影響が大きかったのだろう、事故死者数は1970年の1万6765人をピークにどんどん減った。1979年には8466人へと半減した。

反則金納付額のピークは1987年、前年の約613億円から約1037億円へどかんと増えた。反則金を全体に約1.5倍に値上げし、取り締まり件数を減らさなかったせいだ。その後しばらく800~900億円前後で推移したが、やがて減少カーブを描く。2019年は約502億円だ。

事故死者数は、いわゆるバブル経済の時期に再び増加に転じ、1万人を超えた。「第2次交通戦争」といわれた。が、その後はもう減少の一途。2022年はなんと2610人! それでも2610人もの人が命を絶たれたことは重い。後遺障害を負った人はもっとおいでだろう。けれどもしかし昔と比べれば、2610人にまで減少したのはすごい。

以上を踏まえて、反則金を払わないとどうなるのか、である。免罪符を買わなければ地獄へ墜ちるのか。

次回「慌てずにすむ反則金の払い方、「青切符」以外に「ピンク切符」も!?」へ続く

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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