2023/08/30 コラム

「スピード違反50キロ以上」が増加中…しかも「富裕層」が多い!? 捕まったらどうなるのか

スピード違反自体は減っているのに、50キロ以上が増えている…

警察庁が毎年、超過速度別の取り締まり件数を公表している。2022年はこうだ。「速度50以上」とは超過速度が50キロ以上の意味。丸カッコ内は前年比。

速度50以上  1万2396件(+ 2.4%)
速度50未満 12万7370件(-11.3%)
速度30未満 19万2311件(-11.3%)
速度25未満 31万7498件(-12.5%)
速度20未満 28万2555件(-14.2%)
速度15未満    130件(-34.3%)
合計     93万2260件(-12.4%)

超過速度が15以上25未満、つまり超過20キロ前後が60万53件、約64%を占める。「20キロオーバーぐらいなら捕まらないだろう」という認識の運転者が多いから、その速度域が多く捕まるのか。

前年比は、速度50以上だけがプラスだ。2021年も速度50以上だけが前年比+7.0%となっている。なぜ? 私は現在までに事件数で550件ほど速度違反の裁判を傍聴してきた。ほとんどが速度50以上だ。もちろんいろんなケースがあるが、以下のようなケースが目立つように思う。

――被告人はお金持ち、またはその息子か娘。外国製のスポーツカーや国産高級車を運転。普段からそれなりに制限速度をオーバーしていた。飛ばし屋じゃないのでオービスのことなど頭にない。今回、ちょっと事情があって少し強くアクセルを踏み、オービスのストロボを浴びた――

貧富の差がひろがり、高級車がよく売れているとか聞く。それで速度50以上だけがプラスになっているしたら、なんというか、うーん、唸ってしまう。

さてさて、今回は、“富裕層の速度違反”ともいうべき速度50以上、そいつで捕まるとどうなってしまうのか、という話をしよう。

■一発で90日の免停処分

運転免許の行政処分は“罰”ではない。危険性の高い運転者を交通の場から排除することを目的とする。違反点数は、危険性の高さを測るモノサシといえる。

速度30(高速道路等では40。以下同)未満の違反点数は1~3点。速度30以上50未満は6点。速度50以上は一般道も高速道路等も一律12点だ。12点は、累積点数0点、処分の前歴0回でも、一発で90日間の免許停止処分(以下、免停)の基準に該当する。

90日以上の免停および免許取り消し処分(以下、免取り)の場合、処分の前に「意見の聴取」の手続きがある。処分対象者に弁明をさせ、有利な証拠があれば提出させる手続きだ。これにより、ワンランクダウン、つまり90日免停が60日免停になることがある。

免停中は運転の資格がない。運転すれば無免許運転になる。無免許の違反点数は25点。免停中に無免許で捕まった場合、免停処分の執行を受け終わっていないので、もとの12点に25点がプラスされる。合計37点、欠格期間3年の免取り処分を改めて執行される。

■短縮講習は2日間、2万3400円

停止期間は、「停止処分者講習」(以下、単に講習)を受けることで短縮される。90日免停の講習は、2日間、合計12時間、2万3400円。多くは停止期間が45日間、短縮される。なのでこれは“短縮講習”と呼ばれたりする。いつどこで何時から講習があるか、案内のハガキがくる。

警察庁の2022年の統計によれば、90日以上の免停処分は3万3089件。短縮講習を受けたのは1万8659人、半分ちょいだ。ちなみに、同年の30日免停は11万9399件。短縮講習(6時間。1万1700円。最大29日間短縮)を受けたのは10万5834人。受講率は9割に近い。やっぱりねえ、90日以上の短縮講習は2日間、12時間だし、受講料が高いし、結局かなり長く運転できないんで、受講者が少ないんだろうね。

■罰金前科か懲役前科

次に、刑事処分だ。速度50以上は「反則金」(軽い行政罰)では済まない。「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」の対象とされる。以下は刑法だ。

(刑の種類)
第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

懲役も罰金も、刑法に定められた刑罰であり、前科になる。前科1犯だ。速度50以上は、「窃盗」や「覚醒剤取締法違反」や「強制わいせつ」と同じく、一般犯罪の仲間なのである。なぬ、「前科」なんて語はない? 確かに刑法にも刑事訴訟法にも「前科」という語はない。が、裁判にはしょっちゅう出てくる。「被告人は道路交通法違反の罰金前科1犯…」といった形で。

懲役刑と罰金刑、その分かれ目はどのへんか、という点については以下の記事をご参照いただければ。

参考記事:「とある野球選手」が超過80キロのスピード違反。贖罪寄付100万円も、懲役刑に

100キロオーバーも200キロオーバーも、違反点数の上限は12点、刑罰の上限は懲役6月だ。軽過ぎでは? という点については以下の記事をご参照いただければ。

参考記事:無免許、飲酒、速度違反…速度違反だけが厳罰化されない。なぜ?

毎度言うけど、速度が高いと事故りやすく、事故った場合の被害が甚大になる。そこは肝に銘じてくださいね。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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