2023/08/23 コラム

宮城県はゼブラゾーンを走ったら違反なの!? 「ゼブラゾーン車輪かけ違反」とは

ゼブラゾーン。「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」に出てくる「導流帯」のことだ。「車両の安全かつ円滑な走行を誘導する必要がある場所」に、白い斜線のペイントで設けられる。あのゼブラゾーンをクルマで走っても違反じゃない、はずなのだが…!

道路の『ゼブラゾーン』車で走行するのは交通違反?警察に聞いてみると意外な事実が『県で違っていた』」と8月19日付けTBS NEWS DIGが報じた。こうだ。

◆◆◆記事より引用◆◆◆

ゼブラゾーンは、道路交通法17条6項の「車両は、安全地帯又は道路標識等により車両の通行の用に供しない部分であることが表示されているその他の道路の部分に入つてはならない」の「安全地帯」や「立入禁止場所」とは異なり、道路交通法上、走行が禁止されておらず、処罰の対象でもなかったのです。

しかし、宮城県公安員会が定めた道路交通規則第14条(4)では、「ペイントによる道路標示の上にみだりに車輪をかけて、車両を運転しないこと」とあります。

つまり、宮城県では、ゼブラゾーンの上をむやみやたらに走行することは禁止されているのです。

◆◆◆引用終わり◆◆◆

まじっすか!? 「宮城県道路交通規則」を見てみた。以下はその第14条の柱書き(はしらがき)と、第12号まであるうちの第4号のみだ。

◆◆◆引用はじまり◆◆◆

(運転者の遵守事項)
第14条 法第71条第6号の規定により、車両の運転者は、車両を運転するときは、次の各号に掲げる事項を守らなければならない。
(4)
ペイントによる道路標示の上にみだりに車輪をかけて、車両(牛馬を除く。)を運転しないこと。

◆◆◆引用終わり◆◆◆ 

なるほど、確かに! 路面は「ペイントによる道路標示」だらけといえる。何か踏んだらソク違反なの? いや、「みだりに」とある。青信号で交差点に入るとき停止線を踏むとか、横断歩道を通過するときそのペイントを踏むとか、そういうのは当然セーフと解される。

「路面標示の上に…車輪をかけて…運転しないこと」という。なぜわざわざ「車輪」というのか。積雪時のチェーンやスパイクタイヤでペイントが傷むのを心配したとか?

そこで宮城県警に電話してみた。第14条第4号がなぜ定められたのか、すぐにはわからないが、交通流が安全、円滑になるよう導流帯があるわけで、その導流帯に従ってもらいたいという理由もあったのではないか、とのこと。なるほど。

定かなことを知るには、この規則の“元帳”とでもいうものを探し出し、第14条第4号がいつ制定されたか調べ、当時の県議会議事録に当たるしかないか。議事録には言及がない可能性があるけれども。

それでだ、規則第14条の柱書きにある「法第71条」とは、道路交通法第71条をいう。以下は、道路交通法第71条の柱書と、第6号まであるうちの第6号のみだ。

◆◆◆引用はじまり◆◆◆

(運転者の遵守事項)
第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
 六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項

◆◆◆引用終わり◆◆◆

宮城県の公安委員会が「必要と認めて定めた事項」の1つが、第14条第4号、「ゼブラゾーン車輪かけ違反」の規定なのだ。これに違反すると、道路交通法第71条の違反、すなわち「公安員会遵守事項違反」に当たる、そういう組み立てだ。反則金は、大型車=7千円、普通車、二輪車=6千円、原付車=5千円。違反点数はナシ。

今ざっと調べたところでは、「ゼブラゾーン車輪かけ違反」の規定は、宮城県だけかも。このニュース、もとは東北放送らしい。よくこんなのに気づきましたね。私は知りませんでした。勉強になりました。

「っておい! そんな珍しい違反で取り締まりを受けるのは納得いかんぞ!」

そうおっしゃる方がおいでだろう。刑法第38条第3項がこう定めている。

「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」

誰も知らないルールでも有罪は動かない、けど刑は軽くするよってことだ。現実には、よっぽど悪質なケースでなければ取り締まらないんじゃないか。

私は以前、ある刑事裁判で「左側の通行帯が交差点手前で左折専用になった場合、原付バイクがそこを直進しても取り締まらない。注意ですます」という話を聞いたことがある。全国一律かわからないが、基本的には注意ですます違反がいくつかあるそうだ。「ゼブラゾーン車輪かけ違反」もそのひとつ、かもしれない。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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