2022/12/19 新車

440万円の価値はあるか? BYD ATTO3(アット3)のマルとバツ

試乗車は豪州仕様で日本のナンバーを取得した車両だ

■フル装備でこの価格

バッテリー電気自動車(BEV)の世界販売でテスラを猛追するBYDが、いよいよ2023年から3車種を擁して日本の乗用車市場に参入する。1月31日に発売される第1弾は「ATTO3」(アット3)。注目の価格は消費税込みで440万円だ。

日本勢で世代の新しいBEVでは、最安の日産アリアB6(前輪駆動)で539万円。手ごろな価格もウリだったテスラ モデル3も、今やスタンダードが600万円近くする。アット3は安いかといえば確かに安い。


●ボディの全幅はCセグメント最大級で、1クラス上に匹敵する。ダイナミックでシャープなウエストラインは、BYD グループの一員であるTATEBAYASHI MOULDING 株式会社が持つ熟練の金型技術によって実現

ただ、もっとインパクトのある値札を期待する声もあった。安さの点なら、日産リーフは世代が新しいとはいえないものの、同等のパワートレーン性能で約423万円(e+X)からと、さらに求めやすい。

しかし、装備内容が違うのだ。アット3は今どきのBEVでほぼ当たり前のナビゲーションや前席シートヒーターはもちろん、12.8インチのタッチスクリーン(電動回転式だ!)、前席パワーシート、PM2.5空気清浄システム、パワーテールゲート、パノラマサンルーフ、アラウンドビュー、ドライブレコーダー、タイヤ空気圧モニタリングシステム、スマホのワイヤレス充電、前後席に2つずつのUSBなどなど、高価格車並みのアイテムを標準で備える。先進運転支援システム(ADAS)も例外ではない。


●リヤクオーターのデザインは空力効果を狙ったものではなく、龍のウロコをイメージしたもの。中国っぽい

さらに、V2HとV2Lの給電機能も搭載。国の補助金が2023年も同じ条件なら、満額に近い85万円が受けられる見込みだ。

一番肝心な走りの面でも十二分なスペックを備える。BEV専用プラットフォームに搭載するBYD独自のリチウムイオン式「ブレードバッテリー」は、総電力量58.56kWh。前輪を駆動する205馬力・31.6kgmのモーター動力、WLTCモード485㎞の一充電走行距離は、競合車にまったくヒケをとらない。同じく電費も144Wh/㎞と高効率。バッテリー温度を一定に保つマネージメントシステムを備えるなど、信頼性も抜かりない。

今日、我々の身の回りにあふれる「Made in China」と同じように、スペックから見たコストパフォーマンスの高さは圧倒的なのだ。

では、実際の出来映えは!? 日本仕様発表の前にチャンスを得たデモカーの試乗は、もちろん興味津々だった。

■細かい部分が気になるが…

試乗車は先行販売されている豪州仕様。ADASは日本向けに調整されていないが、そのほかは内外装を含めて日本仕様もほぼ同じだ。フル装備の1グレード設定だが、最上級のみを日本に導入するのではなく、中国やタイなども基本的にこの仕様とのことである。

外観は全幅がミッドサイズ並みにワイドなスタイリッシュフォルム。さらに目を惹くのはコックピットで、“フィットネスジム×音楽”がモチーフのデザインはかなり個性的だ。日本のユーザーには好き嫌いが分かれるかもしれない。


●インテリアは“フィットネスジム×音楽”をモチーフにデザインされており、トレッドミルに着想を得たセンターアームレスト、ハンドグリップを想起させるドアハンドルのほか、弦を弾くと音を奏でるドアトリムなど。メーターは5インチのフル液晶

モーターの動力性能はクラスの相場。奇しくも最高出力・最大トルクは、国内デビューしたばかりのアウディQ4 eトロン/フォルクスワーゲンID.4(こちらは後輪駆動)とまったく同じだ。

3Lガソリン並みのトルクを発進と同時に発揮する力強さは、スペックどおり。印象的なのはパワートレーンの洗練さで、スポーツモードでも“いかにも”といったハイレスポンスではなく、自然で滑らかな加速を味わわせる。2段階の調整が可能な回生ブレーキも効きは穏やか。インバーターなど電気系のノイズはまったく耳に入らない。普段使いの運転しやすさや快適性、質感の高さといった実用性能を重視した味付けだ。


●センターディスプレイは回転式

シャシーも同様で、乗り心地は明らかなコンフォート志向。路面からの細かい突き上げを前ストラット/後マルチリンクのサスペンションがソフトに吸収する。

だが、路面のうねりや大きめの凹凸にはボディの姿勢が影響されやすく、バネ下の振動も収まりが今一つ。路面変化に対してよく動くサスペンション、というわけではない。

ステアリングは操舵力が比較的軽く、ギヤ比もごく標準的で扱いやすい。クラス最大級のワイドトレッドと相まってロール剛性は粘りがあり、公道を走る限り操縦安定性もしっかり確保されている。ステアリング特性はゴリゴリのリヤスタビリティ重視。


●前輪駆動だがヒルディセントコントロールを搭載する。ドライブモードはノーマル/エコ/スポーツの3つ。回生ブレーキはスタンダード/ハイの2段階で調節可能

それはいいのだが、ペースを少し上げるとフロントの接地感がつかみづらく、レスポンスに曖昧なところが出てくる。また、ブレーキは踏力が軽いうえ、初期の効きが少し過敏なきらいがある。

個人的には運転席のシートも気になった。はじめはソフト志向の座り心地で好感触だったが、しだいに座面の面圧が後方に偏ってくる。長時間の乗車ではお尻が痛くなるかもしれない。また、シート一体型のヘッドレストは前方への張り出しが大きく、後頭部に軽い圧迫感を覚えた。


●ボンネット下にはモーターなどを搭載。ATTO3は前輪駆動車だ。ちなみにBYD E-CALL(事故自動緊急通報装置)も搭載。OTAリモートアップデートを採用予定

一皮むくともの足りなさを覚えるシャシーやシートの基本性能。かつては日本車もそうだった。そのレベルアップが一朝一夕にいかないことは、動力源がエンジンからモーターに換わってもきっと同じに違いない。電気とは違うモノ造り、クルマ造りの領域である。

それでも、手ごろな価格でハイスペックを求めるコスパ重視のBEV選びなら、アット3は断トツの第一候補に挙がる。そして、多くの国内ユーザーがBEVを手にする将来のことを考えれば、BYDが極めて大きな潜在力を秘めていることは間違いない。

アット3は日本仕様でADASを含めた実力をあらためて試したい。そして、中国製BEVに対する国内ユーザーの反応も非常に興味深いのだ。


●後席はオーソドックスな6:4の分割可倒式

〈文=戸田治宏 写真=岡 拓〉

ドライバーWeb編集部

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