2021/01/18 コラム

戦後間もなくタクシーでも大活躍!? ビートルことVWタイプ1を振り返る【1964年特集Vol.26】



ミニを20年以上上まわる空前説後のご長寿モデル



MOTORのロードテストは正統派の真面目な論調で、ワーゲンの特徴を細部までリアルにレポートしている。
いわく、突然オーバーステアが強まるRRの操縦性は、普通のドライバーにとってはスリリング。ハンドルの切れ味は第一級で、ギヤチェンジも優秀。空冷の水平対向エンジンは経済的かもしれないが、最高出力の発生回転は3600と低く、性能的には1.2リットルクラスとして貧弱。半面、ピストンスピードが低くエンジンに無理がないため、16万㎞までオーバーホールの必要がない。信頼性は年ごとに高くなり、競合他車に比べはるかに長寿命と言われる。機械部分まで含めて仕上げの基準が高いことは、何度繰り返してもよいくらい。短所もあるがこうした長所によって、ワーゲンは他車がスタイルや設計を変更するよりも大きな力で、多くの人々を虜にしてきた――。


●フォルクスワーゲン タイプ1

一方、“ヘンな”試乗記では、渋谷氏と友人2人が同乗する体の面白おかしなやりとりで、タイプ1を国内ユーザーの視点から考察している。
「『ワーゲンぐらい、ファミリーカーの中でブリキ細工の感じがしない車は、珍しいね』」
「たっぷりした、ゼイタクな車なんだな。(中略)一見質素、じつは“檜柾無ぶし”の特級材で木組みをした旧家の離れみたいなクルマ。隅々まで気を使ってあるくせにオットリしてる」
「『伝統と歴史かねえ』と、B君は30年も前に設計されたワーゲンにイカれたような声を出す」


●フォルクスワーゲン タイプ1

タイプ1が成功したVWは、トランスポーターのタイプ2(1950年)、スポーツクーペのカルマンギア(1955年)と、タイプ1をベースにバリエーションを拡大。タイプ1の世代交代をにらんで、61年にはモダンな2ドアセダンのタイプ3を、68年にはワゴンタイプのタイプ4を加えている。


●タイプ2


●カルマンギア


●タイプ3 スクエアバック


●タイプ4

しかし、先に姿を消したのは、その後継車たち。タイプ1は排気量拡大などそれなりの進化を続けながら、1974(昭和49)年に初代ゴルフが登場すると主力の座を譲り、1978(昭和53)年ついにドイツでの生産を終えた。しかし、南米ではさらに生産が続き、何と2003(平成15)年までメキシコ工場から世に送りだされた。

プロトタイプの完成から60年有余年。ミニを20年以上上まわる空前絶後の長寿は、まさに旧家の離れの例えのように、旧式でもどっしり頑丈で時代に流されない味わいがあり、手入れをしながら末永く暮らしたいと思う古民家のような魅力があったからかもしれない。

タイプ1の伝統はニュービートル(1998年)で復活、ザ・ビートル(2011年)に受け継がれた。が、その末裔も2019年に生産終了。永遠に続くとさえ思われたビートル劇場は、80年でついに幕を下ろした。

そして2020年、VWの次世代を担う電気自動車(EV)戦略の先鋒として、ID.3が本国で注目のデビュー。いよいよワーゲンのEV攻勢がやってくる。


●ID.3

〈文=戸田治宏〉

【driver 1964年9月号】




ドライバーWeb編集部

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