2020/08/12 モータースポーツ

【ラリー・ジャパン前に覚えたい!】今さら聞けない!? 専門用語解説 シリーズ戦やカテゴリーってこんなにあったの?【連載第1回:現役ラリーストが解説するラリーワード集】


サーキットのレースと違い、公道を使って行うラリー。その特殊な競技形態ゆえに、普段使わないような言葉や単語がラリーの世界では使われている。そんな専門性の高いラリー用語を、現役ラリーストが解説してくれることになった。解説するのは、YouTubeの「driver channel」で楽しい動画を提供してくれている川名 賢選手だ。

素人でもわかりやすい、連載「現役ラリーストが解説するラリーワード集」。第1回目は、ラリーの種類やラリーカーのカテゴリーから見てみよう!


ラリーのシリーズってこんなにあるのです



世界には、WRC(その名のとおりラリー好きなら誰もが憧れる「ワールドラリーチャンピオンシップ」)を頂点に、FIA(世界自動車連盟)が統括する地域ラリー選手権が数多く存在します。まずはラリー用語の第1弾として、この地域選手権を全部並べてみたいと思います。

WRC ヤリス TGR
●WRCは世界中すべての選手権の頂点に君臨する、最高峰のラリー選手権だ


AFRICA(アフリカ)
ASIA-PACIFIC(アジアオセアニア)
CODASUR(南アメリカ)
EUROPEAN(ヨーロッパ)
EUROPEAN RALLY TROPHY(ヨーロッパ)
MIDDLE EAST(中東)
NACAM(北中央アメリカ)
RGT CUP(ヨーロッパ)
<アルファベット順>


はい、こんなにあるんですねー! もはやアメリカ地域は読み方すら危ういです(笑)

このなかでも有名なのが、EUROPEAN Rally Championship(ERC)やASIA-PACIFIC Rally Championship(APRC)じゃないでしょうか。ヨーロッパでは、IRC(インターコンチネンタルラリーチャレンジ)というシリーズもありましたね。これらのラリーは日本人が参戦した経緯もあり、耳にしたことがある方も多いのではないかと思います。じつはこのボクもERC(2013年/2014年)、APRC(2019年)に参戦しております(エッヘン!)。現在は、新井大輝選手(シトロエン C3 R5)がERCで活躍中です。アフリカ選手権は三好秀昌選手が日本人で初のチャンピオンを獲得したこともありますね!

新井大輝 シトロエン C3 R5
●新井大輝選手がヨーロッパで駆るシトロエン C3 R5。Rally2のマシンだ

ERCは1953年発足と歴史が非常に長いのですが、一時期衰退してしまい、その代わりにIRCができました。このIRCはツールド・コルスやキプロスなどの伝統的なラリーを選手権に取り入れ、さらにメディア(ユーロスポーツという放送局)が力を入れて盛り上げたため、ERCが影をひそめる状態になったのです。そこでERCを再度盛り上げるために、関係者がIRC側と話をして、IRCとERCを統一し、今のERCになったのです。

IRCとの統一は成功しERCも盛り上がっていきました。どんどんヨーロッパ広域に拡大し、「俺たちもERCでやらせてくれー!」という主催者が続出。結果としてロジスティックスに非常にお金がかかる選手権になってしまい、今では全盛期に比べて衰退気味になってしまいました。これに代わってできたのが、EUROPEAN Rally Trophy(ERT)です。

このERTはヨーロッパを7地域に分けて争われ、今年はファイナルがドイツで開催される選手権のようです。近年結構盛り上がりを見せてきているので、有名なラリーは飽きたという方にはお勧めの選手権ですよ!

RGTカップは、アストンマーチンやアバルト124、ポルシェなどが走るスーパーカー系のラリーで、これまた最近発足した選手権です。ヨーロッパが中心で開催されていますね。

R-GT アルピーヌ A110
●R-GTクラスは名だたるスポーツカーが走る。最新マシンはこのアルピーヌ A110だ

とまぁこんな感じでたくさんのラリーが世の中にあるわけですね!
さらに、国内選手権(全日本ラリー選手権など)や国内地域選手権(北海道/東日本/中部ラリー選手権等)と細分化されていくのです。

日本だけでも年間200戦くらいのラリーが開催されているんですよ!これちょっと驚きの数ですよね。

じつはたくさん開催されているラリー、皆さんはいくつ知ってましたか?


WRCにおけるクラス分け



WRCのクラスはWRC1/2/3/Jrと、大まかに4つあります。

WRCと言えば、WRC1(トッププロ)のクラスですよね。世界のみんなが憧れるF1と同等とされているクラスで、WRカーと呼ばれる最先端の技術を駆使して作られたマシンが走るクラスです。馬力も380馬力と最高スペックを誇り、でっかいウイングでレーシングカーのようなダウンフォースを生み出します。いわばマシン開発のためのカリカリチューンの車両が走るトッププロクラスですね! 日本人では勝田貴元選手が久しぶりの日本人WRCワークスドライバーとして、トヨタ ヤリス WRCでがんばっていますね!

トヨタ ヤリス WRC
●現在の最速マシン、トヨタ ヤリスWRC

次にWRC2(プロ)です。このクラスはメーカーのワークスチームがWRカーの1つ下のカテゴリーのRally2というマシンを走らせるクラスです。将来的にWRC1を狙っているハングリーな選手が出場するクラスで、マシンパワーは300馬力に満たないものの、数年前のWRカーと同じようなフォルムのマシンが走るクラスです。Rally2カテゴリーのマシンはレギュレーションの制約が厳しく、いわばドライバーの腕が試されるクラス。勢いと経験のあるドライバーたちがしのぎを削る、コアなラリーファンにはたまらないクラスですね!

勝田貴元 ヤリス WRC
●トヨタGAZOOレーシングのワークスドライバー、勝田貴元選手もR5マシンからステップアップした1人。ラリー・スウェーデンでクラス優勝を飾っている

そしてWRC3(プライベーター)。こちらはWRC2と同じくRally2マシンを使用するのですが、ワークス登録のないプライベーターチームが出場できるクラスです。このクラス、ボクの将来の目標のクラスでもあります(ここだけの話ですw)。ワークス入りするためにこのクラスで頭角を見せる若手がいたり、夢を叶えたジェントルマンたちが出場できるクラスです。

WRC2 ヒュンダイ i20R5
●WRC2と3は、Rally2マシンによる拮抗したバトルが見られる。写真はヒュンダイのRally2マシン

最後にJr,WRC(若手育成)です。1990年1月生まれ以降(2020年現在)の若手ドライバーが、前輪駆動、200馬力のフォード フィエスタR2をドライブして争うワンメイククラスです。マシンはセットアップ以外は完全イコールコンディションで、気合と根性とテクニックを駆使して鉄砲玉のように若手が走り抜ける、非常に見ごたえのあるクラスです。セバスチャン・ローブなどもこの選手権出身なんですね。ボクももう少し若ければこの選手権に出場できたのになー(泣)

こうしてみてみると、WRCもいろいろなクラスがあって面白いですよね!


ラリーカーのカテゴリー分け



WRCの車両(人間力)カテゴリ
WRカー及び、グループRally2〜5とあり、それぞれ駆動方式や排気量、人間力によってクラスが分けられています。なお従来は数字が大きくなるほど速いマシンでした(例:Rally2=旧R5、Rally4=旧R2等)が、2020年からフォーミュラと同様に速くなれば数字は小さくなる方向で統一されました。

WRカー(RC1クラス):380馬力/1600cc/4WD:雲の上の人たち
Rally2(RC2クラス):280馬力/1600㏄/4WD:いろいろな意味で成功者
R3(RC3クラス):230馬力/1600cc/2WD:ガチなジェントルマン
Rally4(RC4クラス):200馬力/1200cc前後/2WD:ガチな若者の登竜門クラス
Rally5(RC5クラス):150馬力前後/1200cc前後/2WD:ラリー車入門クラス

VW ポロ R5
●フォルクスワーゲンの最新Rally2マシン「ポロGTI R5」。WRカーでの経験と、グループ内のシュコダワークスのノウハウが詰め込まれている

JRC(全日本ラリー選手権)
せっかくなので日本のトップのラリーも見てみましょう。
JRCは九州から北海道まで、10戦/年ほどから成り立っています。クラスはJN1/2/3/4/5/6とあり、JN1はWRXやランサーのクラス、JN6はCVTやAT車限定のクラスと、色々な車両が走っています。WRCを走っているRally2やRally4のマシンたちも近年出場が増えてきています。2017年と18年は、ボクもR3のシトロエンでJRCを戦っていたんですよ。

三菱 ランサー エボリューション JN1
●JRCのトップクラスJN1を走る、三菱 ランサーエボリューションX

トヨタ ヤリス ラリーカー
●JRCでは新型ヤリスもラリーデビュー。JN5と6クラスでエントリーしている



●川名 賢 かわな すぐる
2019年FIA APRC3クラスでチャンピオンを獲得した、現役のラリードライバー。APRCやERC、ヨーロッパの国内選手権、JRCなどさまざまなラリーに参戦し活躍する、国内トップクラスのドライバーだ。最近はドライビングレッスンを主催するなど、ラリー以外にも活躍の場を広げている。
オフィシャルWebサイトはこちら→https://sugurukawana.net/

<写真=山本佳吾 Keigo Yamamoto>


ドライバーWeb編集部・青山

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