2023/10/13 コラム

自転車違反のペナルティは「違反金」か「反則金」か。警察庁が立ち上げた有識者検討会の報告書を警察庁自身が否定…前代未聞の内紛が?

自転車違反金の導入は警察庁が否定した

2023年9月25日(月)、自転車の交通違反の指導・取り締まりが全国一斉に行われた。9月21日(木)から30日(土)までの10日間、「令和5年秋の全国交通安全運動」がおこなわれ、その一環として実施された。

ちなみに、高齢の方は交通安全運動を「交通安全週間」と言うことがある。そこんとこ、『月刊交通』(東京法令)2007年臨時増刊号「交通局発足45周年記念 交通警察のあゆみ」に興味深いことが載っていた。

1948年 12月10日から7日間、国家地方警察本部(警察庁の前身)が「全国交通安全週間」を実施。
1951年 期間を10日間とし、「全国交通安全旬間」と改称した。
1961年 「全国交通安全運動」に改称。

多くの人は「旬間」なんて耳慣れない言葉を使わず「週間」と呼び続け、「運動」になってからも「週間」と呼ぶ人が多いのかもね。どうです、テレビのクイズ番組に出そうでしょ。

■自転車違反の都道府県トップは「大阪」

さて、自転車違反である。その取り締まりの違反別、都道府県別のデータを私は2006年分から、情報公開法により開示請求し、手数料を払ってゲットし続けてきた。

2022年の「検挙件数」つまり取り締まり件数は、全国で2万4549件。2006年は、信じられないだろうが、585件ぽっちだった。警察庁でコピーさせてもらった過去データでは、1996年なんかたった10件だよ、10件! 2006年に「自転車の取り締まりを強化すべし」旨の通達が発出されてから、どんどんどーんと、異常なほど激増したのだ。

2022年の取り締まり件数の、都道府県別のトップ3を見てみよう。

1位 大阪  6106件
2位 東京  4785件
3位 兵庫  4643件

3千件台も2千件台もナシ。4位は千葉で1974件だ。一方、青森、岐阜、沖縄など16県は1桁だ。秋田、山形、群馬、長野、徳島の5県はゼロ。いくらなんでも差が極端だ。現場警察官に重いノルマを課した都府県と、そうじゃない道県があるってことか。違反別のトップ3はこうだ。

1位 信号無視 1万2498件
2位 指定場所一時不停止 4679件
3位 しゃ断踏切立入 3880件

信号無視は全体の約51%を占める。その信号無視を都道府県別で見てみよう。丸カッコ内は、各都府県の取り締まりに占める信号無視の割合だ。

1位 大阪  4586件(約75%)
2位 兵庫  3628件(約78%)
3位 東京  3063件(約66%)

取り締まりが特に多い都府県は、信号無視に重点をおいてるんだね。

■異常なほど自転車違反の取り締まりが増えたのはなぜ?

ご存知のとおり、自転車の違反には青切符&反則金(行政上の軽いペナルティ)の制度が適用されない。信号無視も一時不停止も、クルマ・バイクの飲酒運転、無免許運転と同様に、赤切符&罰金(刑事罰)の対象となる。明らかに不公平だ。

したがって検察は、よっぽど悪質なケースしか起訴しない(=罰金を科さない)。自転車違反の起訴率は1~2%だという。いくら取り締まっても、どうせ不起訴。警察官たちは「重いノルマを課されて尻を叩かれ、アホらしい」と、徒労感を味わっているんじゃないか。検察にも徒労の後始末をさせることになる。

ああ、それなのに、警察は近年、自転車違反の取り締まりを異常なほど激増させたんである。なぜ? こう言いだすために、としか考えられない。

「自転車の悪質、危険、迷惑な運転は目に余る。事故防止のため厳しく取り締まっているが、現在の制度では、ほとんどペナルティを課す(科す)ことができない。運転免許がない自転車には、新たに少額の違反金制度を導入すべきだ。」

2020年に警察庁は「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」を設けた。この種のものは、検討の前提となる資料を主催者(省庁)が用意し、省庁が望む結論へ導いて「有識者の先生方の貴重なご意見をいただきました」との形をつくる、そういうものだという。2021年4月の中間報告にも、12月の最終的な報告書にも、こうあった。

「自転車の違反に対する刑罰的な責任追及が著しく不十分なものにとどまっている状況を踏まえれば、指導取締りについては、刑罰に代わる少額の違反金を課すなど、非刑罰的な手法も含め、違反の抑止のために実効性のある方法を検討すべきである。」

「刑罰に代わる少額の違反金」、おおう! 私は興奮した。言いぶりからして、反則金ではなく、放置違反金ならぬ「自転車違反金」制度を導入するのだな。駐車違反と同様、自転車の取り締まりも民間委託するのだな。ここまで長かったなあ。現場の警察官諸氏よ、お疲れさんでした。

■「自転車違反金」を警察庁が否定

ところが、びっくり仰天! 同じ2021年12月の23日、警察庁が「自転車違反金見送り」と時事通信が報じた。記事によると、報告書も同じ23日付けらしい。自分たちが集めた有識者の検討会の、最終的な報告書、その発表の当日に、警察庁(の幹部?)が内容を否定する報道が出るって、前代未聞、あり得ない! 他の省庁の方々は腰を抜かしたでしょ。

そうして警察庁は、また有識者の検討会を立ち上げた。なぜこんなみっともないことに? 私はねえ、可搬式オービスにからんで警察庁内に“内紛”があるんじゃないかと見ている。そこはディープな話になる。いずれまた。とにかくね、今後いったいどうなっていくのか、ドキドキ、目を離せない。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通違反以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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