2023/07/29 コラム

プロゴルファーが北海道でスピード違反を否認、この先どうなる?

スピード違反を否認しているようだが?

「男子ゴルフの杉山知靖プロ スピード違反の疑いで逮捕『94キロという速度は納得できない』と否認 北海道苫小牧市」と7月17日、HBC北海道放送が報じた。私の専門分野だ。少しコメントしよう。ニュース記事にこうある。

「道路交通法違反(速度超過)の疑いで逮捕された杉山容疑者は、17日午後4時すぎ、苫小牧市高丘の国道276号線を、制限速度50キロのところを44キロ超える、時速94キロで乗用車を運転した疑いが持たれています。」

「スピード違反で逮捕できるの?」「逃亡や証拠隠滅のおそれがあったの?」と思う方がおいでだろう。私は以前、主にメールと掲示板で、交通違反・取り締まりについてのご質問・ご相談に対応してきた。2000年から2012年にかけて新規だけで約4200件。大変だったが勉強になった。ありがとうございます。

ご相談の中に、現行犯逮捕されたケースが複数あった。黄色いセンターラインを「またいだ」「またいでない」でモメ、現行犯逮捕されたケースもあった。以下は刑事訴訟法。第212条については第1項のみだ。

第212条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。 ※「何人」は「なんぴと」と読む。

逃亡や証拠隠滅のおそれとは関係なく、罪の重さとも関係なく、現行犯ならソク逮捕できるのである。

参考記事:待ち伏せ取り締まりの罠にハマり、素敵な若奥さんがブチ切れ。違反切符を破いた理由とは

ただし、「違反を否認したらソク逮捕」「違反切符への署名押印を拒否したらソク逮捕」というものではない。現場で取り締まりを撤回させようと頑張る、感情的になってモメる、そういう場合に交通違反での現行犯逮捕はあり得る、という感じか。次に、ニュース記事のこの部分。

「当時、現場では、スピード違反が疑われる車に、レーダーを照射して速度を測定する、取り締まりが行われていました。」

測定方法がレーダー式か光電式か、はたまたスキャンレーザー式か、一般の視聴者にはどうでもいい話だろう。なのになぜわざわざ「レーダーを照射して」と言及したのか。そういえば北海道警察は2020年に、「レーザー」を照射しての速度取り締まりで大変なことを経験した。あれを踏まえての、今回の言及なのかなあと私は深読み。

参考記事:ベテラン警部補が速度データ偽造を繰り返して逮捕…レーザーパトカー「LSM-100」の実績を上げるため?

「レーダーを照射して」の速度取り締まりは3種類ある。

1、昔ながらの、いわゆるネズミ捕り
2、外国製の「トラッキングレーダー式」の可搬式オービス
3、パトカーの屋根に搭載した「JMA-401A」

1番を私は過去に17件、傍聴した。2番は、同じメーカーの固定式(心臓部は可搬式と同じ)の否認裁判を1件傍聴したのみ。3番はもちろん未傍聴だ! これは私の“勘”、sixth sense だが、2番か3番、特に3番の可能性が大いにあるねっ。

参考記事:前後の速度測定可能な高性能レーダーパトカーが登場…北海道、日本無線の「JMA-401A」を採用

次に、ニュース記事のこの部分である。

「取り調べに対し、杉山容疑者は『67キロしか出していない、94キロという速度は納得できない』と容疑を否認しています。」

「うむむ?」と私は感じる。一般道路では超過速度が30キロ以上だと赤切符、違反点数は6点で、30日間の免許停止処分とされる。超過30キロ未満は1~3点だ。なので、制限50キロの道路を、80キロより少し低い速度で走る人はよくいるようだ。

ところが本件は「67キロしか出ていない」。「制限速度以下だとあおられたりして、かえって怖い。20キロ以上超過しなければ捕まらないだろう」と思っていたのか。なんにしても、67キロと94キロは差が大きい。「勘違いだった」で一件落着するような差じゃない。うその否認じゃないような気がする…。

杉山知靖プロが否認を撤回すれば、略式の裁判手続きで罰金7万円か8万円とされ、すぐ終わる。否認を貫いたらどうなるか。釈放後、公判請求(正式な裁判への起訴)をされる可能性は高い。警察、検察からすれば、真っ向否認して全国報道された有名人を不起訴とするのは、治安上よろしくないだろうし。

苫小牧を管轄するのは札幌地裁だ。私としては見逃せない! スピード違反の否認裁判は、少なくとも4回は公判を重ねるだろう。東京から札幌へ通うのかあ。ニュース報道を見て私は直ちに、高速バスの料金を調べた。1万円を割るけど、約17時間って、無理っす。やっぱりピーチ航空かなあ。ピーチ航空は、札幌高裁でオービス裁判(原審無罪)の控訴審判決を傍聴したくて、乗ったことがある…。

いや、ちょっと待て! 別の報道によれば杉山知靖プロは横浜在住だという。そういえば私は東京地裁で、北海道の日高市内のオービス(三菱製)の否認裁判を傍聴したことがある。制限60キロで超過31キロ(測定値91キロ)。被告人は東京在住。検察官は北海道の警察官3人を呼んで尋問した。被告人のうそや勘違いとはどうも思えなかったが、判決は罰金6万円だった。

罰金数万円(上限は10万円)の事件で「違反場所が北海道だから裁判は北海道で行います。被告人は毎回北海道へ通ってください」とやれば、普通の人は「勘弁してくれ。測定値を認めるから、とっとと罰金を払わせてくれ」となるだろう。いかにもマズイ。本件の裁判は横浜地裁で行われるはず!

横浜地裁なら往復2000円かからない。楽に通える。通ってぜんぶ傍聴し、レポートしよう。ニュース記事を見て、直ちにそう決意する、私は交通違反マニアであり裁判傍聴マニアなのである。とほほ。

ただ、杉山知靖プロは何も知らず――知らないのが普通だ――あきらめて略式に応じてしまうかもしれない。略式で罰金の支払い命令(略式命令)が出たあと、14日以内に「略式の結果には不服だ」と正式裁判を請求できるが、それも普通は知らない。知っても、あれこれ勘案してあきらめてしまうのは、やっぱり仕方のないことだろう。長くなってしまった。とりあえずそんなことで。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通違反以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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