2023/07/16 コラム

免許不要の電動キックボードだから大丈夫…なわけない!酒気帯び運転でどうなる?

都内を中心に見かけることが多くなった電動キックボード。写真は6月30までに展開されたモデル

7月1日から、一定の条件を満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」(以下、特定小型原付)とされ、運転免許(以下、免許)が不要になった。車両的には原付バイクのくくり(道路交通法第2条第1項第10号ロ)なんだけども、自転車と同じく免許は不要、つまり、原付バイクと自転車の中間のようなニューカテゴリーが誕生したんだね。

そうして7月11日、「19歳の男子大学生、飲酒後に電動キックスケーターを運転しタクシーに追突か 東京・池袋」と日テレnewsが報じた。

■キックボードかキックスケーターか

私は「ん?」となった。他の多くの報道は「電動キックボード」だ。警察のWebサイトでも、見つかるのは「電動キックボード」ばかり。ネット検索すると、日テレと読売新聞が主に「電動キックスケーター」としているようだ。何かあるのか?

さらに検索。「特定非営利活動法人(NPO法人)日本キックスケーター協会」というのが見つかった。「日本では公式文書等で『キックスケーター』と言う総称を正式採用しています。消費者等の混乱を避けるため正しい名称を使用して下さい」とある。へえ~、私は全く知らなかった。今後どうなっていくんだろう。

■酒気帯び運転の罰金は10万円?

それでだ、日テレnewsは要旨こう報じている。東京・豊島区西池袋で19歳の男子大学生が特定小型原付を飲酒運転、停車中のタクシーに追突した。呼気からは「基準値の倍以上のアルコールが検出され」、警察は酒気帯び運転で書類送検の方針…。

酒気帯び運転(酔っていなくても呼気1リットル中のアルコールが0.15mg以上)の罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。たかが子どものおもちゃを電動にしただけの(のように見える)ものに乗って、懲役とか罰金になるの? なるのである。道路交通法上は原付バイクのくくりなので。

検問で捕まったんじゃなく、物損事故とか起こして発覚した場合は「酒気帯び運転の危険性を顕在化させた」として、扱いが重くなる。一般予防(つまり見せしめ)の見地からも、男子学生君は起訴猶予ですまず、略式の裁判手続きにより罰金刑に処される可能性がある。

罰金の額は、普通車で初犯の場合、相場の下限は30万円のようだ。自動二輪は20万円、特定小型原付は10万円かなあ。「電動キックスケーターの酒気帯び運転、全国初の罰金刑!」と報じられるかもね。

■危険性帯有に係る免停処分とは

酒気帯び運転の違反点数は、0.15以上0.25mg未満が13点。0.25mg以上は25点。男子学生君は基準値(0.15mg)の「倍以上」だったそうた。一発で欠格2年の免許取消処分か!

いや、前出のとおり、特定小型原付の運転に免許は不要だ。免許停止や免許取消など行政処分の対象にならない。行政処分のための違反点数も登録されない。自転車と同様、点数や行政処分はセーフなんだね。

ただし、念のため言っておくと、全くセーフってわけじゃない。じつは「点数によらない処分」というのがある。「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」(道路交通法第103条第1項第8号)に該当するとして、180日以内の停止処分を食らう可能性があるのだ。

これを「危険性帯有に係る処分」という。10年ほど前、無職の年配男性が自転車で強引に斜め横断してバイクに接触、大けがを負わせて逃げたという事件があった。その年配男性は、運転したのは自転車だけども、危険性帯有で150日間の免許停止処分を執行された。数年前には、超有名な元プロ野球選手が覚せい剤で有罪判決を受け、危険性帯有で180日間の免許停止処分を執行された。

ニューカテゴリーである特定小型原付の酒気帯び運転で、危険性帯有に係る処分を警察は行うのか、そこは今のところ分からない。とにかくね、特定小型原付でなら何をやっても免停にはならない、というものではないと受け止めておくべきだろう。ま、本件の男子学生君は免許を持ってないそうで、彼には関係ないのだが。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通違反以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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