2023/06/19 コラム

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■過去にあった大麻取締法違反の「とんでも裁判」

えっと、なんの話だっけ。大麻の話だ。大麻はあちこちの国、地域で合法とされつつある。「大麻はべつに悪くない」「禁止するほうがおかしい」なんて軽く考えている方もおいでだろう。とんでもないですぞ! 私はね、もうね、とんでもない「大麻取締法違反」の裁判を東京地裁で傍聴したことがある。

レストランの料理長だった山本正光氏は肝臓がんが進行、ついに余命宣告を受けた。末期がんに大麻が有用らしいと知り、大麻由来の医薬品を使えないか、厚労省などに当たった。医療大麻の臨床実験に自分を使ってほしいと製薬会社にお願いした。必死だった。が、すべて蹴られた。

日本の大麻取締法は、第4条第1項の柱書(はしらがき)で「何人も次に掲げる行為をしてはならない。」と定め、4つのことを掲げている。うち第2号と第3号はこうだ。

 二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
 三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。

罰則は5年以下の懲役だ。一般に大麻は、使用はセーフ、所持のみアウト。医薬品については、あえて明文で施用(使用)もアウトとしている。何のための法律? 道路交通法は第1条に「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り…」と目的が掲げられている。大麻取締法にそんなものはない。目的がないのだ。

山本氏は自宅で大麻を栽培、使用した。痛みが和らぎ食欲が戻り、抑鬱的だった気分が晴れた。腫瘍マーカーの数値が劇的に下がった。医師も驚いたという。しかし違法は違法だ。大麻所持で逮捕。東京地検は起訴した。なんとか無罪を勝ち取り再び大麻をと山本氏は頑張った。証人尋問で医師は、大麻成分の医療効果は世界的に認められているとし、こう証言した。

「患者は最新の医学知識にもとづき…(適切な医療を受ける)権利がある。患者が医療大麻を要望…医者は助けないといけない…それをさせないのが大麻取締法です! 医者は患者を助けるためスピード違反しても(免責される場合がある)…しかし(大麻については)それができません!」

山本氏は車椅子で出廷した。きちっとお洒落な紳士で、穏やかに堂々としていた。けれど法廷を出ると苦痛に顔を歪めた。一般に、病気で苦しいと法廷で訴え、よろよろと病人風にふるまう被告人は、1階ロビーでは仲間と談笑しながらスタスタ歩いたりする。山本氏は真逆だった。

そうして、検察官、弁護人が最終意見を述べ、山本氏が最終陳述をする期日の、その8日前に山本氏は亡くなった。しかし私は裁判所へ行った。予定されていた期日が取消しになったと知らず、山本氏の霊が彷徨っているのではないか、可哀想すぎる、と。法廷前はしんと静かだった。

山本氏が生きて判決を迎えれば、間違いなく有罪、執行猶予付き懲役刑だったろう。その自信があるから東京地検は起訴したのだ。山本氏は無罪判決を信じ、がんなどの病気で苦しむ人たちの福音(ふくいん)になりたいと、希望を胸に亡くなったのである。合掌。

医薬品すら明文で禁じて懲役刑を食らわす、日本はそういう国なのだ。政府を批判したらある日突然行方不明になる、そんな国も世界にはあると聞く。日本国をナメてはいけない。

「友だちが大麻を持っていた。へえ~、どんなもんだか、いっぺん試してみたい。5千円ぶんだけ分けてくれ」

なんてこともあるかも。だが、その友だちは複数の友だちに大麻を有償譲渡しており、誰か1人がパトロールの警察官を見て目をそらし、職務質問、大麻所持が発覚、起訴猶予ほしさにぺらぺらしゃべり、芋づる式にあなたも逮捕…十分あり得る話だ。ヤバイですぞ!

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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