2023/05/23 コラム

シートベルトのせいで死亡事故!? 身を守るための正しい装着方法とは

シートベルトの正しい装着方法を再度確認したい

女性死亡…車のシートベルトが圧迫、運転席側の後部座席で 前の車に追突し衝撃 運転手の女、釈放される」と5月14日、埼玉新聞が報じた。埼玉県内の国道で、54歳女性が運転する乗用車が、前方を走行中の大型トラックに追突。後部座席の85歳女性が死亡したという。

タイトルに「シートベルトが圧迫」とある。記事本文には「シートベルトに圧迫されたとみられる」とある。埼玉新聞は2021年11月26日にも「信号無視バイクが…追跡するパトカーが事故 後部座席の警官4日後に死亡 シートベルトが腹を締め付けたか」と報じている。記事中にこうある。

「警部補は後部座席に乗車。腹部の痛みを訴えて救急搬送され、約4日後の24日午前1時6分ごろ、死亡が確認された。死因は敗血症性ショックで、シートベルトで腹部を締め付けられた可能性があるという。」

2つの記事を、世間の方々はどう読んだろう。

「ほらな、シートベルトは逆に危ないんだよ。締めなくていいじゃなくて、締めないほうが命を守るんだよ」

などと思った人が、全国に少なくとも数千人はいるんじゃないか。「喝!」である。シートベルトは事故時の乗員の被害を確実に軽くする。大事故を起こし、運転者と助手席同乗者はシートベルトのおかげで軽傷で済んだが、シートベルト不装着だった後席同乗者が車外に放出され死亡、というケースはよくある。

ところが、埼玉新聞の2つの記事だと、84歳女性と警部補(56歳)はシートベルトのせいで死亡したという。どうなっているのか。

ずばり、シートベルトの腰ベルト、あれは腰骨にしっかり当てねば意味がないのだ。衝突時に強大な慣性力で身体が吹っ飛びそうになるのを、頑丈な腰骨を押さえて座席にとどめる、それが腰ベルトだ。そんな腰ベルトを腰骨から浮かせ、柔らかい腹部に当てたらどうなるか。強大な慣性力により腰ベルトは内臓に食い込む、内臓をつぶす。

そのこと、ご存知の方はどれぐらいおいでなのだろう。「シートベルトは正しく着用しましょう」とは聞くが、運転席から体をひねって後席同乗者に対しこんなことを言う人はあんまりいないんじゃないか。

「シートベルトはしっかり締めてくださいね。特に腰ベルト、腰骨の、そう、そこにしっかり当てて、ずれないよう、きゅきゅっと引っぱって。めんどくさい? 大丈夫、こんなものは慣れですよ」

埼玉新聞は、上掲2件の交通事故を報じるに当たり、腰ベルトの正しい装着法になぜ言及しなかったのか。埼玉新聞に限らず、新聞・テレビの報道には3つの約束事みたいなものがあるように私は見ている。

①   よけいな言及は「客観報道」から外れる。報道機関としてみっともない。
② 多くの読者・視聴者にはシンプルで表面的なことのみ伝えればよい。
③ よけいな言及で「死亡した人が無知で落ち度があったと言うのか!」と抗議が殺到しないよう注意せよ。

こうして、腰ベルトの正しい装着法は広まらず、犠牲者が、まさに犠牲者がときどきでる。残念でならない。合掌するほかない。

なお、新聞・テレビはシートベルトについて必ず「着用」という語を用いる。しかし道路交通法では「装着」(第71条の3)だ。日本語的には、衣服は着用、器具は装着が正しい。これも「読者・視聴者は難しい熟語はわからないだろう。法律など見ないだろう」という、よくいえば思いやりによるのかなと。でもまあ、世の中そんなものだ。頑張っていきましょう。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

RELATED

RANKING