2023/05/29 モータースポーツ

「かつてのグループAに近い」…スバルWRX新世代ラリーカーに期待できる理由とは

群馬サイクルスポーツセンターで公開されたスバルWRXの新ラリーカー

STI(スバル テクニカ インターナショナル)は2023年の5月24日、今季からJRC(全日本ラリー選手権)に導入された新ラリーカー規定、JP4クラスの新型車両を発表。6月9~11日に開催される、JRC第5戦 京丹後ラリーから実戦投入することも併せて明かされた。

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JP4という聞き慣れないクラス名が早速出てきてはいるが、内容に入る前にまずはJRCの現状をざっと追ってみよう。

純レーシングマシンでもあるFIA ラリー2カーが解禁されて以来、ラリー2カーが選手権を席巻してきたJRC。シュコダのファビアがチャンピオンを獲り、今季はついにTOYOTA GAZOO RacingもGRヤリス ラリー2を投入してきた。もはや、ラリー2カーでないと総合優勝は難しい。そんな声も聞かれ始めているのがJRCの現状だ。

どのくらいのスピード差があるのかというと、それまでトップクラスを形成してきたグループN由来の4WDターボでは、1kmあたり2秒以上差がついてしまうこともしばしば。そんなラリー2カーのあまりの速さに対策を迫られたJAFが今季から設定した規定がJP4というわけだ。JP4は、市販車ベースという根底は変わらないものの、今までよりも改造範囲を大幅に広くした新規定となっている。

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レギュレーションだけではない。スバル陣営もラリー2勢に対抗するため、今季から「SUBARU RALLY CHALLENGE」というワークスチームを新たに創設。これまで各々のチームで活動していた新井敏弘、鎌田卓麻の両ドライバーを招聘し、チームスバルを結成した。そして従来型WRX(VAB型)をJP4既定に合わせ改良し、今季前半を戦ってきた。ここまで4戦を終えて、鎌田選手が年間ランキングで2位に着けている。

■その内容はまるでグループA

さて、本題の新型WRXラリーカーだが、じつは年初の東京オートサロンで一度お披露目されている。この段階ではまだラリーコンセプトというモック(ハリボテ)展示ではあったものの、2.4LのFA24型ボクサーを搭載した、WRX S4ベースのラリーカーを今年のJRCに登場させることがアナウンスされていた。

それから5ヶ月以上の沈黙を経て発表されたのが、今回の2023年参戦車両だ。

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新井選手は、この新規定ラリーカーを「改造範囲からもかつてのグループAに近い」と端的に話してくれた。

その改造範囲は、じつに多岐にわたっている。市販車と同じ部分は、FA24型エンジンとボディモノコック、タイヤ&ホイールサイズくらいで、あとはほぼ手が加えられているか、別物になっているかだ。外観上の寸法が市販車と同一なため、一見あまり変わり映えはしないかもしれないが、中身はかなりの部分が市販車とは異なっている。

市販車と違う部分を可能な限りピックアップしてみよう。

まずボディ関係では、ウインドーはフロント以外をすべて樹脂化。ボンネットとトランクの各フードはCFRP化され、リヤウイングもCFRP製が採用されている。ルーフには室内へ外気を入れるエアインレットが備えられ、サイドミラーもオリジナルタイプに変更している。

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駆動系では、エンジンこそノーマルだがトランスミッションはシーケンシャルタイプのドグミッションに換えられている。センターデフはDCCDを踏襲するものの、駆動配分のロックが規定上義務化されているため今までのように走行中任意に変更することはできない。前後のデフは機械式。エンジン関連では、エキゾースト系がすべて競技用に交換されている。爆音は健在だ。

■ラリー2からヒントを得たジオメトリー

一番大きな変更点はサスペンションの構造だろう。形式こそ同じものの、特にフロントはパッと見でもまったく違うとわかる。ダンパーの角度が通常と逆の方向(上部のバルクヘッド側取り付け位置よりもロアアーム側の下部取り付けが後方に配置)に向けて付けられているのである。

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そういえばこれと同じ構造を見たことがある。そう、今現在世界で最速のラリー2カーと評判の、シュコダ ファビア ラリー2のような構造なのだ。新井選手との話のなかで「この構造って、まんまファビアじゃないですか?」と聞いたところ、「そこを狙ってる。この構造が一番ストロークが稼げて動きがいいからね」と回答してくれた。

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「ステアリングセンター付近の動きは少しだるいんだけど、そこ以外のところでは抜群にいい。ショックの吸収もスムーズだからね」と新井選手は続けた。ファビアのサスペンションジオメトリーがいいと言うことは、以前から新井選手の口から聞いていたが、まさか、その構造がそのまま採用されるとは。

発表会場の群馬サイクルスポーツセンターでは、デモランもお披露目され、ラリー本番さながらの派手な走りも披露。走行後の新井選手、鎌田選手の表情が、ここ数年見られなかったくらい明るいことが印象的だった。両選手からは、サスペンションジオメトリーの変更が正解だったようなコメントが次々と発せられた。

■両ドライバーが絶賛!

「クルマの素性がいいから、動きがクイック。従来型に比べてフロントがものすごく引っ張る感じで、AWDのネガな部分がなくなっている。できのいいFF車がフロントで引っ張って曲がっていく感じのもっとスゴい版で、アンダーステアが全然出ない今までにない感じのAWDだね。ボディ剛性が高い分サスペンションを柔らかくできることも、この乗り味に寄与していると思う。今回は、VAB型と同じデフのセッティングで走ったが、全然違う。柔らかくしたサスのネガがなく、トラクションにいかせている。乗りやすいし、悪い部分が見当たらないね。」(新井選手)

「モデルチェンジ時にサーキットで乗って、いいとは思っていましたが、予想以上によかったですね。純レーシングカーらしく動きがリニアで、スバル車では初めての感覚です(笑)。AWDシステム、ジオメトリー、ボクサーエンジンも含め、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)は速さにつながることが改めてわかりましたね。クルマの四隅がわかりやすく、情報量も多いのでクルマの動きが掴みやすくて乗りやすいです。まだ本格的にセットアップする前ですが、それでも旧型と同じ速さですからね。ポテンシャルが感じられますし、期待しかないです。今日はターマックですが、よりミューの低いグラベルでもかなり期待できそうです!」(鎌田選手)

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スタートしたばかりの新生WRXのJP4車両。ポテンシャルが感じられたその真の速さは、これから徐々に見せてくれることになりそうだ。新井選手はラリー2との差を、今の2秒/kmから1秒未満に持っていければいいとも語ってくれたが、その差が縮まるのもそう遠くないだろう。そしてこの先の選手権には、グラベルのラリーも残っている。グラベルが得意な両選手なら、ラリー2勢を相手に互角の戦いを見せてくれるに違いない。

ラリーのスバル、復活なるか。ファンは大いに期待してよさそうだ。

<写真=真弓悟史 文=青山朋弘>

ドライバーWeb編集部

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