2020/10/05 コラム

【まさに機能美、な金型のワケが明らかに】日産がついに異業種参入!?「新型カキノタネ」開発の深層に迫る|その3|

まさか日産がおつまみを作るとは!と、世のクルマ好きがどよめいた、歴代日産車をかたどった米菓「新型カキノタネ」。なぜ日産が? その疑問を晴らすため開発メンバーを直撃した。

【こだわりすぎの基礎開発】日産がついに異業種参入!?「新型カキノタネ」開発の深層に迫る|その2|

ここまでで、こだわりっぷりは相当なものであることがわかったのだが、まだ序盤と言っていい。今回は、生地型の設計の先、「新型カキノタネ」の金型製作にかけた者たちの情熱に迫る。
 
新型カキノタネVol3


超希少!「新型カキノタネ」の型抜きの様子(生産試作動画・提供:日産自動車)


マニア心に染み渡る“総削り出し!”
こだわりが過ぎる!?「新型カキノタネ」の金型製作

そして、いよいよ開発の第3段階、本番の「型製作」だ。
ロール型本体は、竹内製菓で使われているオリジナルとまったく同じ大きさで製作。食品を扱うということで、総研ではキッチンや調理器具でおなじみの、サビの心配がなく衛生的なステンレスを選んだ。鋳造設備はさすがの総研も持っていないため、製造は総削り出しだ。
 
この金型となる円筒形の上に、平面上でなるべく隙間のないように決めた55個の型の配置を再現する。設計ツールは量産車の開発などでもよく耳にするCAD(Computer Aided Design)。コンピューターの画面上で3次元の設計が自在にできるが、平面ベースの形状を円筒状にモデリングするのは難易度がけっこう高い作業だという。

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花形作業は若いエンジニアが担当

CADでモデルが完成したら、それを実際の形にする加工作業に移る。ツールはCAM(Computer Aided Manufacturing)。CADで設計した形状データをプログラムに書き出し、コンピュータが加工用の工作機械を動かす。人が行うのは基本的にコンピュータの操作だが、CAMを思いどおりに使いこなすにも実践的に優れたスキルが必要なのだ。今回はこうした花形の作業を、育成対象の若手エンジニアが担当している。
 
新型カキノタネVol3

型の断面は鋭い刃物形状だ

加工工程で松永さんが特に苦労したというのは、型の断面形状。ゲス(抜いた生地を型からバネ構造で押し出す部品。柿の種業界の専門用語)を取り除いた型を覗き込むと、クルマのサイドビューを形成する輪郭の断面には微妙な角度がついている。

新型カキノタネVol3
新型カキノタネVol3

「こう見るとわかるんですけど、(断面が円筒形の)中心に向かってしぼんでいます。上下左右すべて真ん中に収束させたテーパー形状で、(型の断面が)刃の形状を作ってるんですね。この角度は切れ味のいい包丁やいろんな刃物から、だいたいこの角度が一番切れるというのを出して。その角度に合わせてすべての型にテーパーをつけています。ただでさえ(円筒形で)丸なんで、それからさらに刃の角度をやるとなると(かなり難しい)」(松永さん)

新型カキノタネVol3
●日産自動車 総合研究所 実験試作部 試作技術課 リーダー 松永智昭氏
 
また、型の断面がテーパー形状になっているため、ゲスは断面同士が当たるところまでしか内側にストロークしない。1.5~2mm厚の生地がちゃんとゲスを押し込んで型抜きができるように、刃とゲスとの隙間も入念に設計されている。
 

新型カキノタネVol3
[開発秘話の“秘話”]
 クルマづくりの技術で高耐久な金型を……
 

オリジナル(柿の種型)のゲスは真鍮製で厚みも1.5mm程度と薄く、破損しやすいと視察に出向いた際に言われていた。そこで、せっかくだからなるべくメンテナンスフリーで一生使えるものを作りたいとの思いで厚みを3mmとしたほか、改良を加えるなど自動車開発・製造の技術を取り入れて製作された。

新型カキノタネVol3
 


肉抜き加工は軽量化ではない、ある重要な役割を担っていた

ロール型は、一つひとつの型と型のあいだに施された精巧な肉抜き加工も特徴的だ。クルマならすぐに軽量化が思い浮かぶが、この場合の目的はまったく違う。

ロール型全体をシート状の生地に押しつけて型を抜くため、面が残っているとそれが周囲の余分な生地を横に押し広げてしまい、クルマの形に抜いた生地に影響をおよぼす。肉抜きによって面をなくし、余分な生地はここから内側へ逃がす必要があるのだ。型でカットした生地はバネ構造のゲスがその場で押し出すが、そのほかのクズはロール型の内部に落ち、遠心力で外へ排出される。

新型カキノタネVol3
 
では、肉抜きにわざわざ細々と分割してある部分があるのはナゼ? と思ったアナタは鋭い。
はじめの試作で肉抜きは分割しておらず、面積が大きいところは大きいままだった。しかし、55個のゲスを留めている内部の構造は毛細血管のように入り組んでいて、クズが大きいと引っかかってうまく排出されない問題が発生。中でクズが詰まると破損の原因となるため、クズが極力小さくなるように肉抜きが分割してあるのだ。まさに機能美。

新型カキノタネVol3

造形美はベテランの技により生み出された

CADで設計、CAMで加工・製造。焼き上がりによる形状変化予測のシミュレーションでは、CAE(Computer Aided Engineering)が活躍したかもしれない。コンピュータ支援のデジタルツールは開発全般で活躍し、特に製作工程の作業はほとんどがそれによって支えられている。
 
しかし、じつはところどころに“昔ながらの技術”が入っている。ステンレスの塊を円筒形に削り出したのは、旋盤一筋40数年というベテラン職人。使用したのは手で動かす汎用の旋盤だ。また、55個の型をできるだけ隙間なく寄せた配置決めも、使われたのは円筒形を平面に落とした実物の枠とクルマの型と同じ形のピース。CADより現物を手で動かしたほうが断然早いと、同じ試作技術課の秋葉信一さんがひらめいた。

新型カキノタネVol3


若手がベテランに学び、アナログとデジタルを融合させる
現代的なものづくりのカタチ

コンピューターによって動く最新鋭のツールがいかに便利でも、何から何まで万能というわけではない。また、その機能や性能を十分発揮させるには、人にもそれを使いこなすスキルと、加工なら加工についての基本的なノウハウが必要とされる。このプロジェクトで若いエンジニアをベテランが下支えしたように、デジタルとアナログの適材適所における融合が今どきの“ものづくりのカタチ”と言っていいかもしれない。
「今はCADやCAMを使いますが、昔の職人さんはこれを全部計算でやっていたんですよね。頭の中で三次元作って、全部手でやって。それを考えるとまだまだだなと(笑)」(松永さん)
 
ゲスや内側の留め部材、歯車を円筒形の本体に組み付けるアセンブリーは、もちろんすべて人の手で。こうして「単型多車種」同時型抜きを可能にする新開発ロール型が完成した。新型カキノタネの製造は工場の1ラインで行われ、月産は最大2万個だ。

新型カキノタネVol3
 
新型カキノタネは伊勢原うまいものセレクトの新商品として、伊勢原市内の飲食店や中日本ハイウェイのSAなどで7月7日から販売。その存在は全国の日産ファンにも知れ渡り、品薄状態が続くほどの人気を集めている。

新型カキノタネVol3
 

短期間で多くを学んだ若手の成長が一番の成果

また、若手エンジニアのほうも今回の経験で急成長。開発期間は半年ほどと短かったにもかかわらず、業務で早くも主力として活躍しているという。「実践を通しての育成スピードは本当に速いんだなとあらためて感じました」と中村さん。
 
かつてはレース用エンジンや量産の新世代エンジンの研究・試作が昼夜なく行われていた、日産自動車の総合研究所・試作部。1980(昭和55)年にスカイライン(5代目の“ジャパン”)が搭載したL20ET型エンジンのターボチャージャーも、ここでエンジニアが手計算で羽根を設計・加工し、実験を重ねたのだという。
 

「何でも作る」技術屋のDNAを守り続ける

 「先輩方から口酸っぱく言われたのは、蜘蛛の巣と蜂の巣以外はなんでも作るという。何でも作ってやる、不可能なものでも加工してやるからと。だからいろんな設備がありました。昔はいろんな企業の方が視察にも来られた。そういったDNA、誇りは残っています。しっかり今後も若手にそういったスペシャルスキルを残していかなきゃいけないというのが、我々の世代の一番の課題です。
 
今はアウトソーシングの時代。そういった専門技術を持った企業はいっぱいありますから、お金出して作ってもらうっていうのは今の時代の流れ、趨勢で。日産自動車もそうだと思いますが、とくに研究所という我々の思いからすると、やはり自分たちの手でモノをつくっていくというのは、時代に逆らってでももっていたいなという思いがあります」(中村さん)

新型カキノタネVol3
●日産自動車 総合研究所 実験試作部 試作技術課 チーフ 中村章一氏
新型カキノタネVol3
新型カキノタネVol3


「新形カキノタネ」の新作にも期待

新型カキノタネはまだデビューしたばかり。第2弾など今後の新しい展開については、まったく検討の俎上に挙がっていない。しかし日産はこの2020年から、これまでの鬱憤を晴らすように次々と新型車を国内にも投入する。ニューモデルの柿の種が入った新作を望む声が、“帰ってきた日産”を喜ぶ全国のファンから集まっても不思議ではないのだ。

 
〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉
 
 

新型カキノタネVol3
[開発秘話の“秘話”]
 歯車とスプリングは既製の市販品

「新形カキノタネ」の金型は、日産精鋭部隊渾身の総削り出し。だが、ゲスに組み込むスプリングと、竹内製菓の型抜き機に設置し回転させるための歯車は市販品を使用している。

松永氏によると、スプリングはミスミ製のものをよく使っていることから、そこがラインアップする数多くの製品のなかからばねの弾性などが合うものをセレクトしたという。

歯車は型抜き機自体がすでに40年ものだそうで、同じものはすでに生産されていなかった。これを作るとなるとゼロからのオーダー品となることから、柿の種の型に使用されている歯車の直径や歯先形状、ピッチなどをすべて計測し、こちらも数多ある既製品の中から代用の利くものを探し出し、それを装着しているとのことだ。

ドライバーWeb編集部

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