2020/10/02 コラム

【こだわりすぎの基礎開発】日産がついに異業種参入!?「新型カキノタネ」開発の深層に迫る|その2|

まさか日産がおつまみを作るとは!と、世のクルマ好きがどよめいた、歴代日産車をかたどった米菓「新型カキノタネ」。その開発の深層に迫る今特集。
その1では、日産の地域振興への協賛と技能の継承という「新型カキノタネ」開発の経緯がわかった。

【なんで“新型”がおつまみなの?】日産がついに異業種参入!?「新型カキノタネ」開発の深層に迫る|その1|

今回はついにプロジェクトがスタート。開発者の思いが強すぎる車種選定や、畑違いの生地特性にまさかの業界初の技術投入といった、難関に直面し克服する技術魂をみた。
 
新型カキノタネVol2



金型開発がスタート。筒型のワケを探る

会社の承認を得てプロジェクトがスタート。開発はざっくり3つの工程に分けられる。
第1段階は現地・現物調査。いわゆる「リバースエンジニアリング」だ。担当メンバー数名が新潟県小千谷市にある竹内製菓の工場に赴き、生産ラインや金型などを実際に確認。金型などの寸法はくまなく測り、設計に必要となる正確な情報を手に入れる。

新型カキノタネVol2
 
柿の種はさまざまな商品が流通しており、米菓会社や商品によって製造方法もいろいろ。現在はカマボコ形にした生地を金太郎飴のように高速カッターで切断していく方式が主流だが、竹内製菓の生産ラインで使われているのはロール型と呼ばれるタイプ。柿の種のカタチをくり抜いた円筒形の金型を回転させながら、シート状の生地に押し当てて型を抜く、昔ながらの方式だ。大量生産に適したやり方とは言えず、この作り方も今では数社くらいしか行っていないらしい。

新型カキノタネVol2
 
しかし、新型カキノタネは形がすべて同一の一般的な柿の種と違い、計24種類もの形を用意する必要がある。これを大量生産のラインで実現するとなると設備の仕様変更も大変だ。その点、ロール型は1つの金型で多彩な形の型を同時に抜くことができる。総研とロール型にこだわり続ける竹内製菓との出会いも、ものづくりの伝統が引き合わせた縁なのかもしれない。

新型カキノタネVol2

「ケンメリは外せない」まさかの独断採用

追浜に戻ったメンバーは、開発の第2段階「性能検証」に入る。
まず、車種の選定だ。いの一番に決まったのは“ケンメリ”スカイライン。柿の種でサイドビューの特徴を表現する難易度が高そうだったからか、と思いきや…。
「ケンメリが好きで、絶対に外せないという個人的な理由です(笑)」(松永さん)。
あとの22車種はデザインセンターが選定。プラス1の大山(おおやま)は、伊勢原が誇る名峰である。
「で、これが(実際の型になった)サイドビューですが、オリジナルのサイドビューと全然違うんです。アスペクトというか、縦を長くしたり横を縮めたりして、ちょっとかわいくなっています。これは3Dプリンターの型を使って、まずはオリジナルから始めて(抜いた生地が焼いたら)どう変化するかを検証しました」(松永さん)

新型カキノタネVol2
●日産自動車 総合研究所 実験試作部 試作技術課 リーダー 松永智昭氏
 

立ち塞がる異業種の壁に女性メンバーの活躍が光る

もち米の生地は焼くと当然縮む。形がどのように変わるかは、焼いてみないとわからない。

だが、クルマの型を試作するたびに新潟に足を運ぶのは、効率が非常に悪い。それに、便利な3Dプリンターがあるとはいえ、一つひとつ形が違う計24種類の型を試作し、それぞれ抜いては焼く検証を何度も何度も繰り返すのは、これまた大変だ。開発メンバーにはもちろん本来の業務があり、カキノタネプロジェクトは各自が空き時間を見つけて行っている。
そこで絶大な力を発揮してくれたのが、総研の女性メンバーだ。

新型カキノタネVol2
 
横浜にオープンキッチンを借り、竹内製菓からの情報をもとにさまざまな調理器具で試作生地の焼きに挑戦。最終的にフライパンで工場に近い焼き方を再現することができた。これで新潟に繰り返し足を運ぶ時間と労力を省くことに成功。今どきは進んで厨房に立つ男子も珍しくないが、オトコで料理関係にうといというのも昔気質な総研らしいところか(?)。
 

業界初!解析・シミュレーションでもち米特性をデータ化

さらに、焼き上がりの形状変化を予想。何と柿の種業界初(!)という解析・シミュレーションを実施したのだ。元からの縮み率がわかれば、それを計算値に入れて型の形状を決めることができる。シミュレーションにはもち米の物質特性といったデータも使用。この作業も女性の解析専門家の尽力によるものだ。

新型カキノタネVol2
 
シート状の生地にも悪戦苦闘。もち米は水分が大事だと竹内製菓から言われていたが、指先で鉄の5ミクロンの違いがわかる松永さんにも、生地の水分量がいいのか悪いかはさっぱりわからない。そこで、お肌用の水分チェッカーを買ってきて、生地を水分チェック。何度も行っているうち、水分量はしだいに触感でわかるようになったという。

新型カキノタネVol2

「シートを送ってもらっても、移動中に乾燥しちゃったり。(焼くと)最初はこういう(クルマの)カタチにはまったくなりませんでした。ヒトデみたいな格好になって、ホントに制御不能というか。途中、無理だと思ったこともありましたね」(中村さん)

新型カキノタネVol2
●日産自動車 総合研究所 実験試作部 試作技術課 チーフ 中村章一氏
 
車種ごとに型を試作し、生地を抜いては焼く検証を5~6回は繰り返さなければならなかったところを、解析・シミュレーションによってほぼ2回で完了。しかも、検証は一部の車種の型だけで済んでいる。形はすべて違うのに、ナゼ全車種を行う必要がないのか。

新型カキノタネVol2
 

じつは、23車種の生地面積はすべて同じ

答えは簡単。一つひとつ形は違っても、面積はすべて同じに統一されているのだ。その面積は竹内製菓の柿の種と同一で、これも総研が計測したデータ。抜いた生地の大きさが厚みも含めて同じだから、金型を換えれば従来とまったく同じ生産ラインと条件で新型カキノタネを製造できるのだ。

新型カキノタネVol2
 
また、狙いどおりの焼き上がりでも実際の車種に見えるかどうか、形状再現率をチェック。焼いてみると同じ形に見えてしまう車種もいくつかあり、その点も見直しを受けた。
 
各車の形がほぼ固まったところで、実際に製造する竹内製菓や販売元の龍屋物産などにも仕上がりについて意見を求める。ここの角は欠けやすいといった指摘があると、丸みを帯びるように修正。こうして3Dプリンターによる一台々々の型の最終形が完成した。

新型カキノタネVol2


〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉
 
 

[開発秘話の“秘話”] 

生産性を突き詰めた車種レイアウトは、何とアナログ配置!

金型製作に入る前に、クルマの型を整然と並べるという大切な工程がある。生地から型を抜き出す際に“余り”を極力減らすレイアウトにしなければならないのだ。
柿の種業界では、出来高(=どれだけムダなく抜き出せるか)が非常に大事だという。

新型カキノタネVol2
 
金型一周で抜き出せる型は55個。23車種(+大山)それぞれの形が違うので、かなり難儀だったそう。はじめはCADでレイアウトを試みたが、非常に効率が悪かったそうで、それならとレーザー加工機でクルマ型のピースを切り出し、パズルの要領で、手作業で並べていったという。端から順に切り出したピースを置いていき、一番隙間のないパターンを導き出した。画面上(CAD)で1つ1つ配置し、ダメだったらはじめから置き直すというのを繰り返すよりも、現物でやったほうが早い、というわけだ。

新型カキノタネVol2
 
こうして、55個のクルマ型が金型に収まったのだが、すべてが同じ個数ずつにはなっていないという。なので、「新型カキノタネ」1缶に入っている車種にもばらつきがある。ちなみに金型で抜き出した生地は混ざってしまうので製品ごとに入っている車種の比率は異なる。意外とレアな車種もあるから、どの車種か確認しながら食べるとよりいっそう楽しみながら食せるはずだ。
 

本企画は3部構成です。次回は「その3:まさに機能美、な金型のワケが明らかに」をお届けします

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https://yaesu-shop.jp/?pid=156749414

ドライバーWeb編集部

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