2020/09/23 コラム

呼気1リットル中0.7mgって…「酒気帯び運転」処罰対象の約5倍!なぜ「酒酔い運転」ではなかったのか?|元TOKIOの山口達也容疑者が「酒気帯び運転」で逮捕|

酒気帯び運転の処罰対象は0.15mg以上


人気グループ「TOKIO」の元メンバー、「山口達也容疑者(48)」が酒気帯び運転で逮捕されたと9月22日、テレビ・新聞が一斉に報じた。「容疑者」というのはメディア独特の呼び方であり、正しくは「被疑者」だ。今回は私は「山口達也さん」と呼ぶことにしたい。

日テレNEWS24等々によると、同日午前9時半頃、東京都練馬区内、片側1車線の区道で、信号待ちの乗用車に山口さん運転のオートバイ(1200ccのハーレーダビッドソン)が追突したという。乗用車の運転者が110番通報。臨場した警察官が山口さんに酒臭を感じて呼気検査をしたところ、呼気1リットル中0.7mgのアルコールが検出され現行犯逮捕…。

酒気帯び運転として処罰の対象になるのは0.15mg以上だ。0.7mgはその5倍に近い。交通警察官向けの『図解交通資料集』(立花書房)に「呼気中アルコール濃度換算表」がある。0.7mgは、体重60kgの男子がアルコール25度の焼酎をボトル(720ミリリットル)4分の3ほど飲んで3~5時間後の数値だ。

ただ、この呼気検査はあんまり当てにならないようだ。検査前に必ず水でうがいをすることになっているが、そのうがいをどれだけ念入りにやるかが検査値に影響する。深い深呼吸をくり返すかどうかも影響する。私は以前、『ラジオライフ』(三才ブックス)の実験で被験者になったことがある。「うがいと深呼吸でこんなにも違うのか!」と驚いたものだ。また、警察の呼気検査は1回しかおこなわない。3回おこなって平均値や最低値をとるのではない。ほとんどの人が、うがいと深呼吸のことを知らず、イチかバチかの一発勝負、それが酒気帯び運転の呼気検査といえる。

0.7mgが正しいとして、そんなにも高い検査値でありながら、なぜ酒酔い運転ではないのか。呼気検査をおこなった警察官は「酒酔い・酒気帯び鑑識カード」を作成する。酒がらみの傷害事件なんかでもよく作成される。以下は、愛知県警のWebサイトにある「道路交通法等違反事件迅速処理のための共用書式の様式等及びその運用要領等の制定」という通達の一部だ。


●「酒酔い・酒気帯び鑑識カード」。これが裁判の証拠になる

ここで念のため説明しておくと、酒酔い運転とは、検査値とは別に「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」(道路交通法第117条の2第1号)をいう。罰則は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」。かなり重い。一方、酒気帯び運転とは、酔っていなくても「身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの」(道路交通法第117条の2の2第3号)をいう。罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」だ。

酒酔いか酒気帯びかは、警察官が「お前はナマイキだから酒酔いだ」などと恣意的に決めるのではない。「酒酔い・酒気帯び鑑識カード」の記載をもとに判定する。裁判には必ずこのカードが証拠として提出される。検査値が0.9mg台で酒気帯びだった裁判を私は傍聴したことがある。ちなみに『図解交通資料集』には上掲のとはちょっとバージョンの違うカードがあり、記載例がある。たとえばこうだ。

名前は  場馬承武だ文句あるか
職業は  フリーターだ文句あるか
何歳ですか  てめーはおれを怒らせた
どこで飲みましたか  聞くな無駄だ
どの位飲みましたか  お前は今まで飲んだ酒の量を覚えているのか

こういうめんどくせえ酔っ払いも警察官は相手にしなければならないのだ。ほんとお疲れ様です。

ともあれ、報道は「酒気帯び運転で逮捕」とある。山口さんは「質問応答状況」も「見分状況」も特に問題なかったのだろう。べたっと座り込んでいたのは「ああ、俺は終わった」という深い絶望感ゆえだったのかもしれない。

0.25mg以上で違反点数25点…欠格2年の免許取消処分



さて、山口さんは今後どうなるのか。何か特殊な事情がない限り、勾留請求されることなく釈放されるだろう。刑事処分は、普通車の酒気帯びについては、物損事故を伴った場合は「飲酒運転の危険性を顕在化」させたとして公判請求(正式な裁判への起訴)をされることがある。そうなると、懲役5月(ごげつ)か6月(ろくげつ)程度を求刑される。別件で執行猶予中だとかいう事情がなければ必ず執行猶予がつく。

現時点での報道を見る限り、追突といっても相手車両に大した損害はなかったようだ。かつ、二輪車は普通車より少し軽く扱われるのが普通だ。加えて、山口さんはメディアやネットでぼろくそに叩かれる、つまり「社会的制裁」を存分に受けることになるはず。それらのことから、略式による罰金刑ですむ可能性は大いにあると私は思う。酒気帯びの罰金額は、普通車で初犯だと30万円が相場だ。それより5万円程度低い額になるのではないか。ただし、山口さんには2018年に、酒がらみの事件で起訴猶予とされた前歴があるという。そのことは、扱いを少し重くする理由にはなるだろう。

酒気帯び運転の違反点数は、0.25mg以上は25点。一発で欠格2年の免許取り消し処分の基準に達する。「意見の聴取」(昔の聴聞)で処分が軽減されることもあるが、0.7mgでは軽減は難しいだろう。

山口さんはアルコール依存症なのか、私はそこまでは知らない。けど、交通違反・事故も含め酒がらみの裁判を私はたくさん傍聴してきた。アルコールで理性のコントロールが効かなくなり、普段の生活、人格からは考えられないとんでもないことをやらかしてしまう人がよくいる。山口さんのケースは、他人を死傷させることがなくて本当によかった。「天はまだ見放していない」と受け止め、立ち直ってほしいと思う。

〈文=今井亮一〉

ドライバーWeb編集部

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