2020/08/26 コラム

プロ野球選手の首都高89キロ超過、どんな刑罰が待っている? 懲役刑を避ける方法とは

制限速度を89キロ超過の149キロで走行


「西武佐藤龍世は首都高を89キロ超過の149キロで運転…同乗の相内と処分 4月の違反を今月報告」と8月20日、西日本スポーツが報じた(https://www.nishinippon.co.jp/nsp/item/n/637300/)。以下はその一部だ。

西武は20日、佐藤龍世内野手(23)と相内誠投手(26)が、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から球団が自宅待機と不要不急の外出禁止を定めていた期間中の4月12日に千葉県内でゴルフをするために外出し、移動の際に佐藤が運転する自動車が道路交通法に違反する危険な走行をしたと発表した。両選手には無期限の対外試合出場禁止とユニホーム着用禁止の処分を科した。
今月17日に佐藤から球団に報告があり、佐藤に18日、相内には19日に詳細を確認して判明。佐藤が運転して相内が同乗した自動車は、首都高速道路中央環状線山手トンネル内を法定最高速度を89キロ超える149キロで走行したことを装置に検知され、佐藤は速度超過による道路交通法違反で警視庁に出頭したという。

私は裁判傍聴マニアでもある。他の罪がからまない速度違反だけの裁判は425件を傍聴してきた。その多くが首都高速のオービスによるものだ。山手トンネルには目黒区内と中野区内にそれぞれ東京航空計器の「オービスⅢLk」がある。だいぶ活躍しているようで、法廷へよく出てくる。私が傍聴した最高速度は175キロ(115キロ超過)だ。


●山手トンネル内のオービスⅢLk。マニア氏の撮影による。測定方法はループコイル式。Lkが撮影した画像は直ちに通信回線で警察の中央装置へ伝送される。現在はLxに更新されているかもしれない。ちなみにこのオービスはネットでは商品名や型式に関係なく「LH」と呼ばれる

首都高 速度違反の量刑相場がある?


多数の裁判を飽きずに傍聴するのは定点観測のような面がある。首都高速の速度違反の“量刑相場”が否応なくわかってくる。速度違反の法定刑は「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」であり、超過速度が80キロ未満(70キロ台)までは罰金刑、80キロ以上は懲役刑と、くっきりはっきり見えてくる。
 
・超過80キロ台=懲役3月
・超過90キロ台=懲役4月
・超過100キロ台=懲役5月
・超過110キロ以上=懲役6月

それが大原則だ。念のため重ねて言っておくが、これは首都高速の量刑相場である。一般道路はまた違うし、地方によっても異なるようだ。

今回は…「懲役3月、執行猶予2年」か?


それでだ、同種で執行猶予中だとかいう特別な事情がなければ、必ず2年か3年の執行猶予がつく。猶予中に別件で実刑判決を受けるとかなければ、刑務所へ行くことはなくなる。昔は速度違反の執行猶予は3年が普通だったが、近年は2年が多い。今回の佐藤龍世内野手の判決はこうなるはず。

裁判官 「主文。被告人を懲役3月に処する。この裁判が確定した日から2年間、その刑の執行を猶予する」

前出の115キロ超過の被告人は「懲役6月、執行猶予3年」だった。

執行猶予付きなら大丈夫…そんなわけない!


執行猶予ならとりあえずいいじゃん? とんでもない! 執行猶予付きでも懲役刑は懲役刑。懲役前科1犯だ。医師は医業停止になったり、不動産業者はいろんな資格が消除や取消しになったりする。公務員は失職しかねない。それぞれの資格についての法律にそういう規定があるのだ。プロ野球界のことを私は知らないが、罰金刑で済むよりはヤバイことになるんじゃないか。

「執行猶予付きでも懲役刑を受けると仕事を失う。どうか罰金刑にしてください」と主張する裁判を私はだいぶ傍聴してきた。1冊の本を書けるぐらいいろんなケースがあった。簡単にまとめれば、その主張は原則通らない。超過速度による量刑相場を裁判官は頑なに守ろうとする。同僚や患者からの嘆願書を多数出し、100万円の贖罪寄付(反省を顕すための寄付)をした医師も執行猶予付き懲役刑とされた。

執行猶予付きでも懲役刑だとたいへんなダメージを受ける人がいる。一方、財布から現実に金が出ていく罰金刑より執行猶予付き懲役刑のほうがありがたい人もいる。不公平に見える。が、ある裁判官が言った、本件被告人を狙って不公平に扱ったわけではないから問題ないと。つまり、誰に対しても等しく不公平だから公平である、というのが裁判的な考え方なのだ。

じつは超過速度が80キロを超えても罰金刑で済んだ事例がある


では、首都高速で超過速度が80キロを超えたらもう執行猶予付き懲役刑は決まりなのか。いや、じつはそうとも限らない。90キロ台の超過で罰金10万円ですんだ人を私は知っている。法廷で「どうか罰金刑」にと主張して認められたのではない。どういうことか。

どの事件を処罰するかしないか、また処罰の重さはどうするか、そこは検察官が決める。処罰の要なしと考えれば不起訴とする。罰金刑が相当だと考えれば略式の起訴をする。懲役刑が相当だと考えれば公判請求(正式な裁判への起訴)をする。正式な裁判になってしまったらもう執行猶予付き懲役刑しかない。

どうしても罰金刑にしたい…なら嘆願書などのタイミングは「検察」


だから、そう、どうしても罰金刑を求めるなら、嘆願書や贖罪寄付の領収書は検察の段階でこそ出すべきなのだ。犯行車両を売却して再犯防止を誓うのも、検察の段階でなら効く可能性がある。首都高速で超過80キロ以上で捕まってしまい、どうしても罰金刑を求めるなら、裁判官に言っても無駄、検察官に言わねば! もちろん、それで必ず罰金刑になるってもんじゃないが。

免許停止期間を「90日→60日」にしたいなら「意見の聴取」の手続きを


次に運転免許の行政処分について。違反点数は、超過50キロ以上は12点。その上はない。89キロ超過も115キロ超過も12点だ。過去に累積点数や処分の前歴がなければ90日間の免許停止処分の基準に達する。処分の前には「意見の聴取」の手続きがある。基準より処分を軽くしてほしい人は、出席して事情を述べることができる。90日が60日になることもある。特に事情がない人、90日でいいやと思う人は出席しなくていい。

速度違反は飲酒や無免許に比べて優遇されすぎている?


あと、本件の同乗者、相内誠投手はどうなるのか。飲酒運転も無免許運転も「要求・依頼同乗罪」というのがある。その罪の法定刑はこうだ。

・酒酔い=3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・酒気帯び=2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
・無免許=2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

けっこう重い。しかし、速度違反には「要求・依頼同乗罪」はない。もしも相内誠投手が「もっと飛ばせ!」とか言っており、それが車内の様子も録音、録画できるドライブレーダーに記録されており、佐藤龍世内野手が「相内からそそのかされました」と申告すれば、その場合は相内誠投手は教唆犯(刑法第61条)で立件されるかもしれないが。

こうして見てくると、飲酒や無免許に比べて速度違反は“優遇”されてる気がしない? 以下はそれぞれ本犯(ほんぱん)の法定刑だ。

・酒酔い=5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
・酒気帯び=3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・無免許=3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・速度=6月以下の懲役又は10万円以下の罰金

違反点数と行政処分はこうだ。

・酒酔い=35点
・酒気帯び=25点又は13点
・無免許=25点
・速度=超過50キロ以上は12点。 ※未満は1~6点。

超過速度が100キロでも200キロでも、なのである。速度違反の法定刑および行政処分は、飲酒や無免許に比べて明らかに軽い。いずれ近いうちに警察庁は、速度違反の厳罰化法案を何かと“抱き合わせ”で国会へ提出するに違いない。「何か」とは何か、その話はまた今度。

とにかくね、速度を出しすぎると、前方に危険を発見しても回避が間に合わない。事故れば被害が甚大になる。死ななくていい人が死ぬ。そこは肝に銘じてほしいと強く思う。

〈文=今井亮一〉

ドライバーWeb編集部

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