RAV4 PHVはアッという間の年内分完売で受注ストップ! 新型ハリアーは発売1カ月で約4万5000台を受注!! と口をあんぐりさせたのも束の間、今度はヤリスクロスである。
ワールドプレミアのはずだったジュネーブショーが中止になり、4月にトヨタがニュースリリースで世界初公開。発売予定は日本が2020年秋、欧州は2021年半ばだが、早くもプロトタイプが袖ケ浦フォレストレースウェイでお披露目された。
実車のたたずまいは写真よりさらに好印象。ヤリスのハッチバックよりタフで大人っぽく、塊感あふれるSUVスタイルは、ちょっとミニ・マカンといった雰囲気がある。
ボディサイズは、ハッチバックのホイールベースをほぼそのままに、全体をひと回り大きくしたイメージ。国内用の5ナンバーナローボディを採用するハッチバックと異なり、3ナンバーワイドの欧州向けと共通だ。もちろんハッチバックと同じBセグメントに属し、トヨタのコンパクトSUVラインアップではC-HRとライズの間に入る。他社のSUVに例えると、日産キックスにその座を譲ったばかりの旧ジュークとほぼ同じサイズ。
コックピットを見ればわかるように、車格はハッチバックより少し上級の位置づけだ。Gグレードのメーターはハッチバックと同じデジタル2眼式だが、最上級のZにはカローラ系で見覚えのある大型液晶。パーキングブレーキはオートホールド付きの電動で、予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」の車速追従クルーズコントロールやレーントレーシングアシストは全車速に対応する。
先進安全装備について続けると、背高ボディに配慮したS-VSCの横風対応制御はトヨタ初。アダプティブハイビームシステムはトヨタコンパクト初。トヨタセーフティセンスには、ハッチバックにない緊急時操舵支援機能も備わる。これは自車線内での歩行者回避と、それに伴う車線逸脱抑制をともにサポートするものだ。
運転席にはC-HRにも設定のない贅沢なパワーシートを採用。低コストな1モーターでスライド/ハイト/リクライニングの各調整を可能にした新機構だ。ただ、作動音が大きく、動きは若干遅い気もするが、手動式よりポジションの微調整が効くのはやはりうれしい。
後席のニールームはハッチバックと同じか、わずかに広い程度。しかし、フロアに対する座面高は2cm高くなっており、前席下への優れた足入れ性と相まって、実際の居住性は向上している。また、ハッチバックは後席の座面がミョーにソフトだが、ヤリスクロスは前席と変わらない上質な座り心地だ。リヤドアの開口幅が少々狭く、乗降性が今一つな点はハッチバックと変わりない。
さらに注目なのが荷室。まず容量は、クラスで文句なしに上位の390Lだ。積載力で定評のある1クラス上のホンダ ヴェゼルが393L、アンダーボックス込みでは404L(HVのFF)だから、その大きさがわかるはず。シートを倒さずゴルフバッグを2つ横置きできる点も見逃せない。
そして、6:4分割アジャスタブルデッキボード、4:2:4分割可倒式リヤシートをトヨタのコンパクトSUVで初採用。荷物を簡単に固定できるフレックスベルトと相まって、多彩なアレンジが使い勝手をいっそう高めてくれる。
トヨタのコンパクトSUV初は、もう一つある。足の出し入れ動作で自動開閉可能なハンズフリーパワーバックドアだ。しかも、今回新開発されたシステムによって、開閉速度は従来トヨタ車の2倍にアップ。「手で開け閉めしたほうが速い!」なんてイライラは、これで解消!
走りのメカはハッチバックの主力モデルと同じ。パワートレーンは1.5L直3のハイブリッド車(HV)とガソリンNAで、それぞれにFFと4WDを設定する。4WDシステムはHVが後輪モーター駆動のE-Four、ガソリン車はダイナミックトルクコントロール4WDだ。ただし、ヤリスクロスではSUVらしく、前者にトレイルモード、後者にはマルチテレインセレクトをプラスするこだわり。タイヤはもちろん大径サイズで、Zが215/50R18、Gは205/65R16だ。
今回はガソリン4WDを除く3台に試乗できた。
サーキットを走った印象をひと言で言えば、ハッチバックほどスポーティなキャラクターではない。ひと回り大きなSUVボディで、車重は120㎏増。駆動系がローギヤ化されていても加速はハッチバックほど俊敏ではなく、アクセル開度が大きめになる。4WDがFFより90㎏ほど重くなる点は、基本的にハッチバックと同じ。この重量差も体感的に明らかで、HVの4WDからFFに乗り換えると車速のノリが確実にいい。
ハンドリングもハイレスポンスなハッチバックに比べて、穏やかな仕上がりだ。比較的クイックなステアリングギヤ比は共通だが、ボディの慣性モーメントが大きくなった分、操舵直後のノーズの動きに一瞬遅れが生じる。サスペンションもそれを補うほど引き締められたセッティングではない。サーキットではどちらかと言えばソフトに感じられるが、ワイドトレッドの効果と相まって、この加速性能であればロール剛性に不足はない。ロールの収束は早く、ブレーキングの姿勢もダイブが少なく安定している。
HVの駆動方式による重量差は、ハンドリングにもはっきり表れている。初期のレスポンスはFFのほうが断然いいのだ。ハッチバックほどではないが、スポーティと言える切れ味。乗り心地はハッチバックより重厚で突き上げの少ない上質さが期待できる。
もっとスポーティなのは、やはりガソリンのFFだ。ダイレクトシフトCVTは発進がMT並みにダイレクトなうえ、急加速時はステップ変速制御で走りの一体感を演出。車重はHVより軽く(ハッチバックでは60~70㎏軽量)、16インチのGでもハンドリングは十分に軽快だ。
このように書くとHVの4WDの走りが残念なように思われるかもしれない。が、そんなことはまったくなく、個人的に一番気に入ったのはハイブリッドZのE-Fourなのだ。
ハンドリングは確かに穏やかだが、もっとも重い車重がSUVらしいドッシリした乗り味を醸しだす。ハッチバックと同じく、4WD車にダブルウイッシュボーンをおごったリヤサスの路面追従性も好印象。E-Fourが4WD状態になるのは約70㎞/hまでだが、それ以下の車速から立ち上がるタイトコーナーでFFよりアンダーステアが少なく、その効果を体感できる。ハンドリングのバランスがもっともいいのは、ガソリンの4WDかもしれない。
最後に、ハッチバックではHV、ガソリン車ともかなり3気筒エンジン特有のノイズ・振動がかなり目立つが、ヤリスクロスではそこまで気にならなかったのも朗報だ。
SUVに求められる要素を小粋なボディにすべて詰め込んだ、“第3のヤリス”。セグメントの枠を超えて、これまたコンパクトSUVの台風の目となることは間違いない。正式デビューは9月中旬だ。
〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉
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