2024/04/04 コラム

横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~ 第5話「妖精な彼女」(ホンダN-ONE × 茜紬うた)

ホンダN-ONE × 茜紬うた



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 いろんな意味で大満足のランチを終えた私たちは、天気もいいので多摩川沿いをドライブしてみることに。
 水辺を一緒に歩けたら最高だね、なんて話していたのだが、晴天なれど川の近くは突風が吹き荒れ、とてもじゃないが散歩など楽しめそうにもない。しかたなく川沿いにクルマを停め、雄大な多摩川の流れを横目にしばしの雑談タイム。



「私、実家がこの近くだからさぁ、学校終わりに友達とよく遊びに来てたんだよ~、懐かしいな……」
「俺もガキのころはよく河原で遊んでたなぁ、水切りってわかる? 石投げてピュピュピュッってなるやつ」
「やったやった! あれ得意なんだよね、私、こう見えてソフトボール部だったからさ」
「あのピッチャーの下手投げって可愛いよね」
「え、どこが?」
「俺、女の子がすること、何でも可愛いと思っちゃうんだよなぁ」
「立派な病気じゃん(笑)、でもさぁ……みんなで石投げしてるだけなのに、なんであんなにおもしろかったんだろ……、子供のころって何やってても楽しかったのにな。夢だった美容師になれたのに色々面倒で、今、あんま楽しくないの」



 カフェで見せた無邪気な表情とは違い、雨に濡れた捨て猫のようなシュンとした顔をする彼女。若造が何をわかったことを言いやがってと思いつつも、人生の先輩としてひとこと励ましてあげたくなる。
「好きなことと向いてることって違うからさ。辛いことばっかりだったら辞めりゃいいじゃん。すげえよ、自分がなりたいもんに一回でもなれてんだからさ」
「……頑張れって言われなかったのはじめて」
 きょとんとしている彼女。
「まあ、その結果が俺みたいな万年フリーターになっちゃうかもだけど」
「あは♪ ありがとね……ってかちょっと車の中暑くない?」とモソモソとダウンを脱ぎ始める彼女。その瞬間、川面に反射した太陽の光が私の目を直撃した。あまりの眩しさに目を開けていられない。どれくらい経ったのだろう。ゆっくり目を開けると、そこにはカラフルな水着に身を包んだ彼女がいた。これはいつもの妄想なのか? それとも魔法? 君はティンカー・ベル? もしかしてここは二人だけのネバーランドなのか?





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「あのさ、もうちょっとだけ付き合える?」
 答えはもちろんイエス。女の子の〝もうちょっと〟を叶えるために男は生きているんだから。
「ちょっと怖いけど、大好きな渋谷の街を走ってみたいの」



 期待していた展開とは若干違ったが、彼女の可愛い夢を叶えるため、私たちは夕暮れ間近の渋谷に針路を取る。
 さすがは渋谷、平日といえども街を埋め尽くす人、人、人の群れ。ハンドルを握る彼女の緊張が、助手席にまで伝わってくる。
「教習所の通りにやれば大丈夫だよ!」
 さあ、行こうか、ティンカー・ベル、一緒にスクランブル交差点に突撃だ!





「ね、もう一周だけいい?」
 あれから三十分ほど経っただろうか。
 渋谷の道路にすっかり慣れてきた彼女は、さっきから同じ通りを何度もグルグルと周回中。さすがにこれ以上は付き合っていられない。
 この道玄坂を昇り切れば……、いや、これ以上は言葉にはすまい。ねえ、ピーター・パンとティンカー・ベルの関係はもう卒業しよう。真っ黒ないやらしいランジェリーを身にまとい、サキュバスのように私を誘惑してはくれまいか。
 退屈なドライブをやり過ごすため、私は淫靡な妄想にひたすら落ちていくしかなかった……。









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「じゃあ、そろそろ帰るね、今日は付き合ってくれて本当にありがと!」と、ティンカー・ベルは今日一番のスマイルを見せ、夜の街に溶けて消えた。本当にネバーランドに帰ってしまったかのようだ。結局私は単なるドライブ相手に使われただけみたいだ。





 ああ、一日の疲労がどっと押し寄せてくる。人恋しくて風邪をひいてしまいそうだ。スクランブル交差点に佇む人の群れにまじり暖を取る私。信号が赤から青に変わったと同時に、ぴょんとその場でジャンプしてみる。
「やっぱ飛べねえか」
 苦笑いを浮かべ、私はのんべい横丁へと一歩を踏み出す。ティンカー・ベルとの夢のようなひとときを肴にして飲む酒は、結構イケるんじゃないかと期待している。



(※)ストーリーはすべてフィクションです。

<今回の”彼女”=茜紬うた ヘアメイク=岩瀬 真由 写真=ダン・アオキ 文=爪 切男>


■今回のデートカー
ホンダ N-ONE 174万2400円
ホンダの名車「N360」を現代版にリメイクしたN-ONE。キュートな外観とセンタータンクレイアウトにより、広々とした室内空間を両立。多彩なシートアレンジも魅力だ。



■茜紬うた(あづみ うた)

鹿児島県出身のグラビアイドル。血液型はB型。ひとりカラオケやカフェ巡りが趣味で、歌ったり、カワイイ子を探すのが大好き。「グラビアで頑張ります!!」
”彼女”をもっと見たい方は、こちらをご覧ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CZ3ST3LS


■爪 切男(つめ きりお)
作家。1979年香川県生まれ。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)でデビュー。同作はドラマ化もされ大きな話題を呼ぶ。現在集英社発のWebサイト『よみタイ』で、美容と健康に関するエッセイ『午前三時の化粧水』を連載中。

ドライバーWeb編集部

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