2024/01/23 コラム

横顔を眺めながら ---爪 切男の助手席ドライブ漂流--- 第2話「反則な彼女」(日産エクストレイル ✕ 柚乃花)

日産エクストレイル ✕ 柚乃花

久しぶりの再会を果たしたメガネっ娘の“彼女”は、すっかり大人になっていた。日産エクストレイルのハンドルを握る姿を横目で見ながら、いつしか思いはあらぬ方向へ。ダメ男的人生を作品に昇華した著作が話題の作家、爪 切男が描く、助手席からのちょっぴり切ないストーリー。

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 とにかくクルマと縁のない人生だった。

 その日暮らしの気ままな文無しフリーターにクルマを維持する余裕などあるわきゃない。されどクルマはなくとも高楊枝。アイアムペーパードライバー。身分証代わりのゴールド免許とちょっとのおカネ、心にゃでっかい野望と「なんとかなるさ」と根拠のない自信、あとはときどき可愛い女の子。これだけあれば人生は上々だ。そんな感じで私は今までうまくやってきた。アイアムプロフェッショナルペーパードライバー。

 私は何も間違っちゃいないはずだ……よな。車窓から見える夜景をぼんやり眺めていると、自分の行く末が俄かに不安になってくる。まあ明日になれば全部忘れてしまうのだけど。各駅電車に揺られて向かう先は、千葉にひとりで暮らす叔父の家。高校生ぐらいまでは、盆暮れ正月と毎年欠かさず顔を出していたのが、大人になってからはとんとご無沙汰となっていた。海と自由を愛し、海が見える田舎町で悠々自適な人生を歩んできた叔父、そんな叔父が急に腰を悪くしたそうで、一泊二日の予定で東京から様子を見に行くことになったのだ。



 線路は続くよどこまでも、目的地である千葉県最西端の駅「浜金谷」に電車は到着。すっかり寝坊をしてしまい、お昼ぐらいに到着する予定だったのが現在の時刻は夜の10時、もう辺りは真っ暗。ガランとした駅の待合室にこの場に似つかわしくない可憐な女の子がひとり。こちらの姿を確認し、ぱあっと笑顔が弾けたのも束の間、その微笑みは親の仇に向けるかのような怒りの表情へと変わる。





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「もう、久しぶりに会えると思ったのに大遅刻! バ~カ!」
 かれこれ十五年振りの再会になるが、お互いの顔を見るだけで、空白の時間は一瞬にして埋まってゆく。それが幼馴染ってやつだ。この子は叔父の家の近くに住んでいた女の子、いわゆるお隣さんである。歳が近かったのと、私も彼女も一人っ子だったこともあり、まるで兄妹のように仲良く遊んでいた。
 だが、久しぶりに会った彼女は妹ではなく、立派なオトナの女性に変貌を遂げていた。
「この辺もすっかり変わったからさ、道がわかんないかもって思ってわざわざ迎えにきたのに! ま、いいや、一緒に帰ろ♪」
  彼女のクルマに乗り込み、叔父の待つ家へと一緒に帰る。ちょっと窮屈そうにシートベルトを締める彼女が「一泊していくんだよね?」と聞く。
 一泊というキーワードだけでよからぬ妄想がとめどなく溢れ出てきてしまう。子供のころの面影を残したままファンキーグラマラスな体つきに育ちやがって。反則だ。こちとら長旅で疲れてるんだよと居眠りをするフリをして気持ちを落ち着かせるしかない私だった。







ドライバーWeb編集部

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