2023/11/02 新車

安いのか高いのか? BYD ドルフィンの値付けと、けっこう気になる走り

車両本体価格は363万円〜

2023年9月20日、BYDオートジャパン(以下BYD)が注目のコンパクトEVドルフィンの価格を発表した。すでに8月には日本仕様のプロトタイプに試乗をしていたが、評価をするのは価格を見てからと判断していた。
 
標準グレードが363万円という価格は筆者が想定していた価格より高かった。ちなみに同じコンパクトEVの日産リーフはもっとも廉価なバッテリー容量40kWhのXが408万1000円で、ドルフィンほうが約45万円安いのだが。
 
ドルフィンは日本市場にBYDブランドを浸透させるための重要な車種のため、宣伝効果も狙って衝撃的な価格設定にすると筆者は思っていたのだが、意外に高かったのだ。この価格設定は、CEV(クリーンエネルギービークル)補助金の対象になることから、その補助金額65万円を考慮したと思われる。363万円から65万円を引くと298万円になり、ギリギリ300万円を切る。

【画像】BYDドルフィンを写真で見る
 
これも戦略的な価格設定のひとつともいえる。が、自らブランド認知度がまだ低いと言っているBYDにとっては、絶好の機会のはずだが、それを逃がしたかもしれない。日本市場に本気で斬り込むつもりなら、例えばCEV補助金を使って250万円になる314万円くらいの価格設定であればもっとインパクトを与えられたはずだ。
 
■試乗では気になる部分も
 
試乗したのは44.9kWhのバッテリーを搭載する標準グレード。航続距離はBYDによるとWLTCモード(同社の測定値)で400km。試乗がかなわなかった上級グレードのロングレンジ(価格は407万円)は58.56kWhで航続距離は476kmとなっている。
 
標準グレードに乗ってまず感じたのは、EVらしいスムーズな走行フィール。市街地を走ると、路面の段差やマンホールを通過したときのショックが小さい。ただ、サスペンションの動きがいいというよりも、装着されていたタイヤ、ブリヂストンのエコピアEP150(205/55R16)のソフトな乗り心地に助けられているといった感じだ。高速道路での乗り心地はいたってソフトで、ジョイント通過時の突き上げ感もなくはまったくなかった。
 
ロングレンジと標準グレードとの大きな違いはリヤサスペンションにある。標準グレードは一般的なトーションビームだが、ロングレンジはコストのかかるマルチリンク式を採用している。試乗した同業者に聞くとロングレンジも乗り心地はソフトだったようだ。
 
ドルフィンは前輪駆動のみで4WDの設定はない。BYDに4WDの設定について聞くと、ラインアップの予定はないという。将来のグレード展開のためにマルチリンクを採用したのかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
 
※編集部注:ドルフィンの本国デビュー時にはトーションビームのみの設定で、大容量バッテリーと高出力のモーターを搭載するロングレンジは後から追加。これはアット3と同仕様(本国において開発と発売はドルフィンが先だが、日本ではアット3が先に発売)で、車両重量増と高出力モーターによる、よりスポーティな走りに対応するためマルチリンク式を追加設定したことから、このような仕様の差が生まれているという
 
乗り心地はソフトだが、ボディの姿勢がフラットかというとそうでもない。路面からの入力があるとサスペンションとタイヤでいなすが、ボディのバウンジングの収まりに締まりがない。それを如実に感じたのが、首都高・湾岸線の大黒PAに入るための長いループ。ここは横Gがかかりながら路面のうねりを通過するため、車両の安定性を評価しやすい。多くのEVは重いバッテリーをフロア下に配置するため重心が低く、旋回姿勢も安定傾向にある。だがドルフィンは低重心であるはずなのにロールが大きいように感じ、うねりでの車体の収まりも期待したとおりではなかった。
 
ソフトな乗り心地ではあるが、サスペンションのセッティングはEVのよさを十分に出し切れていない。ダンパーの減衰力を伸び側・縮み側ともにもう少し高めれば、ボディの動きが抑えられてしっとりとした乗り心地になるはずだ。
 
■標準グレードは走りの力強さにもの足りない
 
ドルフィンの標準グレードは、EVらしい力強い加速感がないのも残念だ。モーター出力は70kW/180Nmだから馬力に換算すると96馬力程度、トルクはガソリン車の1.8L並みなので1520kgの車両重量を引っ張るにはあまり余裕がない。
 
また、どうやらドルフィンはアクセル操作に対するレスポンスを緩やかな設定にしているようだ。どの走行モードを選んでもクイックに反応することはなく、ガソリン車の小排気量コンパクトカーのようなフィール。クルマ好きを満足させる動力性能を持つとは言えない。比較的安い価格設定になっているが、動力性能もそれなり、ということだ。
 
一方、ロングレンジは150kW/310Nmと倍近くの出力とトルクが与えられているため十分な動力性能を発揮すると予想できるが、今回は試乗していないため評価は控えたい。
 
■安心・快適制御の不安はプロトタイプだからか…
 
気になったのは動力性能だけではない。BYDによると試乗車両は日本仕様ではあるのだが、市販する量産車とは異なる部分があるという。
 
ウインカー操作は右レバーで行え、車高もシャークフィンアンテナの台座の部分を短くして1550mmに抑えて一般的な機械式駐車場に対応しているし、誤発進抑制システムは日本仕様だけに搭載するなど、しっかり日本の環境に合わせこんでいる。
 
が、試乗車で高速道路を走るとレーンキープの誤作動が頻繁に起こった。状況はこうだ。ウインカーを作動させて車線変更をしようとすると、逸脱防止と思われる機能が一瞬作動してステアリングが戻されるのだ。そそのまましっかりと操作を続ければ車線変更できるが、ステアリングをしっかり握っていないと、操作しにくいほどの反力が一瞬ある。量産車ではないものの、こうした運転操作に支障が出そうな制御が起こるのはいただけない。
 
ちなみに、試乗前に誤発進抑制制御やフロントクロストラフィックアラート/ブレーキなどの安全機能は故意に試さぬようBYDから注意があったが、前述の事象は通常の車線変更で起きたもので、前後にクルマなどがいないことも確認している。
 
■ネガティブ要素を助長する詰めの甘さ
 
そのほかにも気になるところがあった。まず、フロアマットが敷かれていなかったためか、フロアまわりからのロードノイズがやや大きかった。EVはエンジン音がないためロードノイズや風切り音などに起因する騒音が目立ちやすい。そこでメーカーのなかには遮音性が高い高機能フロアマットを敷いている場合もある。
 
さらにブレーキを踏むとリヤから異音がした。これはパンク修理キットが荷室のアンダーボックスで動いたときの音だった。メーカーによってはこうした音を防ぐためネットなどに入れてフックに掛けて動かないようにしていたり、さらにフックにこすれたときの金属音を防止するために、防音テープを巻くなど入念に対策していることもある。
 
ドルフィンはミリ波レーダーを使った“幼児置き去り検知システム”を標準採用するなど魅力的な部分もあるが、なにしろ日本に上陸したばかり。現在、アット3とドルフィンの2車種のみ日本にラインアップしているが、日本市場でクルマを売るなら装備だけではなく、もっと細かい部分までしっかりと気を遣うことも必要だろう。
 
〈文=丸山 誠〉

ドライバーWeb編集部

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