2023/03/28 コラム

2022年の違反別取り締まり件数、増えたのはどの違反か? 電動キックボードの行く末にも注目

電動キックボードはこの7月から新たな制度がスタートする

警察庁のWebサイトに「令和4年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」(3月2日付け)が発表された。37ページに違反別の交通取り締まり件数の一覧表がある。私は毎年これを楽しみにしている。



取り締まりの総計は、また減った。参考のため新型コロナ前の2019年から、総計を並べてみよう。10年前の2012年分もついでに。

2012年 1124万4568件
2019年  731万7964件
2020年  716万7365件
2021年  677万5820件
2022年  614万1535件

どんどん減ってるねえ。一覧表には前年と比較しての増減率がある。2022年の総計は前年比マイナス9.4%。以下、違反別に見てみる。

■速度違反

コロナ禍で交通量が減り、かっ飛ばすクルマが増えたとか言われた。「最高速度違反」の取り締まり件数を、このさい2012年からぜんぶ拾ってみる。

2012年 222万1120件
2013年 205万2719件
2014年 183万5930件
2015年 174万5259件
2016年 161万1238件
2017年 147万8281件
2018年 123万7730件
2019年 113万7255件
2020年 116万2420件
2021年 106万4818件
2022年  93万2260件

おお、コロナ真っ盛りの2020年、確かに増えている。コロナ禍で交通量が減り、というあの話は本当だったんだ! いやそんなことより、10年前は軽く200万件を超えていたのに、どんどん減ってついに100万件を割るとは「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり」(平家物語)。

ただし、2022年は超過50キロ以上に限っては増えた。1万2106件から1万2396件へ前年比2.4%の増加だ。なぜなのか、現時点ではよくわからない。

■チャイルドシート違反

違反別で減少率が最も大きいのは「幼児補助装置使用義務違反」、つまりチャイルドシートの違反だ。47万3389件から38万7931件へマイナス25.4%。チャイルドシートが普及してきたのか、少子化の影響か。

■酒酔い運転

一方、取り締まりが増えた違反がある。酒酔い運転は490件から562件へ14.7%増えた。もとの件数が少ないから、ちょっと増えても増加率が大きくなるわけだが、不景気で深酒したくなり、代行運転を利用する余裕がないってこともあったりして。

■過積載

過積載も増えた。3333件から3573件へ、7.2%の増加だ。何か理由があるのか、関東ダンプ協議会に電話してみた。山内健人議長によると、国交省が道路の老朽化対策を言っており、警察庁が協力したのでないか、とのこと。砕石等を運搬するダンプは、下請け、孫請けの構造で、定量積載では生活が厳しいという事情もあるらしい。

■歩行者妨害

32万5796件から33万6504件へ、3.3%の増加だ。件数的には1万708件の増加で、どの違反の増加件数より多い。やっぱり警察は「交差点違反」の取り締まりに重点をおいているようだ。一時不停止は前年比7.7%減っているが、それでも2022年は146万6131件。2位の速度違反を大きく抜いて堂々のトップだ。

さてさて、取り締まりが増えた違反も一部あるが、総数はどんどん減っている。違反自体が減ったのか、取り締まりのノルマ(努力目標)が緩くなったのか、あるいは別の原因か。なんにしても、取り締まりの減少は大きな問題をもたらす。

「罰金」は国庫に入り一般財源となる。「反則金」も国庫に入るが、交通安全対策特別交付金として地方に交付される。駐車違反限定の「放置違反金」は国庫へ行かず、取り締まりをおこなった都道府県の収入になる。放置違反金の納付命令件数はこうだ。

2012年 150万8564件
2021年   75万6316件
2022年   69万8533件

また、運転免許停止処分を受けた人のだいたい8割ぐらいは、停止期間を短縮してもらうために、有料の「停止処分者講習」を受ける。取り締まりが減ればその収入も減る。財源が細るのである。「警察庁は無能か(笑)」なんて、中央省庁が集まる霞が関の界隈では言われたりするんじゃないか。どうする?

2023年7月から、電動キックボード(以下、電ボ)について新しい制度がスタートする。20キロを超える速度を出せないとか、いくつかの要件を満たした電ボは反則金、放置違反金の対象になる。要するに、クルマやバイクと同じように取り締まりを受けるってことだ。

1、電ボは面白くて便利。どっと普及する。
2、YouTuberが危険で迷惑な運転を競ってやったり、社会問題になる。
3、「取り締まれ!」との大合唱が起き、厳しく取り締まる。

反則金、放置違反金の収入が増加に転じる。そこまでは普通に想像できる。私としては、そのうえでこう進むのではないかと読む。

4、「電ボは自転車道と歩道を走る。自転車と同じだろ。自転車の無謀運転も多い。自転車も厳しく取り締まれ!」と、テレビの取材に歩行者が答える。スタジオで芸能人の方々が同じ趣旨をもっと面白く言う。
5、自転車の違反に「自転車違反金」の制度を創設。違反者ではなく車両の持ち主からペナルティを徴収するその制度を、電ボへ拡げ、クルマ、バイクの違反へも…。

今年6月下旬頃から世論がどっちへどう盛り上がっていくか、注目だ。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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