2023/01/18 コラム

新型プリウスは「カローラクーペ」だった? 乗り降りしにくくなっても手に入れたかった新境地

●2023年3月ごろの発売を予定するPHEV。アルミホイールはHEVと異なる意匠の切削光輝加工+ブラック塗装。サイズは2L HEVと同じ195/50R19

「プリウス」のブランドは残しつつ、ひょっとしたらタクシー専用車になるかもしれなかった5代目。それを回避しスポーツクーペとも呼べる存在へ昇華した新型。その開発を指揮した大矢賢樹 製品企画ZF 主査にお話を聞き見えてきたのは、突然変異ではなく必然とも言える “変わるべき” 理由。そして “カローラ” という絶対センターの存在だった。


●TNGA由来のGA-Cプラットフォームも第2世代に進化。全高は先代より40㎜低くなり、スポーティなルックスとともに大幅な低重心化を実現した

■社長はまだ納得していない?

DR
 見た目も乗り味も変わりましたね、新型プリウス。ところで昨年のワールドプレミアで、豊田章男社長は当初「プリウスはタクシー専用車でいいんじゃないか」と言われたと聞きましたが、そのときのニュアンス…というか、雰囲気はどうだったのでしょう。

大矢 普通の議論のなかで普通に自身の考えを言われたように感じました。「自分はコモディティ(日用品のような存在)だと思うけどね」という程度の。 “絶対にコモディティなんだ!” という感じではありませんでした。

距離を長く走るクルマの数を増やすことで、結果、カーボンニュートラルに向かう世界に貢献するという合理的な発想です。もうひとつ、「OEMに出したらどうか?」という話もありました。そういったかたちで数を増やすのがプリウスの役割じゃないかと。われわれ(技術者側)はブランドや今まで培ってきたものを含め、新型プリウスをコモディティではなく、お客さまに1台でも多く長く乗っていただけるクルマ=愛車にしたい。その方向で行きたいと社長に伝えました。


●昨年東京で行われたワールドプレミアの壇上。左から藤原裕司 プロジェクトチーフデザイナー、サイモン・ハンフリーズ デザイン領域 統括部長、そして今回お話を聞いた大矢賢樹 製品企画ZF 主査。いずれも新型プリウスを “愛車” に仕向けたキーマンだ

DR なぜコモディティではなく “愛車” の方向で行くとなったのですか。やはりこのデザインだったから?

大矢 いえ、この議論以前からデザインは見てもらっていました。評価も「いいね(It’s COOL)」と。ただし、評価はするけど「今でもコモディティにすべきだと思っている」とも。最終的には「実際に世に出てクルマが出してくれる答えに期待している」という言葉をいただき。そして、「最後はお客さまが決めることだ」と。

DR 開発陣にハッパをかけるような意味だったのかなぁと思っていましたが、普通に提案されたんですね。

■立ち位置はBMWの偶数番

DR でも1台でも多く売るとなると、コモディティのほうが可能性はありますよね。それでも愛車にこだわったのはなぜ?

大矢 同じトヨタのCセグメントには「カローラ」がありますが、現行型に代わり、正直プリウスとの役割の違いがわかりづらくなっていました。同じプラットフォームで同じ1.8Lのハイブリッド(HV)ユニットを積んでいて。お客さまからすると「何が違うの?」と。

販売店も、もともとプリウスは全店扱いでしたが、カローラが全チャンネル扱いになって。そうなると、(たぶん)元々のカローラ店はプリウスとの売り分けができるんですけど、ほかの系列店はこれまで売ったことがないクルマになるので難しい。販売店側からも「明らかに違うほうが売りやすい」という声をいただいていました。

そうなるとカローラは、生活や日常使いにおいて “ど真ん中” 。例えば現行型はユーティリティを少し落としていますが、そこを重視するならカローラ クロスがある。ど真ん中で構えてくれるクルマがある分、僕たち(プリウス開発陣)はこうした方向にとんがれた。トヨタのCセグメントのなかで役割をしっかり分けることを考えた結果です。


●現行型カローラシリーズの登場以降はプリウスとのビミョーな関係が続いたが、今後はいいシナジーが期待できそう。22年10月の改良でカローラ クロスを除く1.8L HV車は、新型プリウスと同じ新型電動モジュールに置換された

DR 確かにカローラシリーズに “クーペ” のようなモデルはないですからね。

大矢 欧州のCセグメント群でいうと、トヨタにはカローラのセダン、カローラ スポーツ、カローラ クロスの王道がいて、クーペライクな方向にプリウスとC-HRが構えています。後者はBMWさんで言うところの “偶数番” のようなラインアップ。これからそんな見せ方をしようとしています。

DR BMWの偶数番って、スポーティさとか色気みたいな “エモーショナル” な要素をすごく大事にしていますから。納得です。

大矢 結果としてそうなったのですけど。世のハヤリに合わせて「プリウスもクロスオーバーにすればいいじゃん」という話もありました。でも、それだと今度はC-HRとダブってしまう。出力を上げて走りをよくしながら燃費のよさを維持するためのベースの環境としてスタイルは背の低いセダン系を基本とすべきだと。


●シンプルでクリーンなデザインを実現するため必要以上の造形要素やキャラクターラインを排除。断面変化で見せるボディサイドの抑揚がエクステリア最大のハイライトだ


●次世代トヨタ車の顔を印象づけるハンマーヘッド。「これまではヘッドライトで顔をつくるという考え方がありましたが、ランプを小さくできる技術により、“フロントまわり” という考えで造形できるようになりました」(大矢)

■守りと攻めるべきところのバランス

大矢
 それからカローラのHVは1.8Lだけですが、今度のプリウスには2Lもあります。それもある意味住み分けです。国内のトヨタで1.8Lと2Lの両方にHVを設定するのは新型プリウスが初めてです。2LのHEVを訴求すべく中心に据えて走りとデザインにこだわりました。PHEVは、その高出力版という扱いです。

DR カローラにPHEVはないですからね。豊田社長のコモディティ発言も、もしかしたらカローラとの住み分けを考えてのことかもですね。

大矢 そういう考えがあったのかもしれません。役割や意味合いをしっかり考えて。社長は僕らよりも広く多角的に見ているので。


●「顔を正面真上から見るとハンマーヘッドがまつ毛のように飛び出しているのでランプが見えません。きれいにモノフォルムを通すための工夫です」(大矢)

DR カローラクーペ…じゃないですが、位置付けはそれに近いかも。基本を担保してくれるど真ん中のモデルがあるからここまでプリウスは変われたと。

大矢 アクアもヤリスとヤリス クロスがHVを出したことで役割が変わり、上質な方向へ行けた。プリウスも一緒です。HVを普及させる役目は終えていて、「今後はどうする?」というステージに移っている。現在(プリウスは)年輩の方にも多く乗っていただいていて、もしかしたら新型は先代よりも乗りづらいクルマになっているかもしれません。

DR 今は年齢がそこそこいっていても攻め系の人が多いですから。クラウンもしかりで、新しいトヨタ車のイメージをけん引する存在としていい位置に収まっているような気がします。デザインも “置き” にいっていない。

大矢 先を読むのは難しいですね。時代の流れで今後どうなるかわかりませんし、また元に戻る可能性もなくはないですけど。でも、今の答えはこれです。



●なんだか先代がものすごくヤボったく見える!?

〈文とまとめ=ドライバーWeb編集部 写真=山内潤也〉

ドライバーWeb編集部

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