2022/12/28 コラム

大阪でパトカーが違反をもみ消して処分…じつはその違反、不成立の道だった!?

読売テレビニュースより

パトカーが一方通行を逆走したうえ、その違反のもみ消しを図った! 2022年12月21日、テレビ、新聞が一斉に報じた。たとえば読売テレビニュースは「パトカーで一方通行の道路を逆走『まずいな。消すわ』違反を隠ぺいウソ報告 大阪府警の警察官2人処分」と。

私は違和感を覚えた。一方通行の規制は、入口に一方通行の標識(長方形の板+青地に白矢印)を、出口に進入禁止の標識(丸い板+赤字に白の横棒)を設置して行う。路地を進んで突き当たりの道路が左右どっちかへ一方通行の場合などは、指定方向外進行禁止の標識(丸い板+青地に左右どちらかへ曲がった白矢印)を設置する。


●一方通行の標識


●進入禁止の標識

だが、どのニュースにも一方通行の標識しか出てこない。ん? こう見えて私も、テレビ番組のスタッフ氏らといっしょに交通違反がらみの現場へ行き、コメントをしたことが何度もある。カメラマンは、さすがプロフェッショナル、必要な映像を的確に押さえる。大阪の今回のケースで、赤くてインパクトのある進入禁止の標識を、撮らないはずがない。どういうこと?

高齢者は脳内で複数のことを同時に処理しにくくなるという。今回のニュースで進入禁止等の標識を出すと、テレビの重要な視聴者層である高齢の方々が混乱しかねない。「進入禁止の違反を一方通行違反と報じるとはひどい誤報だ。けしからーん!」とクレームの電話が多数くるかも。よけいなものは出さないでいこう、そう考えたのかな。

ところが! 当Webサイトの編集長がGoogleMapのストリートビューで現場を見つけてくれた。URLを教えてもらい、見た。念入りに見た。なんと、進入禁止の標識も指定方向外進行禁止の標識も、ないではないか。そんなバカな!



私はよく『執務資料道路交通法解説』(東京法令出版)から引用する。道路交通法が改正されるたびに更新され、現時点で最新は18-2訂版、上下2段組1531ページで4800円+税だ。このぶ厚く難解な解説書を私が最初に見たのは、もう40年ほど前、警察庁交通局の執務室の、ある課長補佐の机の上だ。市販されていると聞き、それから頑張って買い続けてきた。

そこに、「道路標識等の効力に関する判例」「一方通行に関するもの」として、いくつか判例が載っている。うち2つについて、少し抜き出そう。

◇◇◇

「『一方通行』を行う道路の入口に所定の指導標識(現行の規制標識)を設置するほか、その道路の出口等所要の場所に指定方向に逆行する通行を禁止すべき内容の『禁止標識』(現行の規制標識―車両進入禁止)を設置することを要する。」(昭和37・4・30最高裁)

「『一方通行』を指定した区間の入口および区間内の必要箇所に『一方通行』の規制標識を立てるほか、その出口等所要の箇所に『車両進入禁止』または『指定方向外進行禁止』等禁止方向に進行する車両の通行を禁止すべき内容の規制標識を立てることが必要である。」(昭和39・12・14大津簡裁)

◇◇◇

道路交通法の誕生は1960年(昭和35年)。間もなくそんな判例ができ、今に至るわけだ。もう少し言うと、道路交通法施行令第1条の2が、標識による交通規制についてこう定めている。

「歩行者、車両又は路面電車がその前方から見やすいように、かつ、道路又は交通の状況に応じ必要と認める数のものを設置し、及び管理してしなければならない。」

これじゃ漠然としている。具体的にどうすべきか判例で示す、そういう形だ。ところが、私が見た複数のTVニュースに出てくるのは一方通行の標識だけ。ストリートビューによれば、進入禁止の標識も指定方向外進行禁止の標識も、なんと言っていいのか、存在しない!

道路の出口の左右に一方通行の標識が立っている。「この道路は一方通行なのだな」と、わかるといえばわかる。しかしそれだけじゃ足りない。進入禁止の標識を「設置することを要する」「立てることが必要である」のだ。

そのストリートビューが本件現場のもので間違いないとすれば、パトカーの一方通行違反は成立しない。パトカーの警察官らは、成立しない違反をもみ消そうとし、処分を受けた。それをテレビ、新聞が全国報道…。もしかしてこの道路では、一般のクルマ、バイクを一方通行違反でけっこう取り締まっていたのではないか…。前代未聞の事態といえる。今後どうなっていくのだろう。

※追記:一方通行道路へ入って直進し、十字路をさらに直進した先に、進入禁止の標識がある。そこから十字路までは逆走の違反が成立する。だが十字路に進入禁止の標識はなく、そこから本来の入口までは逆走の違反は成立しない。


文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称

ドライバーWeb編集部

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