2022/12/13 コラム

なぜヘッドライトをつけない!? 無灯火車両に現役トラックドライバーが感じる恐怖とは

●オートライト義務化は進んだものの、新旧混在の道路環境では無灯火がまだまだいる

■きっかけは自発光式メーター!?

夕方も4時を過ぎるとヘッドライトを点けたくなるが、日もとっぷり暮れたこの時期、6時過ぎでも無灯火で走る普通車が! でも、さほど珍しいことじゃない。日々トラック運送に従事する筆者にとって、けっこう目に付くのがヘッドライトを付けずに走行する普通車なのだ。


●11月半ばの夕方5時過ぎ。日はとっぷり暮れているが、周囲の明るい市街地を走っていると、自車の無灯火への意識は鈍りがち。無灯火ではないが、ライトが片方切れていても気づかなかったり、ってのもありがち

こうした無灯火車、交通量が少なめの暗い道ではまずいない(暗闇を走っていればさすがに点灯する)。見かけるのは、クルマの流れが多めで周囲の明るい市街地道路や幹線道などだ。「なんで、夜にライトを付けない!?」。降りて行って指摘したいところだが、あおり運転の輩が跋扈(ばっこ)する昨今ゆえ、怪しまれて通報されてもナンだし…と、躊躇すること数度。よくないんだが、(無灯火に)早く気づけと思いつつやり過ごすのだった。


●一般道ではないものの、この日もあたりがすっかり暗くなった夕方5時半に、流れの悪い常磐自動車道上で無灯火車に遭遇。左方ハイエース営業車の前方にいるミニバンは、この後も無灯火で走り続けていた

ご存知のように、昔はこんなことが少なかったように思う。皆さんも聞いたことがあるだろうが、夜間の無灯火車が増え始めたのは、ライトオフの状態でも運転者の目の前が明るくなっている”自発光式メーターの普及”と関係があると言われている。



●国産で初めて自発光式メーターを採用したトヨタ セルシオ(1989年)

国産では1989年のトヨタ セルシオの自発光式メーター採用(メーカー名称はオプティトロンメーター)が最初らしいが、メーター面奥から直接光を発する自発光式は、2000年以降に一般車に普及したように思う。イグニッションをオンにすると、昼間でもメーターが発光し(そのため常時発光式とも言われる)、表示が浮き上がる感覚で見やすい一方、ライトのオンオフに関係なく発光するため、昼夜問わずメーター周りの明るさはそのまま。それが夜間走行時の盲点となった。従来型では、ライトオフではメーターが暗く、夜間はライトスイッチを点けるように促されるが、自発光式メーター採用車では、周囲の環境が明るいと自車の無灯火に気づかないまま走ってしまうというわけだ。

そうした不注意をなくすため、自動車メーカーもライトスイッチにオートモードを採用し(2010年代以降から徐々に導入され始めた感じか)、暗くなると自動点灯する機能を取り入れるようになった。そして2020年からは新型車でのオートライトが義務化となり、ライトスイッチのオフ位置を廃止して初期設定をオートモードとするモデルも出始めている。そうした方向は、夜間無灯火車対策としては歓迎すべきだが、当然新旧の車両が混在する現状ではすべてのクルマがそうなっているわけではない。


●オートライトが普及して以降の、一般的なライトスイッチ(日産自動車HPより)。上からライトオフ、オートモード、ポジションランプ、ライトオン。なお、2020年以降に生産の国産新型車では、従来のオフ位置がないライトスイッチが標準化されるようになった

■トラックの視点からの見づらさと怖さ

これまでは、夜間の無灯火車について話を進めてきたが、じつは無灯火で怖い状況はほかにもある。昼間にトンネルに入ってもライトを点けない場合や、曇天の雨天走行での無灯火車だ。特に雨天時、自分のトラックが巻き上げた水飛沫が後方に飛び散る状況では、斜め後方にいる普通車が非常に確認しづらいのだ。

ご存知のように、大型トラックの運転者の視点は10トン車の場合で2.4m以上、4トン車でも2.2m前後のため、普通車よりはるかに高い。視界がいいので遠目まで見通せる一方、灯台下暗しと言おうか、近場左右の状況確認が難点になりがち。そして、運転席(キャビン)の後ろが荷室箱になっている箱型貨物トラックの場合、荷室後端上方にバックカメラを設置してあり(2トン車や平ボディの大型トラックなどは、バックカメラ非装備の場合もある)、後進時はこのカメラを見つつ、左右のミラーも併用して動くのだが、構造的な死角が当然ある。それが自車の側方後ろなのだ。そこに無灯火車がいて、夜間や荒天時の視界の悪い状況が重なると、進路変更をしかけたときなど、暗闇に潜む普通車にヒヤッとした経験のあるトラックドライバーは少なくないはずだ。

■自車の視認性のみならず、被視認性へも意識を

前述したように、ここ5〜6年の間に生産された普通車には、大体オートライトモードが装備されている。だが、任意でライトをオフ位置にしていれば、無灯火で走ってしまう場合はある。そして、オートライトモードが装備されていない普通車は自分でライトを点灯することになるが、街自体が明るい都会の夜間などでは灯火を忘れてしまうのだ。

そうした無灯火走行抑止策として、初期設定からオートライトモードの新型車が登場したことは先に述べたが、厳密に言えばこれにも盲点があるようだ。ひとつは、運転者の人災とでも言おうか、ライトを自動点灯するための暗さ検知用センサーを、効かなくしている場合があるのだとか。大概の場合センサーはダッシュボード前方に設置されているが、そこに帽子とか紙切れなどが置かれたりすると、センサーの誤作動を招く場合があるそうな。


●オートライト用センサーの標準的な設置位置(同HPより)。ダッシュボード前端にあるセンサーが、屋外の明るさを検知し、一定以下の暗さになった場合に自動的にライトオンする(オートモードの場合)仕組み。だが、このセンサーの上に帽子や紙切れなどを置いてしまうと、センサーの機能を阻害する場合もある

また、センサー自体の暗さの検知設定の問題。どの程度の暗さでライトが点灯するかは、各車種ある程度センサーの明度基準の設定が揃えられているはずだが、各車のライトが同所同時刻で一斉に点灯なんてことまずない。センサーによって早めだったり遅めだったりの差はあるだろうし、それを補うのはドライバー側。ヘッドライトの点灯を意識するのは、大概は自分(自車)から周囲が見づらいときだろうが、それ以上に相手(他のクルマや、歩行者など)から自分のクルマがきちんと認識されているかも、意識してほしいのだ。

特に、大型トラックの場合、高所からの視認のため、普通車が側方にいる気配がじつにわかりづらい上に、側面後方の視界が不自由という弱点がある。もちろん、トラックドライバーが細心の注意を払うのは当然として、普通車の皆さんには、もしトラックの側面後方に自分のクルマが位置していたら、「このトラックの運ちゃん、自分のことわかっているだろうか」と、疑心暗鬼の気持ちで走行してほしいのだ。またそのためにも、早めの灯火、忘れない点灯をまずはお願いします。


●文中でも言及した自発光式メーター。写真はスカイライン。速度&回転計のほか、さまざまな情報を鮮やかに表示するのは進歩だが、これが普及して10年以上は経つ現在でも、夜間の無灯火走行をちらほら見かけるのはいただけない。その間でも各自動車メーカーは、夜間無灯火の抑止に相応の対策はしてきたのだが…

〈文と写真=阪 和浩〉

ドライバーWeb編集部

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