2022/12/05 コラム

「免許証を見せてください」…取り締まりに納得いかず、見せなかったらどうなる?

著者、今井亮一の免許証

「免許証を見せてください」。交通取り締まりの警察官は必ず運転免許証の提示を求める。

「納得いかない。免許証を見せたくない」

そう感じる方もおいでだろう。昔は「免許証を見せろ? 任意か強制か。任意なら見せない」とモメることがよくあった。昔は4つの違反、すなわち飲酒、無免許、過労、大型車の無資格運転のどれかのときしか、免許証の提示義務はなかった。

だが、今はそうはいかない。4つの違反の場合に限らず、免許証を見せない(提示しない)だけで逮捕されることがあり得る。どういうことか、ごく簡単にご説明しよう。

2009年9月19日、飲酒運転の厳罰化が大報道された。刑罰の上限は、懲役刑が3年から5年に、罰金は50万円から100万円になった。じつはあのとき、免許証の提示義務の範囲が、上記4つの違反からぐっと広がった。そこはほとんど報じられなかった。新たな「運転免許証提示義務違反」は、以下のような組み立てになった。

1、飲酒、無免許、過労運転と、大型二輪、普通二輪の無資格での高速道路の2人乗りと、大型車、中型車、準中型車の無資格運転、それらの場合に警察官は免許証の「提示を求めることができる」(道交法第67条第1項)
2、それら以外の違反と交通事故(物損も含む)の場合は、警察官は「引き続き当該車両等を運転させることができるかどうかを確認するため必要があると認めるときは」免許証の「提示を求めることができる」(同条第2項)
3、その求めがあったとき、運転者は免許証を「提示しなければならない」(同第95条第2項)

罰則は5万円以下の罰金(同第120条第1項第9号)。というわけで、前出の「4つの違反」の場合に限らず、免許証を見せない(提示しない)だけでアウトになったのだ。住所氏名等が不明だと「逃亡のおそれあり」とされる。提示義務違反の取り締まりは逮捕(強制的な身柄拘束)を伴うだろう。

じゃあ、無免許運転や、免許証不携帯のときはどうなるのか。そこは交通警察官向けの“虎の巻”、上下2段組で1531ページ、『執務資料道路交通法解説18-2訂版』(東京法令出版)がこう解説している。

「本罪は現に免許証を所持している者が提示に応じない場合に適用されるものであることから、運転者が無免許や免許証不携帯であることが判明している場合には、無免許運転や免許証不携帯違反は成立するが、免許証提示義務違反は成立しないことととなる」

無免許かどうかは、氏名、生年月日、住所を運転者から警察官が聞いて無線で本部に照会をかければ、すぐわかる。無免許ではないと確認され、「免許証は家に忘れた」とか言っているケースは、免許証不携帯で取り締まるなり適宜対処するだろう。もちろん、運転者が言った氏名等が本当かどうか、他人に成りすましてないか、慎重に調べるはずだ。

ちなみに、飲酒運転の呼気検査、あれを拒むと検知拒否罪(第118条の2)になる。その裁判を私は2件、傍聴したことがある。拒否ソク逮捕とはいかないんだね。「何時何分から何分間、粘り強く説得したが、被告人は最後まで拒否した」、そういう立証が必要なのだ。免許証の提示義務違反も同様と思われる。

免許証の提示を拒んで氏名等も明かさないあなたに対し警察官が、提示するよう説得しつつ腕時計をちらちら見始めたら「あっ、逮捕しようと時間を計ってる!」と思ったほうがいいかも。

なお、ネットではなぜか「免許書」という語をときどき見かける。道交法的には「免許書」という語はない。第92条第1項に「免許は、運転免許証(以下「免許証」という。)を交付して行なう」とある。免許書ではなく免許証です。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称している。

ドライバーWeb編集部

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