2022年11月28日に6代目となる新型が発表された日産セレナ。そのデザインについて、プログラム・デザイン・ダイレクターを務める入江慎一郎氏、エクステリアデザインに携わった小泉顕一郎氏に伺った。
【画像】新型セレナのフロントフェイスほかーー2005年登場の3代目からサイドウィンドー下端の階段状のラインを「シュプールライン」として導入。これがデザイン上の特徴になっていますが、今回の6代目はそれありきでデザインしたのでしょうか?
小泉氏:シュプールラインはエクステリアデザインでもっともセレナらしさを象徴しているところです。そこを今回活用していかにセレナらしさを強調していくかというキモの部分だと認識してデザインを進めました。
ーー最初から踏襲ということですか?
小泉氏:そうですね、踏襲というか、これをさらに超えていこう、そういう意気込みでデザインしました。
入江氏:記号性になっていて、セレナの代名詞でもありますので、そこはあえて変える必要もなく、むしろそれをより進化させるにはどうしたらいいか、というのをずっと考えてきました。
ーープラットフォームが従来型改良版であることによって、Aピラーの下端のポイントが制約を受けるのでは?
小泉氏:おっしゃるとおりで、その前提でいうと“デザインしろ”は限られるんですよ。そこを最大限使い切るということで今回のシュプールラインを進化させました。デザインしろを使い切りましたね。
入江氏:簡単に言うとAピラーの付け根のところを下げきったんです。限界まで下げた。それによって下方の視界が改善されたり、あと今回の特徴となるグリルから始まって黒くしたフェンダーフィニッシャーを通ってシュプールラインが車の全周、全部つながったみたいな。それによって特にサイドビューから見たときに、クルマがすごく長く、大きく見える。ファミリーカーなので、キャビンをどれだけ大きく見せるか? ゆったりとした室内空間で過ごす印象を、外観からも感じていただきたいという思いで開発しました。
小泉氏:すごく開放的な印象で見ていただけると思います。
ーー顔まわりは先代に比べてだいぶ印象が変わって見えるのですが、縦3灯のヘッドライトはどういったところからアイデアが出てきたのでしょうか?
小泉氏:今回、スッキリとした、シームレスさをコンセプトに掲げてきました。今まではライトはライト、ラジエターグリルはラジエターグリルと独立して考えるのが常套だったと思いますが、今回はまったく発想を変えて、グリルとライト、それ以外の要素を全部きれいに整理整頓したらどうなるんだろうという実験的なところからデザインを始めました。そこで最後にライトと調和させたら、スッキリ感が一番引き立つかということを考えたときに、この縦並びのレイアウトに落ち着きました。そういう順番ですね。
入江氏:まあ、(日産車のフロントマスクに共通する)Vモーションとの相性がすごくいいんですよ。縦にムーブメントを持っているVモーションに対して、横ですと、そこで1つ要素が変わってしまうので。縦3灯のヘッドライトはもうVモーションの一部ですね。デザイナーはアイデア勝負なので(笑)。
ーー顔付きには、やり過ぎ感はないですよね
入江氏:そこはすごく気をつけてデザインしてきました。日産自動車のパーソナリティって、上品さが必要不可欠なんですよね。それがあって、オーテックのアクセサリーとか、ハイウェイスターを作る上でも上品さを失ってはいけないというのが私たちも共通認識です。だからハイウェイスターといえども、押し出しをある程度強くしますが、そういったインテリジェントな部分は失わずにデザインを開発してきました。そこはターゲットカスタマーでもある、日常使うお母さん方にもちゃんと受け入れていただけるような優しさもある。かといって普通すぎない。その絶妙なバランスにすごく気をつけながらデザインしました。
押し出しが強いだけだと、わが社でいうとGT-Rなどは、わりと簡単なんですよ。ある1つの方向性だけで突っ切ってしまえばいい。だけどそこから“引いて”いかなければいけないという。そこをどこで止めるかという微妙なところがプロフェッショナルとしての力の見せ所だと思っています。
小泉氏:本当に入江と一緒に研究し尽くしました。上品なだけだと普通になってしまう、ダイナミックだけだと、ともすれば仰々しいものになってしまう。その両方が共存しているのが日産らしさの真骨頂かなと。それがセレナらしさとして引き継ぐところかなと思います。顔もここに行き着くまで何度もやり直しました。
入江氏:もう線1本を変えるだけでまったく印象が変わるんですよ。そういう地味な作業です。デザインって派手な職場に見えるんですけれども、けっこう地味なんです(笑)。
〈文=ドライバーWeb編集部〉