2020/12/24 モータースポーツ

日本人F1ドライバー角田裕毅選手はレッドブル育成プログラムで何を学んだ?

レッドブル育成プログラムで学んだこととは


F1昇格が決定した角田裕毅選手と初めて会ったのは2019年5月。F1スペインGPと併催されていたFIA F3の第1ラウンドに角田選手はチーム イェンツァーから参戦していた。結果は確かレース1が9位、レース2が7位というものだったのだが、チームでロガーデータを確認したSRS-Fヴァイス・プリンシパルにて元F1ドライバーの中野信治さんが「彼には何も言うことはないね」と言っていて驚いたというのが強く印象に残っている。

実際、このときもチームの3台のマシンのうち、角田選手は唯一ポイントを獲得していたし、続いて取材した8月のベルギーではついに2位表彰台に。そして翌週イタリアでは勝利を射止め、2020年のF2昇格に至るのだ。

そんな角田選手はホンダの育成ドライバーであると同時にレッドブルの育成プログラムであるレッドブル ジュニアチームの一員でもある。中野氏が言うようにドライバーとしての運転技術はすでに高いレベルにあった角田選手だが、この2年間にレッドブルの一員としてさらに学んだこと、身につけてきたことは何だったのか。先日行われた合同インタビューで筆者がそれを聞くと意外な、いやしかし聞くほどに納得な、こんな答えが返ってきた。

「特にこの1年間で大きく成長したと思うのはメンタル面ですね。F2に上がったときにメンタルトレーナーをつけてもらって、予選やレースにどんな気持ちで入っていくか、ダメだったところはどう改善するのかなどを毎回話し合いました」

じつは冒頭に記したF3の最初のラウンドで筆者が感じていたのは、角田選手の意思の強さだった。海外レースは初めてであるにも関わらず、物怖じも萎縮もせずにセッティング面などでチームにもしっかり主張している姿に頼もしさを覚えたものだ。そんな角田選手でも、メンタルの成長を第一に挙げたというのは、とても興味深く思えた。

自らの弱点を解決するために



シーズン前には、自らの性格や考え方などを知るためのテストを受けたのだという。最近の若手ドライバーでは、フィジカルだけでなくメンタルも、こうしてチェックされるのがフツウのことになっている。

「僕は、今年スーパーライセンスを取れなかったらどうしようとか、このレースでミスをしたらどうしようとか先のことを考えがちで、そのぶん緊張も増すし焦りも出るというのが弱点でした。それを改善するためにトレーナーとふたりで色々と試していって、シーズン中盤には目の前のことに集中できるようになった。例えば予選直前だったら1コーナーでのブレーキングやシフトダウンのことしか考えない。それができるようになって緊張や焦りはずいぶん解消されましたね」

主張はしっかりしていて、たたずまいはクールというか飄々としているというか、そんな風にも見える角田選手だが、じつは案外、心配性なところがあったというのだ。あるいは、それを隠すために淡々としているみたいな部分もあったのかもしれない。

「それと僕は結構熱くなりやすくて、予選のアタック中に邪魔されると無線でワーワー叫んでいた。止めたほうがいいとチームからも言われていて、実際叫んでるときは結果もよくなかったんです。バーレーンの2連戦のうち、1戦目はフリー走行で赤旗中断とかアタック中に邪魔されたりで、言わないようにしようと思ってたのに、無線でワーワー言ってしまった。そうしたら予選で焦りが出て、早くタイムを出そうとしてスピンしてグリッド最下位になってしまって。それもあって2戦目は、フリー走行で何度も邪魔されたりしたんですが、叫ぶのは抑えて。結果的にまったく違う週末になって、それが年間ランキング3位とスーパーライセンス獲得に繋がりました」

熱くなりやすいと聞くと意外に思う人もいるかもしれないが、確かに、F3の初戦からのしっかりとした態度からしたら、秘めたものは強かったということだろう。むしろ、それをいかにコントロールするかが課題だったわけだ。

このレースを実際に観ていた人ならば、ハースF1のドライバーに決まっているニキータ・マゼピン選手の執拗なブロックなどを目にしただろう。それでも焦らず、怒らず。実際、それがなければ、スーパーライセンスには手が届かなかったのである。

F1を視野に入れたドライバーとして、速さを持っているのは当然。周囲にも、その意味では同じようなレベルのドライバーが集まっているなかで抜け出すには、いかにそれをマネージメントして、発揮させていくかが重要になるというわけである。

レッドブルジュニアプログラムだけでなく、他のチームが行っている育成プログラムも、こうした内容には大きな差はないはずだ。フィジオがついて身体トレーニングを行うのはもちろん、やはり専門機関でのメンタル測定やトレーニングなども実施され、言ってみれば完成されたドライバーとしてF1に送り込まれる。デビュー時から速さを見せ、しかも冷静沈着であり、チーム内の神経戦も制してみせたフェラーリのシャルル・ルクレールなどはその典型例と言っていいかもしれない。

好きなホンダ車は「S2000」と現行シビック タイプRだなんて!



 
しかしながら、こうしてインタビューに答えてくれた角田選手は、そうした言わばF1操縦機械のような冷たさを感じさせない、人間味あふれる青年だった。実際、今回も好きなホンダ車として真っ先にS2000(と、現行シビック タイプR)の名前を出したり(!)、アルファタウリとの契約書を交わす際には、ぐっしょり手汗をかいたなんて話をしてくれたりと、21歳の若者らしい素顔も見せてくれた。この強さと軽やかさ、レッドブルやアルファタウリのイメージには、まさにぴったりじゃないだろうか?

2020年のアルファタウリはピエール・ガスリー選手のドライブで久々の優勝を遂げた。2021年の角田選手にも表彰台、そして優勝を目指してほしい。ホンダファイナルイヤーに、その先に繋がる結果、期待して応援したい。

〈文=島下泰久〉

ドライバーWeb編集部

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