2020/08/28 モータースポーツ

今さら聞けない!? ラリー用語解説 ラリーガイドってなに? アイテナリー?【連載第2回:現役ラリーストが解説するラリーワード集】



サーキットのレースと違い、公道を使って行うラリー。その特殊な競技形態ゆえに、普段使わないような言葉や単語がラリーの世界では使われている。そんな専門性の高いラリー用語を、現役ラリーストが解説してくれる、連載「現役ラリーストが解説するラリーワード集」。第2回目も“アジパシチャンピオン”川名 賢選手が、わかりやすく説明してくれるぞ。

今回からは、実際にラリーへ参戦する選手目線での解説がスタート。選手はどんなところをチェックして競技に参加しているのかが、一目瞭然だ。まずはラリー参加前の準備段階から見てみよう!


1.サプリメンタリーレギュレーション(特別規則書)


出場したいラリーの概要が書かれているのがこのサプリメンタリーレギュレーション、日本名で特別規則書です。大体が大会の2か月前くらいに発行され、「何処で、誰が、どのように開催するので、こんな準備をしてくださいね!」というのが書かれています。

日本では実際のところ、ドライバーよりもコ・ドライバーのほうが特別規則書を隅々まで確認している印象です。ルールはコドラに丸投げ! って感じですね(笑)。もちろんそうではないドライバーさんもいると思いますので、そんなドライバーさんがいたらごめんなさい(笑)。

サプリメンタリーレギュレーション
●こちらはラリー・北海道2020のサプリメンタリーレギュレーションの表紙。基本は参加者に配られるものだが、公式サイトで見られる場合もある

ちなみに、全日本ラリーに参戦する際に僕が見る項目は、
・大会スケジュール
・ヘッドクォーターの場所
・サービスパークの場所
・参加料金
・アイテナリー
・ラリールートマップ
以上です(笑)。

全体ページ数は20ページくらいで構成されているんですけど、これくらいしか見ませんねー(笑)。海外の国内選手権だと、フィンランドとかは英語の書類が出るのですが、フランスはフランス語のみ……。ハードル高いですねー(汗)。まぁでも大概書かれていることは同じなので、雰囲気で乗り切っていますよ(笑)

エントリーフィー
●エントリーフィーの一例。金額は参加する選手権やラリーによって異なる



2.ラリーガイド


こちらは特別規則書に比べて強制力が弱いものです。前述の特別規則書の内容のほかに、ラリーが開催される場所の観光名所だったり、ラリーのホストタウンの市長さん、町長さん、村長さんの挨拶などが掲載されています。

見た目も特別規則書世よりもポップに仕上がっているので、興味ある方はラリーガイドから見てみるとより大会の情報が仕入れられるかもしれませんよ!

ラリーガイド1
●2019年に行われた、セントラルラリー愛知・岐阜のラリーガイドの表紙。このようにカッコよく仕上げているラリーが比較的多い


3.アイテナリー(ラリー行程表)


ドライバーにとって、ラリーのドキュメントの中で一番興味があるものの1つがアイテナリーだと思います。ラリースタート時間、所要時間、トータル距離、ステージ距離、リエゾン距離、ステージの本数、給油タイミング、サービス時間など、ラリーがスタートしてからフィニッシュするまでの行程表が書かれています。

これを見て勝負所のステージを決めたり、ニュータイヤをどこで投入するかなどの作戦を練ったり、その都度の給油の量を決めたりします。もちろんラリーの朝に起きる時間もこれを見てクルーたちが決めています。ボクはステージ1が始まる3時間前には起きるようにしています。

アイテナリー
●前述のセントラルーラリー、Day1のアイテナリー。この表記は全世界共通なので、覚えてしまえば世界中のアイテナリーが読めるようになる


ちなみにラリースタート(TC0をスタートする時間/TCについてはまた後程説明します)が1号車「8時00分」で記載されていて、自分が10号車だったら、「8:09」にTC0をスタートするということがわかるんですね(通常1分毎にスタート、たまに2分毎の時もあります)。

ただほとんどのラリーがこここからリエゾンと呼ばれる一般道を走行してステージに向かうため、実質のSSスタート時間は、TC0からリエゾン移動時間(これはラリーによって距離が変わります)をプラスした時間になるわけです。

そんな風にラリーが進行して、1号車のSS1のスタート時刻が9時00分だとしたら、10号車の僕は9時09分スタートなので、朝起きる時間は3時間前の6時だな! と決まるわけですねー。ちなみにアイテナリーは地図がなく文字と時間の表だけの記載です。全体図はラリーマップやオーバービューというドキュメントで確認ができますよ!


4.ラリー保険


ラリーは競技中に一般道を使用するため、通常の自賠責保険、任意保険にプラスして、ラリー競技保険という保険に加入しなければいけません。これは万国共通のルールですね。

JAF既定のラリーではナンバー付き車両しか出場できないため、基本自賠責保険も加入していますし、任意保険もほとんどの人が加入していますよね。ただ、競技中はこれらの保険では対応できないのです。この競技中というのは、ステージ以外のことも含まれます。ようはアイテナリーに記載されたスタートからフィニッシュまでの全てが競技に含まれます。

万が一リエゾン(一般道)や、全開走行のステージ中に物損や人身事故を起こしてしまった場合、この保険を使用してクルーやチームは責任をとるのです。そして気になるのが、「車両保険が付いていれば、自分の車両も保証されるの?」ってところですよね!? ところがラリーはクラッシュのリスクが非常に高いため、車両保険付きのラリー保険はほとんどの保険会社で拒否されますね(笑)

このように万が一の時に備えた状態じゃないとラリーには出場できないのですね。ちなみにWRカーなどの海外の車両は日本のナンバーがついていないのですが、カルネナンバーと呼ばれるモータースポーツナンバーで、決められたルートのみを走行することができます。このカルネナンバーの車両にももちろん保険加入が義務付けられています。
保険
●こちらはラリー・北海道の保険内容。もちろんラリー毎に内容は変わるので、参加者は必ず確認する




●川名 賢 かわな すぐる
2019年FIA APRC3クラスでチャンピオンを獲得した、現役のラリードライバー。APRCやERC、ヨーロッパの国内選手権、JRCなどさまざまなラリーに参戦し活躍する、国内トップクラスのドライバーだ。最近はドライビングレッスンを主催するなど、ラリー以外にも活躍の場を広げている。
オフィシャルWebサイトはこちら→https://sugurukawana.net/

<写真=山本佳吾 Keigo Yamamoto>


ドライバーWeb編集部・青山

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