2020/08/31 旧車

幸せの黄色い野うさぎ。公道走行可能な伝説のレーシングカー「コニリオ」って何モノだ!?

レースで勝つために、大幅な軽量化を実現


鈴鹿サーキットや富士スピードウェイがオープンしレースへの熱気が高まりはじめた1960年代、ホンダからS500、S600、S800が次々にデビューします。いづれもが今でも人気の高いモデルですが、そのS800をベースにカスタムメイドのFRPのボディを架装し大幅な軽量化を果たしたのがイタリア語で「野うさぎ」を意味する「コニリオ(CONIGLIO)」です。



今回はこのエッジの効いたシャープなデザインのFRPボディをもつコンパクトなレーシングカー コニリオを現在もナンバー付きで所有するオーナーの方に、その魅力を尋ねてみました。


●オーナーの池田直記氏

黄色いコニリオのオーナーは長年ホンダS600のレーシングカーなどでモータースポーツなどを楽しんでいる池田直記氏。池田氏によると1960年代はとてもレースが盛んな時期で若者の多くがレースを楽しんでいたそうです。ホンダS800も人気の1台でしたが小排気量ゆえにライバルに対するアドバンテージがとれずに苦戦を強いられていたようです。そんな状況を打破するためにの望まれたのが軽量なFRPボディであり、それが「コニリオ」が登場するきっかけだったようです。ちなみに車重は720kgしかないオリジナルのS800からさらに約110kgもの軽量化を果たしているそうです。


●フロントのフードはこのように開きます

ボディデザインは工業デザイナーで日本におけるFRPボディのオーソリティでもある濱素紀氏。1960年代後半から10台が製作され各地のレースで活躍したそうですが、池田氏によると現存しているのは1~2台ではないかとのことです。

じつは今回取材したコニリオはこの10台に含まれていません。池田氏が所有する黄色いボディの1台は後に濱氏自身がオリジナルの型から再び作り上げた3台のうちの1台です。つまりレプリカではなく、時を隔てて生産されたオリジナルのコニリオということです。


●エンジンはもちろんホンダS800のもの。ノーマルだそうです。

冒頭で触れたように池田氏の所有するコニリオは非常に珍しいナンバー付き車両です。じつは最初のオーナーはミニカーで有名なエブロ。同社のデモカーとしてプロモーションで各地を巡るための利便性を考えナンバーを取得したとのこと。池田氏自身も入手したときにはナンバー付きだから普段の足にも使おうかとも考えたそうですが、屋根はもちろん幌すら用意されていないコニリオでの外出は現実問題としては難しかったそうです。結局遠方のイベント等に出かける際にはキャビンを幌で覆い積載車で移動することが多かったとのことです。


●シンプルな運転席。幌は用意されていないので雨は大敵

FRPボディによる軽量化によってわずか600kg台となったコニリオの運動性能とても軽快で、そのメリットはサーキットにおいてもとても大きかったそうです。しかしながらナンバー付きという稀有な個体の特徴を生かした公道ラリーへの参加を念頭に置いていた池田氏は、乗り心地重視の足まわりを選んでいるため、現状ではサーキット向きではないセッティングとなっているとのこと。ノーマルのS800より乗り心地はいいんじゃないかな?と語ってくれました。


●池田氏いわく、一般道での走行を重視したセッティングのため乗り心地はノーマルのS800より快適!

また公道での使用を前提にしているので、後方にあった燃料タンクの位置を下げてトランクスペースを拡大したり、シートポジションとペダル操作のため乗員足元の低床化をするなど実用性と安全性を高める改造を施してあります。


●拡大されたトランクルームには大きな扉も追加されています


●燃料タンクの移設に伴い給油口の位置も後方に変更しています


●フレームを避けながら低床化された足元

これらは全てラリー車用パーツや車両製作で知られた横浜のオクヤマの手によるものです。もともと13台しか生産されなかった貴重なクルマですが、実用性のためにどんどん手を入れてしまう池田氏の自由奔放さと、オリジナリティを損なわないような工夫と丁寧な仕上げを行うオクヤマの仕事ぶりが、この黄色い個体を一層輝かせているようです。

ホンダS800という魅力的なスポーツカーの登場と、それをベースにオリジナルボディの製作によってレーシングカーを生み出す手法で生まれた「コニリオ(CONIGLIO)」。わずか13台しか生産されなかったうちの1台は現代の公道で走り続けるための様々な工夫が施された池田氏のナンバー付き車両。

日本におけるモータースポーツの黎明期を象徴するような1台は、博物館の展示にとどまることなく街中やイベント等でこれからも出会える1台として、これからも大切に乗りつづけて欲しいものです。

〈文&写真=高橋 学〉

ドライバーWeb編集部

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