2024/06/11 コラム

ランクル250「原点回帰のデザイン」とは? 担当デザイナーに聞く本格クロカンに必要なもの

力強くも強面じゃないのが250の魅力

今年4月、満を持しての発売となったトヨタ ランドクルーザー250シリーズのスタイリングが話題だ。バブル世代にはスクエアなボディが刺さるし、最近人気の「カクカクデザイン」ブームに乗った感もある。では、そのスタイリングの意図はどこにあったのか? デザインをとりまとめた渡辺氏にあらためて話を聞いてみた。


●トヨタ自動車株式会社 先進デザイン開発室 室長 渡辺義人

■ランクルを将来に残すために考えるべきことは?

ーでは初めに。新型は「原点回帰」がキーワードとされていますが、その決定にはデザイン部門も絡んでいたのでしょうか?

「はい、むしろデザイン部がリードした部分もありますね。やはり、新しい世界観を作るためには具体的なビジュアルが必須ですから。将来に渡ってこのクルマを残すには、単なるSUVではなく、あくまで『ランクル』でなくてはいけません。その点、高級化路線にあったプラドの正常進化ではライバルに埋没してしまう。そこで本格クロカンを目指しましたし、「原点回帰で行こう!」という豊田章男会長の言葉にも導かれて来ました」


●ランドクルーザー250

ー同じプラットフォーム(GA-F)を使う300シリーズとは全長や全幅がほぼ同じですが、スタイリング上の「区別」については当初から考えていたのでしょうか?

「はい、オフロードに対応するクルマとして開発の初期段階から『区別』することを考えていました。250はライトデューティーなクラスですから当然大型化への懸念はあったのですが、一方で性能の底上げもしたかった。(300シリーズと)ホイールベース、トレッドとも同じですが、250では取り回しのよさを狙ってオーバーハングとコーナーを削りました。もちろん、衝突試験的には非常に厳しかったのですが、技術部門の協力もあって実現しました」

ー採用されたスケッチは北米スタジオであるCALTYの提案ですが、海外スタジオならではの発想があったのでしょうか?

「というより、今回は凝縮されたボディと張り出したタイヤという、40系にも通じるパッケージを先に固めたんですね。それがあったからこそあの初期スケッチができたとも言えます。また、スケッチを描いたデザイナーのジン・ウォン・キムはFJクルーザーも担当したのですが、もともとランクルフリークで、シリーズに精通していたことも大きいですね」


●250の初期スケッチ

■ミニバンではなく本格オフロードのスタイルを貫く

ー凹面のショルダーラインやルーフの面取りなど、単なる四角ではなく、ボディを「削ぐ」という発想はどこから来たのでしょうか?

「300との差別化を考えたとき、ボリュームを落とすためにボディを削るしかないと。じつはクルマでブツけるのはボディの角がいちばん多く、コーナーを曲がるときにも障害になるんですね。また、ミニバンの場合は室内容積を最大限にするため平板なハコになりやすいのですが、250では必要なスペースを見極めながらハコを狭めて立体感を追求したかった。ショルダーラインの凹面はそのためで、逆にポジティブ面を強調する効果もあるんですね」



ードア下部を大きく削いだのは障害物対応とのことですが、ドア上面とのバランスはどう考えましたか?

「これは70系を継承した発想ですね。日本ではドア下にサイドステップを付けるので意味ないのでは?と言われるのですが、削らないとドンドン広がってしまうんです。また、ドア下部を大きく削ぐことによってタイヤが露出するので、ボディがより踏ん張って見えるんですね。実際にはサイドインパクトバーなどの制約があるので、削る高さはギリギリまで調整しています」

ーベルトラインを途中からキックアップさせたのはドライバーの視界確保とのことですが、そのままリヤまで流す案もあったのでしょうか?

「ありましたね。ただ、キャビンが大きくなって頭デッカチに見えてしまうんです。また、かなりベルトラインが低くなるので、後席の人が不安に感じるという点もありますね。それと、特に欧州などでは防犯上と積載性でトノカバーを高くしたいというニーズがあって、そこに対応する意図もあります」

ー前後パネルの機能をまとめた表現が特徴とされていますが、とくにリヤではまるでパネルを後付けしたような造形がユニークです



「ここも単なるミニバン的ハコに見せたくないという意図ですね。リヤではパネル下部を大きく削いだ上で、「門構え」のような表情を与えて強い道具感を出しているんです。これはフロントも同じ考え方で、そもそもは40系がランプ類などの機能を中央に寄せていたことをリスペクトしたものです。最近は顔をよりワイドに見せる傾向にありますが、それとは真逆かもしれませんね」

ーフロントグリルに関しても300は近年のトヨタらしく大きな表情ですが、250ではミニマムな形状ですね

「両車とも開口部自体は非常に広い方なんです。その中で300は目一杯の立派な表現にしているのですが、250では締まった表現を狙ってロの字で囲った。その分、グリルの格子バーを非常に細くして空気の流入量を確保しているんです。あまりに細いので中が見えてしまう……なんて声もあるのですが、これこそ機能表現だと(笑)」

ーでは最後に。今回のデザインコンセプトにはReliability(信頼性)、Professional(専門性)に加えて、Timeless(永続性)が掲げられていますが、タイムレスなデザインには何が必要だとお考えですか?

「そうですね……飽きることのないシンプルさでしょうか。今回もパッと見はシンプルなハコなのですが、じつはドア断面は意外に丸みを持っているんですね。目にはつかないが、艶やかな面と直線を組み合わせるなどいかに気を使うかが大切かと。70系も折り目正しく飽きないハコですが、同じことをやってもダメで、やはり「いま」にマッチしたシンプルさが必要なんだと思います」



ーシンプルさと素っ気なさは紙一重として永遠の課題ですが、陰にはそれを克服する隠れた工夫や苦労があるんですね。本日はありがとうございました。



●丸目に交換できることでも話題に(ディーラーオプションで設定)

〈文=すぎもと たかよし〉

ドライバーWeb編集部

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