2024/02/02 コラム

横顔を眺めながら ーー爪 切男の助手席ドライブ漂流ーー 第3話「ハスキーボイスの彼女」(三菱デリカミニ ✕ 中村真帆)

三菱デリカミニ ✕ 中村真帆



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 うまくいかないときは何をやってもダメなもので、臨時休業や店内激混みなどの理由で、彼女が目星をつけていたお店は全滅。いつしか車内の雰囲気はちょっとしたお通夜ムードに。



「む~、とりあえず海に行こっか」と潮の匂いがする方に彼女はハンドルを切る。その先に見えてきたマリーナの近くに、なんとも洒落た外観のハンバーガーショップを発見。ここしかないねと同時に頷く私たち。お店の目と鼻の先に海が広がる絶好のロケーション。たとえ灰色の海だとしても、広大な海を見ながら食べるハンバーガーの味は格別だ。こんな贅沢なハンバーガーの食べ方があったんだなぁ。





「幸せだなぁ、僕はハンバーガーを食べてるときが一番幸せなんだぁ」とふざける私に「それ加山雄三のつもり?」と突っ込む彼女。よかった、やっと笑ってくれた。
「あとさぁ、さっきからポロポロポロポロ落としてさぁ……食べ方下手過ぎ! 笑わないように我慢してたのにぃ! アハハ」
「へん、ハンバーガーってのはこれぐらい豪快に食べる方がいいの。そっちだって口の周りソースだらけじゃん」
「んっ……美味しいもの食べるときはマナーなんてどうでもいいの! 恋愛だって行儀よく愛されてもつまんないもん」
 頬を赤らめつつ、ハンバーガー片手に己の恋愛観を語るなんて本当に面白い子だ。寅さん、新しい恋の予感がします。



■■■ 6 ■■■

「もう少し近くまで行ってみよっか」
 空腹が満たされた私たちは、海岸沿いを目指す。強風に加え小雨まで降り出す最悪のロケーション。停車したクルマの中から荒れ狂う海を静かに眺める私たち。



 台風で外に出られず、恋人といっしょに家の中に閉じこもる。そんな一日がとても好きだった。この世界に自分と恋人しかいなくなったような妄想をしていたっけな。そうだ、この車の中をあのときの部屋だと思って……、そうして私は、いつもの如く助手席にてけしからん妄想に耽るのであった。



「今日はありがと。ここまでうまくいかないと逆に笑えたね」
 別れ際、そんなことを口にする彼女。確かに笑うしかないのかな。でも不運もここまで重なれば、それを「運命」と呼んでもいいんじゃないか。
「よかったら……もう一度会ってくれないかな?」
「あ~、うんうん……まぁ考えとく、暇があったらとりあえず連絡してみて」
 その気のない返事からも次がないことは明らかだった。



 私を置いて走り去るデリカミニのエンジン音。クルマのエンジン音なんてどれもいっしょだとばかり思っていたけど、これほどせつなく聴こえるエンジン音もあるんだな。エンジン音までハスキーに聴こえやがる。ああ、雑に失恋をすると無性に腹が減って仕方ない。ハンバーガーで始まった恋はハンバーガーで終わらせよう。マックとかロッテリアじゃなくて、近所のスーパーの惣菜コーナーで売っているパン生地がぺっちゃんこの激安ハンバーガーが食べたい。それを口いっぱいに頬張りながら、私はこう言うんだ。「男はつらいよ、助手席専門もつらいよ」ってね。



(※)ストーリーはすべてフィクションです。

<今回の”彼女”=中村真帆 ヘアメイク=渡辺真樹 写真=ダン・アオキ 文=爪 切男>

■今回のデートカー
三菱デリカミニ
Tプレミアム(4WD) 223万8500円

かわいくもタフなデザインが好評なデリカミニ。4WD車はサスペンションを改良し、三菱自慢のグリップコントロールなどで「デリカ」の名に恥じない悪路走破性が自慢だ。



■中村真帆(なかむら まほ)
神奈川県出身。血液型A型。趣味はセルフネイルと料理、美容…あたりは順当だけれど、おっとりした外見とはうらはらに、じつはラーメン好き!? 今回は、三菱のイヌ…じゃなくて、デリカミニの化身たる「デリ丸。」と絡んでもらいましたが、実生活でも大のイヌ好き。実家には、10匹の犬がいるとか!

■爪 切男(つめ きりお)
作家。1979年香川県生まれ。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)でデビュー。同作はドラマ化もされ大きな話題を呼ぶ。現在集英社発のWebサイト『よみタイ』で、美容と健康に関するエッセイ『午前三時の化粧水』を連載中。


ドライバーWeb編集部

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