2022/06/14 コラム

駐車取り締まりの民間委託、じつは大赤字の県も! それでも辞められない実情

山梨県警と昭和総合警備保障の契約書の一部。情報公開条例に基づいて開示を受けた



■都道府県によってばらつきが大きい

1位 東京  26万2087件
2位 大阪  12万2360件
3位 神奈川 9万6551件

この3都府県だけで全国合計の約53%を占めている。下位はこうだ。

45位 鳥取  413件
46位 秋田  286件
47位 山梨  175件

ばらつきとか超えてる。「どんだけぇーっ!」と心で叫んで、私はふと思った。駐車監視員による取り締まり(確認標章の取り付け)は、民間会社と委託契約を結んで行う。放置違反金は収入になるが、委託費は支出になる。下位の県は赤字じゃないの?

そこで私は、山梨県に請求してみた。その委託契約の、最新の契約書等を、情報公開条例に基づいて手数料等を払って。ばっちり開示されました。山梨県警本部長と昭和総合警備保障株式会社との、2018年7月1日から2022年6月30日までの3年契約で、総額2688万7200円(税込み。以下同)。年度契約ではあるが、月額74万8000円とある。だから2021年分の委託費は12を掛けて897万6000円だ。

もう少し詳しくみると、1年間に「242ユニット×日」とある。駐車監視員はだいたい2人1組、それをユニットという。1年間のうち1日だけ242組ってはずはない。1ユニットが1年間に242日稼働するってことだろう。

確認標章の取り付けは175件。1件平均1万5000円とすれば、262万5000円。委託費の3分の1にも届かない。しかも、である。175件の内訳はこうなのだ。

駐車監視員 126件
警察官     49件

駐車監視員分の126件に1万5000円をかければ、えーっと、189万円。しかもしかも、前述のとおり、確認標章を取り付けても放置違反金の納付命令に至らないことがある。全国平均だと約17%が納付命令に至っていない。至ったのは約83%、これを山梨に当てはめてみると…。

126件×83%×1万5000円=156万8700円

156万8700円を稼ぐのに897万6000円を費やした! 約740万円の赤字である。いや、もちろん、緑色の制服の駐車監視員が年間242日も道路をうろうろしたおかげで、違法駐車が減り、交通の流れがよくった、ということもあるかもしれない。だけど、放置違反金は地方の財源じゃなかったのか。天恵はどうした。やっぱりこれは大赤字というべきでは?

「山梨県警、ふざけんな!」と怒る向きもあるだろう。ごめん、それは見当違いだと私は思う。駐車取り締まりの民間委託と放置違反金の制度は、2006年6月に全国一斉にスタートした。これは警察庁(全国警察の総元締め)のいわば“国策”なのだ。「うちの県は駐車違反があんまりないんで、民間委託はパスしますわ」とか言い出せるはずがない。山梨、かわいそう、と私は思う。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通関係以外の裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

RELATED

RANKING