2020/05/05 コラム

【今さら聞けないF1の謎】なぜF1のタイヤは13インチのまま? 規定変更で18インチ化する理由は?

■13インチ時代が長いことには理由がある


2022年、F1はマシンレギュレーションが大きく変わる。本来なら新規定は2021年導入予定だったが、COVID-19の影響により1年先送りになった。新規定によりマシンの外観は大きく変わる予定だが、ホイールサイズが18インチ化されるのも見過ごせない変化だ。レースにあまり興味がない読者は、F1が長らく13インチ・ホイールを使ってきたことに驚くかもしれない。今どき、軽自動車でも14インチが当たり前。なのに、なぜF1は13インチを使い続けてきたのだろうか?


©️Redbull 

結論を先に述べれば「大径化する必要性がなかった」からである。13インチとはいえタイヤの外径は670mm(ドライ用)と十分大きく、幅はフロントが305mm、リヤが405mmと太い。つまり、かなり偏平率が高く、真横から見るとサイドウォール部が厚い。


©️Redbull ●2020年型最新マシンのレッドブルホンダ RB16


©️Redbull ●サイドウォールが厚い、現在のF1用タイヤ


一般的には、サイドウォールが厚ければクッション効果が高くなり、乗り心地の面では有利になるが、ゴムの変形が多い分だけハンドリングにはマイナスの影響を及ぼす。しかし、レース専用に開発されたF1用タイヤならば、乗り心地などを考えずタイヤの剛性を高く設計することが可能なので、変形を抑えることができる。そして、タイヤメーカーもチームも、偏平率が高いタイヤで長年レースを戦ってきたので、開発やセッティングノウハウが十分に蓄積され、現状13インチでも何も問題がないのだ。


©️Redbull 

ホイールの大径化を積極的に進めなかった理由のひとつとして、ブレーキサイズの大型化を防ぐこともあったといわれている。より大径のディスクと大きなキャリパーを備えれば減速性能は高まり、ストレートエンドでの減速時間は短くなる。するとレース中のオーバーテイクが難しくなり、ミスをした際のクラッシュの可能性も高まる。ならばブレーキサイズを制限すればよいのでは? と思うかもしれないが、大きなホイールの奥に見えるディスクやキャリパーが小さいのは、見た目があまりよくない。

■18インチにして何がよくなる?

市販車の世界では、一般的に13インチよりも18インチのホイールを履いたほうがカッコよいとされているが、F1を頂点とするフォーミュラの世界では必ずしもそうではない。タイヤがゴロッと大きく見え、ホイールは目立たないほうがカッコいいというレース関係者やファンは、じつはかなり多い。特に、年齢層が高いコアなファンほど、そう思っている人が自分の周りでは多い。


©️Redbull

一方で、新時代を担うフォーミュラEでは、最初から18インチが採用され、若いファンには評判がいい。自動車メーカーもタイヤメーカーも、新しいファンの支持を増やすためにはホイールサイズが大きい=市販車に近いサイズのほうがいいと、以前から認識していた。だからF1は2014年にピレリの18インチをテストし、その頃から移行のタイミングを検討していた。そして、マシンレギュレーションが大きく変わる2021年こそが、最適タイミングだと考えたのだ。


●フォーミュラEに参戦する日産のマシン。18インチホイールを装着する


マシン開発コストの点でも、18インチ化は将来的にメリットがあるとされている。偏平率が低くなってタイヤのサイドウォールが薄くなり、エアボリュームも減れば、変形量をさらに少なくできる。現在のF1はダウンフォースが大きく、高速域になればなるほどタイヤが潰れる=変形する。それによって車高の変化も生じ、それがセッティングに大きな影響を及ぼす。そのため、F1チームは風洞施設やコンピュータによるシミュレーションを駆使し、空力とタイヤのたわみの関係を徹底的に分析しているのだ。


●フォーミュラEのタイヤサイズは、フロントが245/40R18、リヤは305/40R18となる。市販車に近いサイズだ


しかし、そのためにはかなりの予算が必要となり、メルセデスやフェラーリといったトップチームと下位チームでは、解析力に大きな隔たりがあるとされている。低偏平化によりタイヤの変形が少なくなり、サスペンションとしての要素が少なくなれば、予算が少ない下位チームのハンデは、今よりも軽減されると考えられる。

■ひと足お先にF2では


大径化によるデメリットとしては、タイヤ&ホイールの合計重量が増えること、縁石でホイールを破損しやすくなるといったことが考えられる。F1に先駆け、F2では今季から18インチホイールが導入され(COVID-19の影響でまだ開幕していないが)、すでに参戦選手によるテストも行われた。


●日産のフォーミュラE参戦マシン。後ろのリーフと比べてもホイールサイズに大きな差がないことがわかる。現在はフォーミュラEをはじめ、WECやTCRなどのサーキットレースでは、18インチホイールが主流のサイズとなっている


数名のドライバーは「思っていたほど違和感はないが、ブレーキングではロックしやすく、加速ではトラクションがかかりにくくなった」と語っている。タイヤの剛性が高まり動きがよりシビアになったこと、トラクションには有利なサイドウォールのたわみが減ったことが理由ではないかと考えられるが、概ねテストは順調だったようだ。


©️Redbull 

タイヤを供給するピレリは、今季のF2でデータを収集し、それをF1用タイヤの開発に活かすとしている。つまりF2は実験台となるわけだが、F1へのステップアップを目指す選手にとっては、1年早く18インチを経験できるというメリットもある。

以上のように、フォーミュラの世界ではホイールの18インチ化が着々と進んでおり、いずれ日本のトップカテゴリーである、スーパーフォーミュラも18インチ化するだろう。オールドファンは、今のうちに分厚くまるっとしたタイヤを履いたフォーミュラの姿を、目に焼き付けておいたほうがいい。


©️Redbull ●2019年型のRB15。まるっとした、ある意味フォーミュラらしいタイヤのF1は、来シーズンの2021年までで見納めとなる



<文=古賀敬介 Keisuke Koga>


ドライバーWeb編集部

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