2024/08/02 コラム

横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~ 第7話「ヒマワリの彼女」(MINI・コンバーチブル × 佐々木萌香)

MINI・クーパーSコンバーチブル × 佐々木萌香

可もなく不可もなく・・そんな平凡な日常に、突如、クラス違いの世界が飛び込んできた!? MINIコンバーチブルで登場した“彼女”は、生粋のお嬢様だった! 著作のドラマ化が続く話題の作家、爪 切男が紡ぐ、助手席からのちょっぴり切ないストーリー。

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 とにかくクルマと縁のない人生だった。
 女なし、クルマなし、金なし、夢なし、されど可もなし不可もなし、これからもそんなろくでなしな毎日が続いていくのだろう。それを〝幸せ〟と呼んでいいのなら、それはそれで悪くない。
 そんな達観の境地で日々を送る私に、人生を大きく変えるやもしれぬターニングポイントがやってきた。それはクルマに乗ってやってきた。

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 もはや惰性で続けているマッチングアプリに、突如として現れたお嬢様。国際物流会社を経営する父と、有名ファッションブランドのデザイナーを務める母を親に持つ生粋のお嬢様。この春に有名私大を卒業し、現在は父親の会社で経営を学んでいるらしい。特技は生け花、書道、乗馬ときたもんだ。
 業者レベルの完璧なプロフィールを疑いつつも、果敢なアタックを何度も試みた。何が本当か嘘かなんてどうでもいい。人生にはこういうお戯れがたまには必要だ。

「待ち合わせは私の家の近くでいいですか?」
 私の家? この令和の時代にそんなクラシックな待ち合わせなんて冗談だろう?。無防備にもほどがある。世間知らずのお嬢様という設定なのか? これは……サクラだな。ドタキャンを喰らうのを覚悟で待ち合わせ場所に向かうと、なんとそこにはプロフの写真通り、いやそれを超える美女が私を待っていた。いや待て、まだ安心するな。美人局の可能性だって捨てきれない。つとめて冷静に私は彼女のもとに近づく。

「あ、時間ピッタリ。ちゃんと来てくれて嬉しいです!」

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 完璧な美がそこにあった。ショートカットという髪型は内田有紀と広末涼子の為に存在するものだとばかり思っていたが、それは間違いだった。私はこの子ほどショートカットが似合う女性を知らない。
 私の時代でいうところのボンキュッボンの理想的なボディライン、露出が多いわけではないのに身体から自然と滲み出す爽やかなエロスはもはや神々しさまで感じさせる。
 間違いない、この子は美の女神ヴィーナスの化身だ。ショッキング・ブルーの「ヴィーナス」が先ほどから私の頭の中で鳴り響いている。もう、どうにでもしてくれ、あんなこといいなできたらいいな、君になら何をされてもイヤじゃない。
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 快晴のドライブ日和、彼女の愛車に乗り込み、私たちは一路川崎の東扇島を目指す。扇島は島全体が港の一部になっている人工の埋立地で、商業施設は皆無、あるといえば港湾施設や工場、コンビナートが立ち連なっており、お世辞にもデート向きの場所ではない。
 このデートプランは彼女からの強いリクエストによるものなのだが……、港で何かヤバいことに巻き込まれてしまうのではないかと気が気でない。この女、女神ではなく魔女なのか?

 そんな不安をよそに、快適なスピードでクルマは進む。父親におねだりして買ってもらったという彼女の愛車はMINIクーパーSコンバーチブル。まさにお金持ちのお嬢様の愛車という感じのオシャレなMINIで、電動でソフトトップを開け閉めできる仕様となっている。オープンカーなんて映画の世界でしか見たことがなかったので、実はちょっとだけワクワクしている。

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 信号待ちで停車するたび、道行く人たちの視線が私たちに集まる。オープンカーはどうしても人の目を引く。走っているときはとにかく気分爽快。心地よい風を頬に感じながら、澄んだ青空を真上に眺め、コンビニで買ったコーラで喉を潤す。まるで人生の勝利者になったかのような錯覚を覚える。これが勝ち組ってやつなのか。

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 と、悦に浸ってみるも、よくよく考えてみれば、若い女性の運転するオープンカーの助手席に座っているイケてない男、それが私なのだという抗いようのない現実に気付き、急に恥ずかしくなってきた。
「お願いです、屋根を閉めてくれませんか」
 そのひとことが言えぬまま、クルマは港を目指しひた走るのだった。

 2人のためのオープンカーは、普通のクルマよりお互いの距離をグッと近くに感じさせる。隣に座ってから気付いたが、完全無欠のお嬢様だとばかり思ったら、時折のぞかせる幼い笑顔はまだまだ子供という感じでなんとも微笑ましい。

「俺、よく知らないんだけど、オープンカーって夏はいいけど、冬は寒いんでしょ?」
「ブブー! オープンカーって実は冬の方が気持ち良いんですよ」
「え、なんで?」
「ヒーターを入れて走ると、顔は冷たいのに体と足元がポカポカしてて、露天風呂に入っているみたいな感覚になるんです!」

「へえ、なんか楽しそうだな……」と感心したのも束の間、露天風呂というキーワードで私の妄想がいつもの暴走を始める。オープンカーに乗っているせいか、いつもよりも開放的な気分で妄想が進む。私は今まさに絶好調なのだ。

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ドライバーWeb編集部

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