2024/04/19 コラム

【まとめ】可搬式(移動式)オービスはいかにして生まれたのか?「神出鬼没だからヤバイ」で終わらない話 

可搬式(移動式)オービス、LSM-300

「移動式オービスは神出鬼没だ。やばいぞヤバイぞ!」。そんな情報がネットでは飛び交っている。テレビ・新聞もその調子で報じる。 ※ネットではよく「移動式」と呼ばれるが、正しくは「可搬式」だ。

私は交通違反・取り締まり方面を長くウォッチしてきた。可搬式は確かにヤバイ。だがそれは「神出鬼没」だからじゃない。どういうことか、誰も言わないディープな話をぜひ聞いてほしい。

1、交通事故の起訴率が1割に!

1987年から交通事故の起訴率が急減し始めた。事故の多さに手を焼いた検察庁が、軽微な事故(※)、つまりほとんどの事故を、さくっと不起訴にする方針に転じたのだ。やがて交通事故の起訴率は1割ほどになった。  ※具体的にはケガの程度が2週間以内で、治療費等が保険で支払われ、被害者の処罰感情が軽い事故をいう。

警察庁はそこに目を付けた。軽微とはいえ事故を起こした者が何らのペナルティもなしでいいのか。警察のほうで「行政制裁金」(以下、制裁金)を課そう。交通違反も制裁金でいこう、と。

2、警察庁の野望

検察や裁判所にタッチさせず、警察限りで徴収してしまうのが制裁金だ。実現すれば、交通違反・事故という国民に最も身近な違法行為について“警察国家”になる。しかも、不起訴で終わっている9割の事故から金を徴収するわけで、無から有を生み出す錬金術といえる。警察の下に巨大な市場が生まれる。

野望の実現へ向け優秀な警察官僚諸氏が動きだした。1990年代に入り、何度か計画を新聞発表。諸外国の制度を調査するため予算もとった。翌年の通常国会へ法案が出るかに何度も報道された。だが、欲張りすぎだったか、なかなか進展せず年月が過ぎた。

3、放置違反金と民間委託

2006年6月、警察庁は駐車違反限定で第1歩を踏み出した。新しいペナルティ「放置違反金」(以下、違反金)を誕生させたのだ。制裁金としては不完全だが、検察や裁判所にタッチさせることなく、かつ、違反したのが誰であれ車両の持ち主からペナルティを徴収する、という点において画期的だった。

同時に、駐車取り締まりの民間委託をスタートさせた。委託業務のほとんどを大手の警備業者が受注した。警備業法は警察庁所管の法律だ。警察庁の下に新たな市場が生まれた。

4、次は速度違反、大臣の苦言から有識者会議へ

2013年6月、当時の国家公安委員長(大臣)が「取り締まられた側も納得できる速度取り締まりを」などと唐突に述べた。大臣が苦言を呈したと記者クラブメディアが大きく報道。「そうだ、そうだ!」と運転者たちは盛り上がった。

受ける形で警察庁は同年8月、速度取り締まり、速度規制について有識者の懇談会を設置。年末には提言が出た。「通学路、生活道路(以下、通学路等)の速度を抑止して安全を守るため、新たな速度取り締まり装置が必要」旨の提言だった。ちなみに、こうした懇談会等は、主催省庁が資料を準備して誘導し「先生方のご提言をいただいた」形をつくるのが倣(なら)いと聞く。

5、「通学路等の安全」を大義名分とする理由

通学路等の多くは「ゾーン30」とされ、制限30キロだ。従来のオービスは赤切符の違反(一般道路では超過速度が30キロ以上)のみを取り締まる。ならばゾーン30の通学路等で、超過30キロ以上=速度60キロ以上でかっ飛ばす車のみを取り締まる? 速度59キロまでは見逃す?

まさか。当然に青切符の違反(同じく超過速度が30キロ未満)も取り締まることになる。そう、「通学路等の安全」を大義名分とすることで、オービスを赤切符の制約からスムーズに解放できるのである。だが、それをやれば重大な問題が生じる!

ドライバーWeb編集部

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