「スピードの出しすぎによる事故防止に“ダミー”の取締り装置 費用は“本物”の1万分の1、レンズと空き缶で巡査長が手作り」と11月14日、HBC北海道放送が報じた。速度の出し過ぎによる事故を防ごうと、北海道警の巡査長がダミーの可搬式オービスを手作りしたというのだ。
「ヒント」にしたのは奈良県警の「かかしオービス」だという。あれよりはだいぶ“手作り感”があって微笑ましい、皮肉じゃなしに。漫然と速度オーバーしながら、やたら取り締まりにおびえる運転者は少なくないようだ。かかしオービスも「ダミーくん」も、それなりに効果があるだろう。
【関連記事】奈良県警が案山子(カカシ)オービスを考案していた!■LSM-310を、よりによって北海道警に寄贈とはいや、そんな話じゃないのだ。今回のNBCニュースには、たいへんなものがしらっと映っている。ダミーくんと並んで佇立(ちょりつ)するのは、とっ、東京航空計器(TKK)の可搬式オービス、LSM-310ではないか! ※可搬式はネットでは「移動式」と呼ばれることが多い。
なぜ私は興奮するのか、簡単に言うと…。
1、警察庁は、スウェーデン製の超高性能な可搬式、MSSS(Mobile Speed Safety System)を普及させるつもりでいた。2014年の「モデル事業」にMSSSが用いられた(警察庁が国の予算で購入)。
2、なのにどこの警察もMSSSを購入せず、2016年にTKKの可搬式LSM-300が割り込んできた。警察庁内にTKK押しの一派がいたようで、TKK製ばかりが売れていった。
3、2018年に北海道警が、公平な入札により全国で初めてMSSSを購入した。それからぽつぽつMSSSが売れ始めた。
そうしてだ、LSM-300は、日本初登場の測定方法「スキャンレーザー式」に問題があるのか、どうも取り締まりに向かないことが明らかになってきた。LSM-300の改良型としてLSM-310を出したが、どうもだめなようだ。やがて警察は「見せる取り締まりで速度抑止を」と言いだした。その先に、かかしオービスやダミーくんがあるわけだ。
しかも北海道警には“特殊な事情”がある。同じくスキャンレーザー式でパトカーの屋根に搭載するLSM-100にからんで、2020年にたいへんな事件、いわゆる不祥事を経験しているのだ。
【関連記事】ベテラン警部補が速度データ偽造を繰り返して逮捕…レーザーパトカー「LSM-100」の実績を上げるため?そんな北海道警がLSM-310を購入した? なんで? 我々マニアは一斉にのけぞった(我々って誰だ笑)。
なぜLSM-310を購入したのか! 私はたまらず北海道警に当たってみた。電話で聞いた回答は、要するにこうだった。
「確かにLSM-310を保有していますが、購入したのではありません。一般社団法人・日本損害保険協会から寄贈を受けたのです」
あっ、そういえば昔、「あのパトカーは損保協会が寄贈したんですよ」という話を聞いたことがある。今回、ネットでちょっと調べてみた。2013年9月付けの「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会 第1回 取締りワーキンググループ議事概要」に、こんな話が出てくる。
事務局 「(取り締まり機器については)損保協会の方からの寄贈により整備しているものもあります」
委員 「損保協会からの寄贈について、費用は自賠責保険の運用益であり、これが寄付金相当の額として拠出されております。かつては、パトカーを購入する費用等についても拠出しておりましたが、現在、交通取締り等に関する費用はほとんどなくなっております。これは、被害者の方からの強い要望があり、可能な限り被害者救済に直接資する費用に多く配分するという観点がございます」
日本損害保険協会のWebサイトには「自賠責運用益拠出事業一覧」があり、2022年度にも2023年度にも、しっかりこんな部分がある。
「交通事故防止用機器の寄贈」【警察庁(都道府県警察)】
・都道府県警察への交通事故防止用機器の寄贈を通じ、交通事故の防止・抑制を図る。
・寄贈機器は、運転者疑似体験教育装置、歩行者疑似体験教育装置(小型)、運転者疑似体験型集合教育装置、運転能力診断装置および可搬式速度違反自動取締装置とする。
2013年には「ほとんどなくなっております」と言っていたのに、へえ、である。しっかし…と私は思う。超高性能なMSSSを何台も持っている北海道警へ、取り締まりに向かないLSM-310を寄贈って、どういう趣向なのか。「約1000万円」は「被害者救済に直接資する費用」へ「配分」するほうがずっと良かったのでは。
とにかく、これで北海道警は、トラッキングレーダー式のMSSSと、スキャンレーザー式のLSM-310と、両方を保有することになったわけだ。使い勝手や性能をぞんぶんに比較し、レポートを発表してくれたらうれしいと思う。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。