2022/03/24 コラム

風邪ひき運転で事故を起こしたら? なんと罰金は酒気帯び運転と同額だった!

風邪ひき運転は、道路交通法第66条「過労運転等の禁止」にあたる?

「えっ、それがそんな重い違反になるの?」と多くの方が驚くのではないか。非常に珍しい裁判を傍聴した。

舞台は東京高裁、罪名は「道路交通法違反」。開廷表では被告人は女性名だ。が、不出頭。高裁は被告人の出頭を要しないのだ。検察官と弁護人はいる。裁判長が判決を言い渡した。

裁判長「主文。本件控訴を棄却する」

被告人側が「一審の判決は誤っているから破棄してくれ」と控訴、それを二審の高裁は破棄した、つまり一審の判決を維持したわけだ。高裁の判決はこのパターンがダントツに多い。

被告人はどんな交通違反をやった、とされたのか。無免許か、飲酒運転か、スピード違反か。一審が認定した罪となるべき事実を、裁判長はこう述べ始めた。

裁判長「病気の影響により正常な運転ができない状態で…午後6時10分頃、普通乗用自動車を運転し…」

そっちかあ。道路交通法第66条が「過労運転等の禁止」としてこう定めている。

第六十六条 何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。

てんかん発作のおそれがある状態、または糖尿病の低血糖の状態、そういうので事故った裁判を私は何件も傍聴してきたよ。裁判長は続けた。

裁判長「目撃者は、被告人車両に追従して走行…被告人車両は左右のドアミラーが開いておらず、ライトが点灯しておらず、右左折する際にウインカーの点灯がなく、蛇行して…」

おいおい、「正常な運転ができないおそれ」どころか、マジでヤバイじゃないか。

裁判長「目撃者は、危険と思い、停車させた…被告人は『風邪で苦しい』と言い…」

2日前に風邪をひき、本件当日まで寝ていたが、午後、やむなく仕事へ行くため運転したのだという。風邪で具合が悪く、ゲホゲホ咳が出て蛇行。ガードレールにでも接触したか「自損事故」を起こした。それでも走り続け、上記のようなマジでヤバイ走行を目撃されたのだ。おそらくドライブレコーダーに録画されていたのだろう。

弁護人は、風邪は第66条の「病気」に当たらないと、無罪主張だった。裁判長はぴしゃりと退けた。

裁判長「独自の見解であり、到底採用することはできない。風邪によるものであったとしても危険な運転…第66条がいう正常な運転とは、外部に対する注意力、抑制力、身体的な対応力などが…」

一審の判決は罰金30万円だという。風邪ひき運転の罰金は、普通車の酒気帯び運転と同額なんだねえ。私は初めて知った。

過労運転と聞けば、大型トラックの長距離運転とか思い浮かぶ。多くの方は他人事のように感じるだろう。しかし、咳がゲホゲホ出て蛇行運転とか、熱でぼーっとしてうっかり信号無視とか、ありそうな話じゃないか。日々起こる交通事故の一部は、じつはそういう原因で起こっていたりして。気をつけましょう!

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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