2019/10/30 コラム

ミッドシップ+4WD+ハイキャス! 市販化直前と言われたコンセプトカー「日産MID4」は走るとどうだったのか?



●上の写真は1985年第26回東京モーターショーに出展されたときのもので、紹介パネルには「ミッドシップフルタイム4WD──NISSAN MID4」の文字とともに、具体的なスペックが書かれていた。

市販化目前と言われながら、幻に消えた和製スーパーカーがあった。1985年、日産が第26回東京モーターショーに出展したミッドシップレイアウトの4WDスポーツマシン「MID4」である。コンセプトカーでありながら完成度は高く、実際に走行も可能だった。プロジェクトを担当したのは長年スカイラインの開発を務めた「ミスタースカイライン」こと桜井眞一郎氏。コンセプトは「誰もが乗りやすく、速いクルマ」というもので、桜井氏によれば『MID4に乗れば、総入れ歯のおばあさんでも長谷見昌宏選手や星野一義選手と互角に走れる』、そんなクルマを目指したという。それは4WDならではの安定志向を意味するのか? しかし、ミッドシップにしたということはシャープなハンドリングも有していたはず……。実際にMID4の試乗テストを行ったドライバー誌1985年11月20日号のレポートからその実態に迫る。


エンジンはツインカム3リッターV6、可変バルブタイミングシステムも採用


●リヤのエンジンフードを開けたところ。3000ccのV6エンジンを横置きにし、ミッドシップにマウント。

スペックを見ただけである程度その走りが想像できたり、そうでないまでも、今までのいずれかのパターンに当てはまる走りが多いなかにあって、MID4に対する興味は尽きない。ミッドシップ&フルタイム4WDとはいかなる走りを見せるのであろうか。MID4は全く未知の体験をさせてくれるはずだ。

身体をかがめながらコクピットに身をおさめる。ドライビングポジションは思ったほど低くない。閉鎖感も少なかった。市販を前提にしているとは言っても、このMID4はあくまで手造りに近い試作車だ。シートなどにもそうした雰囲気が感じられる。だが逆に言えば、革を手縫いにしたサイドサポートはかえってフェラーリのような少数生産スポーツカーの味が出ていて好感が持てる。

一瞬のクランキングでエンジンはうなりを上げた。そして次の瞬間には1000回転を定位置に決めアイドリングを始めている。不快なノイズや振動のたぐいは一切感じられず、すでに完成車のふるまいだ。軽くアクセルをあおる。無負荷とはいえ、エンジンのピックアップは驚くほど鋭い。3ℓというキャパシティから想像される重々しさがないのだ。1.6ℓクラスのツインカム並みといっていい。しっかりと節度感がありストロークも詰められたシフトレバーを1速に入れ、静かにクラッチを繋いでコースインした。


●シンプルながら、スポーツカーらしい運転席まわり。ドライビングポジションは低すぎることはなく、クルマの見た目から思うほど窮屈さはない。

●メーターまわりもシンプルな二眼式。タコメーターのレッドゾーンは7000回転から。速度計は280㎞/hまで目盛りが刻まれている。

MID4が搭載するエンジンはVG30E型をベースに、4バルブ・ツインカム化したVG30DE型のV6。VG系V6エンジンが発表された際、そのコンパクトさを生かしてFF車やミッドシップ車に用いられる可能性があると言われていた。それが実現されたばかりか、MID4にあってはより高度なメカニズムまでも盛り込まれている。最高出力230馬力/6000回転、最大トルク28.5㎏m/4000回転というスペックは国産最強クラス。トルクもVG30ET型の34㎏mに次ぐレベルに達している。基本的にシリンダーブロックはVG30E型と共通だが、パワーアップにともないリブの追加などでそれに耐える剛性を確保。シリンダーヘッドのマウントも変更したそうだ。

MID4のエンジンには日産の最新技術を全て盛り込んであるといい、スカイライン(*)用のRB20DE型に採用され直動式のハイドロリックバルブリフターや、電子配電点火システム(NDIS)、電子制御式吸排気コントロールシステム(NICS)などが備えられている。NICSに関しては各バンクごとにスロットルボディを持つツインスロットルタイプとし、各々に直結したサージタンク間のバルブを開閉することで可変吸気を行う。低回転域のトルク特性と高回転域の出力特性を向上させるメカニズムだ。かつてのツインキャブのようなイメージを狙ったとのことだ。さらに吸気側のカムシャフトとカムプーリーのずれ角を制御してバルブタイミングを7度可変する新機軸も投入。バリアブル・タイミング・カム(VTC)と日産が呼ぶ、NICSと似た効果が期待できるシステムである。

*当時販売されたいた7代目R31スカイラインのこと。

ストレートをフル加速。2速、4000回転から強烈な立ち上がり。エンジンはアクセルワークに対し、リアルタイムに反応する。ドライバーとメカニズムの呼吸が完璧に一致するさまは、自然吸気式のツインカムエンジンならではの魅力だ。パワーの盛り上がりは一気呵成。瞬く間に頂点を極める感覚が得られる。2速を使い切って、3速にシフトアップ。市販時には変更される可能性があるというが、現段階では各ギヤがクロスした感じは薄い。ところが、加速感は一向に衰えを見せないのだ。マキシマムは7000回転。230馬力を6000回転で発揮するが、6800回転あたりまではパワーの頭打ちがない。しかも、その先で極端に落ち込むわけではないため、マキシマムまで気持ちよく引っ張れる。

市販時にはファイナルレシオもローギヤード化される予定だという。トルクが全域にわたってフラットなので、さらに鋭い加速感が楽しめるようになるはず。メーカーのテストでは240㎞/hオーバーをマークしたそうだ。背中の直後から腹に響く「グォーン」というエキゾーストノートが聞こえてくる。刺激的ではあっても、中身が無さそうな軽薄サウンドとはワケが違う。左右のバンクからのエキゾーストマニホールドをステンレス製のエキゾーストパイプでひとつにまとめ、力のこもったV6ミュージックが奏でられているのだ。


●ミッドシップマシンらしく、ドアの直後にはエンジンルームへ効果的に空気を取り入れるエアスクープが。

●精悍なイメージを与えるテールランプ上のスリット。エンジンルームのエア抜きに貢献するとともに、デザイン的なアクセントにもなっている。

●リヤアンダースポイラーから覗くマフラーはデュアルタイプ。気持ちのいいV6サウンドを存分に奏でてくれる。

>>4WDに後輪操舵「ハイキャス」も組み合わせた走りとは

4WDに後輪操舵「ハイキャス」も組み合わせた駆動システム


●東京モーターショーではドライブトレインの構造も紹介していた。後方のエンジンから前輪へもドライブシャフトが伸びていて、全輪を駆動するマシンなのが一目で説明できる展示だった。

MID4の4WDシステムは常時前後輪に駆動力が伝わるフルタイム方式を採用する。ミッションはFFのブルーバード・マキシマ用を強化。それに前後輪を駆動するトランスファーを組み込んでいる。前後輪の駆動とトルク配分はセンターデフの役目をする遊星ギヤで、さらに遊星ギヤにビスカスカップリングを加えることで、リミテッドスリップデフの働きを持たせている。前輪への駆動力はプロペラシャフトによって、エンジンとミッションの間をくぐるようにして導かれている。実際にパートタイム式の4WD車のようなタイトコーナーブレーキング現象はほとんど感じられなかった。トルク配分は今のところ前後比で35:65だが、この値は市販までに変更される可能性があるという。

サスペンションは4輪ストラット式だ。スカイライン(*)と同様に後輪操舵機構「ハイキャス」が装着される。最大変化角は0.5度で、前輪と同位相に後輪を操舵。ただし、コンプライアンス分だけ変化する方式とは異なり、リヤにもフロントと同じようなステアリングシステムを用いている。ストラットと一体式のナックルアームに続く左右輪を結ぶ体トッドの中間に往復式の油圧シリンダーを置き、そのストロークによって操舵するメカニズムだ。スカイラインよりも繊細なハイキャス効果が得られるという。

*同じく7代目R31スカイラインのこと。量産車で世界初となるアクティブ後輪操舵機構「ハイキャス」を採用した。

4WDとはいっても、MID4はそのスタイリングどおり正真正銘のリアルスポーツである。ターンインは全くもってスムーズ。ステアリングに与えた舵角に合わせて、素直にノーズをインに向けてくれる。ステアリング系の剛性感はさほど高くないし、際立ってシャープなレスポンスを示すとも言いにくいが、クルマを自在に操れる。誰が乗っても速く走れることを目標に開発されたというだけのことはある。さらにもう一歩突っ込むと、テールアウト気味の姿勢でコーナーに進入できる。タイトコーナーなら、ブレーキング時の荷重移動を利用すればたやすくリヤををスライドさせられるし、すかさずアクセルに足を乗せればそのフォームを守ったままクリッピングポイントをパスしていける。4WDだから、FR車のようにリヤタイヤのスライドがパワーロスに大きく影響する心配もない。このあたりの扱いやすさと駆動力の高さは、ミッドシップ4WDだけに許された特性だ。しかも、素直に走らせてもマニアックに走らせても速いときている。


●「手造りの試作車」のようだったという試乗車には、外観が微妙に違うバージョンも。ボンネットのスリットや、サイドのエアインテーク、Cピラー、フューエルリッドなどの形状が白の試乗車や東京モーターショー出展版とは異なっている。

従来の4WD──特にフロントに片寄るFFベースの4WDはタイトコーナーが大の苦手だが、ミッドシップのMID4にはあてはまらない。中速以上で抜けるコーナーではほぼニュートラルに近いハンドリングが味わえた。限界に達するとリヤから少しずつスライドを始め、クルマがドライバーに危険信号を送ってくれる。ハイキャスの効果もスカイライン以上に現れ、姿勢の修正もわずかなカウンターステアを与えるだけでいい。さらにいえば、クローズドコース内の試乗だったので限界まで攻められたが、一般路でその域を超えられるのは、絶対的なスピード感に慣れたレーシングドライバーか、よほどの飛ばし屋ぐらいだろう。

MID4の開発スタッフは、限界時のリヤスライドそのものを抑え、高次元のスタビリティを確保するためサスペンションチューニングを進めていくという。高度なテクニックを必要とせずに、レーシングドライバー並みの走りがこなせる時代がすぐそこまで来ているのだ。しかし、ひとりのカーマニアとしての本音を明かせば、フェラーリのようにある意味では乗り手を選ぶクルマでもあってほしい気もした。今や時代錯誤かもしれないが、国産車にも1台ぐらいそんなクルマがあってもいいと思うのだ。


[日産MID4主要諸元]■寸法・重量全長:4150㎜全幅:1770㎜全高:1200㎜ホイールベース:2435㎜車両重量:1230㎏

■エンジン型式:VG30DE型水冷V6 DOHCボア×ストローク:87㎜×83㎜排気量:2960cc圧縮比:10.0潤滑方式:ウエットサンプ最高出力:230馬力/6000回転最大トルク:28.5㎏m/4000回転

■諸装置クラッチ:乾式単板ダイヤフラムトランスファー:センターデフ&ビスカスカップリングステアリング:ラック&ピニオン(パワーアシスト付き)サスペンション:前後ともストラット独立(後輪HICAS付き)ブレーキ:前後ともベンチレーテッドディスクタイヤ:205/60R15・89H燃料タンク容量:65ℓ
●フロントトランクにはバッテリーやスペアタイヤが収められる。車体先端のファンが付いている部分はラジエター。

●ボンネットフード前方にはダクトが設けられ、ラジエターグリルから吸い込んだエアを排出する。

●テスト車のタイヤはプロダクションレース仕様のポテンザRE71S(205/60R15・89H)。ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスク。ABSの装着が予定されていた(テスト車は未装着)。

●リヤトランクは十分な収納容量を確保。ゴルフバッグ2個を収納することを目標としたという。

当時の試乗レポートは以上だ。1985年の時点でこれほどコンセプトどおりの走りを実現していたのに驚かされるが、その次のモーターショー、1987年の第27回東京モーターショーでは改良型(MID4-Ⅱなどと呼ばれる)が出展され「もはや市販化間違いなしか」というムードが高まった。しかし、残念ながらMID4はそのままの姿で市販されることはなかった。市販する場合の価格(当時1500万円~2000万円ほどになるのではないかと推測された)や、バブル崩壊による景気の後退が影響したのではないかと言われる。ただ、このMID4開発で実証された「スポーツできる4WDシステム+ハイキャス」という構成はR32 スカイラインGT-Rに生かされたほか、ツインカムのV6エンジンはZ31 フェアレディZ/F31 レパードなど量産モデルでも実現されるなど、姿を変えてMID4の「走りの魂」はさまざまな日産車に継承されていった。

当記事は1985年ドライバー誌11月20日号の記事を再構成したものです。(試乗レポーター●萩原秀輝 写真●齋藤 賢/茂垣克巳 編集●オールドタイマー編集部・上野)>>「ミスタースカイライン」桜井眞一郎が考えるクルマ造りの信念とは?

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