いすゞフローリアンというクルマを覚えているでしょうか。ベレットGT、117クーペ、ジェミニ、ピアッツァなど、個性的なクルマが多いいすゞ車の中にあってはちょっと影が薄いクルマですが、1960年代~80年代まで販売されたロングセラーなモデルです。ベレットの上級版として開発され、4ドアセダンとライトバンのバリエーションが展開されました。さて、そんなフローリアンがデビューしたのは1967年11月のこと。1960年代には「出たてのクルマはどんなトラブルが起こるかわからないので買わないほうがいい」という見方も根強くあり、いすゞはそれを払拭するためあるPR方法を採用しました。それは「フローリアン・100万㎞チャレンジ」という壮大な耐久テストを行い、その模様を広告などに活用するというものだったのです。
こうしたPR方法は、1964年にトヨタが新型コロナで開通したばかりの名神高速を連続10万㎞高速走行し、テレビやラジオなどでも過程を随時放送するという例がありましたが(58日間で走破)、なんとフローリアンはその10倍の100万㎞を掲げたわけです! しかも、あくまで実際のユーザーの使用環境に沿ったテストとするため、いすゞは厳しい条件を自らに課しました。ドライバーはメーカーの技術陣やテストドライバーではなく全国のいすゞ社員が担当し、テスト中の整備も2万㎞ごとの定期点検・消耗品交換のみとされたのです。
……とはいえ、ここまでの写真を見た皆さんはもうお気付きかもしれませんね、さすがに1台で100万㎞を走り切ったわけではありません。テストには10台のフローリアンが用意され、それぞれが10万㎞を担当。全国のディーラーを5ブロック(名神班、東北・北海道班、四国・九州・中国班、北陸・近畿・中部班、関東班)に分け、選抜された社員がドライバーとなったのです。走行距離は1日500~600㎞、ひとりのドライバーが2時間以上運転してはいけない、最低2名が乗車しリヤシートの居住性もチェックする、という条件もありました。そして、1967年6月1日、第一陣となる東北・北海道班が出発。ドライバー1968年3月号では「カメラ・ルポ 1800日のテストを追う」という記事でその終始をレポートしているのですが、こんな面白いエピソードも──。
「100万㎞チャレンジ」開始時はフローリアンの正式発表前だったため、ボディにはカムフラージュがされたほか、テスト班も身分を明かすことを禁じられたといいます。そんななか、通りがかりに溺れている人を見つけ、テスト中のあるドライバーが救助活動を行ったのです。が……「助けてくださったのはどちらさまでしょうか?」なんて尋ねられても、いすゞ社員であることは明かせない! そのドライバーは騒動を見守った人垣から何とか逃れてテストに戻ったものの、「人命救助の表彰をフイにしてしまったよ」と冗談交じりに悔しがったとか。
ちなみに、フローリアンより先に登場していたベレットが4輪独立サスペンションを採用していたのに対し、フローリアンはリヤサスペンションにリジッドアクスル+リーフスプリングを採用するちょっと古くさい構成(フロントはダブルウィッシュボーン+コイルスプリング)。ですが、保守的ではあるものの、そうした堅牢な車体構成が「100万㎞チャレンジ」の成功を支えたのかもしれませんし、デザイン変更やエンジンの換装は行われつつも、車体自体は改良を受けることなく1980年代まで現役で活躍(そのため“走るシーラカンス”などとも言われましたが……)できた秘訣だったのかもしれません。現在いすゞ自動車はトラックやバスといった働くクルマの専業メーカーとなっていますが、乗用車でも“タフなクルマ”を世に送り出していたんですね!
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