2010年に北海道で開催されてから10年ぶりとなる予定だった愛知・岐阜でのWRCラリージャパン。度重なる延期でいまだ実現に至っていないものの、今年こそはと期待するファンやラリー関係者も多いはず。
俳優の哀川翔氏もそんなひとりです。哀川氏とラリーの出会いは2008年1月に公開されたラリーの世界を舞台とした映画「SS」のプロモーションのため、2007年10月に開催されたラリージャパンのセレモニアルスタートに登場したのが最初でした。劇中に登場するグループBマシン三菱スタリオン4WDとともに登壇した哀川氏は当時46歳。翌年にはライセンスを取得し、スタリオン同様劇中に登場するフォードフィエスタを駆り2008年大会には自らドライバーとして出場しています。
●ラリージャパンでSSを走行する哀川翔氏(写真は2010年)その後ラリーへの参戦を続けて来た哀川氏は、再びやってくるWRCラリージャパンへ参戦すべく今年もラリー活動をスタートします。映画やテレビでの活動がきっかけでモータースポーツの世界に触れる芸能人の方は少なくありませんが、その後継続的に参加し続ける例はあまり多くはありません。
今年61歳となる哀川”選手”の今シーズンのスタートは4月16~17日に長野県で開催されるTOYOTA Gazoo Racing ラリーチャレンジ(以下TGRラリーチャレンジ)第2戦。自らが率いる「FLEX SHOW AIKAWA Racing」のドライバーとして、トヨタ自動車が開発したスポーツCVTを搭載したヤリスでE3クラスに参戦します。
●2022年シーズンもトヨタ ヤリスで戦う「FLEX SHOW AIKAWA Racing」(写真はセントラルラリー2021)これまで、国内ラリーのほか東南アジアで開催されるラリーレイド「アジアクロスカントリーラリー(AXCR)」やアメリカで開催される「パイクスピークインターナショナルヒルクライム」など様々な競技に参加してきた「FLEX SHOW AIKAWA Racing」ですが、近年はAXCRのステアリングをタレントのヒロミさんやD1GPなどを主戦場とするプロドライバーの川畑真人選手に託しながら監督として指揮をとり、自身は国内競技に専念しています。
また、AXCRではマシンの製作やメンテナンスを自動車整備士を目指す専門学校の学生に託して育成という面でも貢献しています。現場では学生からもアニキと慕われる存在でもあり(学生はさすがにアニキではなく哀川さんとか、翔さんと呼びますが…)、今では海外の厳しいラリーレイドを経験した学生が数多く整備士として社会に巣立っています。
●タイのジャングルを攻める哀川翔/奴田原文雄 組のトヨタFJクルーザー(AXCR2011)●2013年、ラオスのゴールで完走をの喜びを分かち合うヒロミ/安東定敏 組と哀川翔監督(AXCR2013)●マシン製作と現地でのメンテナンスを担当する自動車整備の専門学校、中央自動車大学校の学生たちと東京で参戦発表会(後列中央に哀川翔監督と川畑真人選手/AXCR2019)そこで、今年こそWRCラリージャパンが開催されるであろう2022年の初戦の前に、これまでのモータースポーツ活動を振り返ってもらいました。
Q:映画SSの主演から14年、あの時これだけ続くと思っていましたか?哀川氏:あのころはWRCについては詳しくはなかったんだけど、とにかくそこを目標にしようと考えてました。WRCに出よう!って。と言ったもののじつはかなり大変でした。それからは1年に3~4戦程度ではありますが自分ができる範囲で、とりあえず60歳まではラリーは続けようと最初から決めていたので途中でやめるつもりは一切ありませんでした。
●2020TGRラリーチャレンジRd.12豊田 哀川翔/保井隆宏 組Q:その後「アジアクロスカントリーラリー」にも出場しましたねあれはね、(スプリントラリーとは違う面で)おもしろいんだよね(笑)。キツイんだけどアジアを満喫できる感じがする。陸路で渡る国境ってね、とってもザワザワしててね、毎年感動がある。リエゾンでの休憩ひとつとっても思い出に残る。最初は1~2回でやめるとみんな思っていたらしいんだよね。だけど毎回来るから、最初のころは「あれ、また来たね!」みたいな感じ。それから回を重ねるたびにファミリー的になってきて今じゃ「どうもどうも~!」みたいな関係になった。うれしいよね、みんなあったかいから。
●2018年からはランドクルーザープラドでAXCRを戦った(AXCR2018)Q:これまでラリーを続けてきたことで何か変化はありましたか?哀川氏:タイムが少しづつよくなっていることは、ものすごく喜びになってる。やっぱり続けていると上手くなるのかな、って感じがしています。タイム以外にもトラブルにも強くなったりしてますし。また(ラリーのSSは同じ場所を複数回走る事が多いから)1本目で走った経験をどれだけ2本目のタイムに生かせるか、みたいな自分との戦いを楽しんでいるところもある。そのへんは(タイ・バンコクからカンボジア・プノンペンまでの2000kmのような1Wayの)AXCRとは全然違う。
Q:これからの目標は?哀川氏:もう(当初の目標であった)60歳を超えたわけじゃないですか。だから、これからタイムが伸びていくってことは多分ないんですよ。体力的にも精神的にも。でも出場すると会場やコースにきたお客さんが喜んで盛り上がってくれる。そういう姿を目にするとすごく出場した甲斐を感じる。そのなかで1本目より2本目、という目標を続けていければと思っています。
●トヨタ ヴィッツで参戦した2019年(写真はセントラルラリー2019)Q:ラリー活動して得られたこと。そして読者へのメッセージをお願いします哀川氏:クルマって乗ったらアクセル踏みたくなるじゃん。かつてオレがそういうタイプだったの。でもね、ラリーに参戦しているとアクセル踏むのがこんなに怖いんだなって思っちゃう。突っ込んだりしたとき、もしこれが人だったら完全にアウトだよね、みたいなことをすごく考えるようになっちゃう。だから本当にふだん飛ばさなくった。ホント。そういった意味でもラリーっていいものかな、と思う。
だから(これを読んでいる方で)アクセル踏みたくなっちゃったら、1Dayのラリーとかやってみたら、って思いますよ。
哀川翔氏率いる「FLEX SHOW AIKAWA Racing」は4月16~17日のTGRラリーチャレンジ第2戦以降も、TGRラリーチャレンジや国内クロスカントリーラリー等への参戦を視野に入れ調整しているとのことです。異次元のスピードでコースを駆けるトップドライバーの走りはもちろんラリーの華でありとても魅力的です。
一方で、少しずつ、できる範囲でラリードライバーとして、チーム監督として参加型モータースポーツの現場に立ち続け挑み続ける哀川翔氏、そして「FLEX SHOW AIKAWA Racing」がラリーを通じて感じた安全に対する考え方や、ラリーへの想いも、とても魅力的でした。
〈文と写真=高橋 学〉