2020/12/01 カー用品

バブル到来!? オールシーズンタイヤはスタッドレスタイヤの代わりになるのか?|短期連載第1回|

すでにご存知の方も多いかもしれないオールシーズンタイヤ。乾燥路面はもちろん、雪道も走れるというオールマイティなタイヤとして注目されている。でも、そもそもどこからやってきて、なぜ生み出されたのか? そしてなぜ氷上には強くないのか…。

今回は、タイヤのスペシャリスト2人をお呼びして、さまざまな疑問をぶつけてみた!




斎藤 聡 Satoshi Saito

●タイヤ師匠の異名を取るモータージャーナリスト。これまで無数のタイヤに試乗し、その開発背景までを知りつくす。自身もオールシーズンタイヤを愛車に装着し、その性能を確かめているところだ

市川 仁 Hitoshi Ichikawa

●長年タイヤメーカーの商品企画などに携わり、タイヤの進化を見届けてきた。現在は、フィンランドのメーカー「ノキアンタイヤ」をはじめ、さまざまなタイヤメーカーの商品を扱う阿部商会の販売促進部 商品課に所属。海外の事情にも詳しい 

バブル到来!? オールシーズンタイヤはどこからやってきた?



―― 最近オールシーズンタイヤがクローズアップされています。各タイヤメーカーから発売されていますが、どんな性能なのでしょう? そしてなぜ突然出てきたのでしょう?

斎藤 ボクが聞いている話だと、ドイツでオールシーズンタイヤが爆発的に人気を博したのがきっかけだって。だいぶ前だけど、ドイツでは法律で冬季に冬用タイヤの装着の装着義務が法律で決まって(2010年法制化)、夏用と冬用の2セットのタイヤを持たなくてはいけなくなったんですよね。
そんなところにグッドイヤー製のオールシーズンタイヤが登場した。オールシーズンタイヤは冬の性能も備えた全天候タイヤということで、ドイツの冬季でも十分使えたので、それを知ったドイツ人が、これは具合のいいタイヤだって殺到したと聞いています。

冬性能にも夏性能にも特別優れているわけではないので、まさかそんなに大きなニーズがあるとは思っていなかったかもしれませんが。想像以上にドイツ人はケチだった…わけじゃなく、利便性という、思わぬ性能を求めるニーズがあったんですね。

市川 ヨーロッパは陸続きですから、ドイツを通るなら冬用タイヤの装着が義務づけられると、周辺の国も何らかの冬用性能を持ったタイヤを履かなければならなくなります。けれども温暖な地域ではウインタータイヤまでは必要ない。その点オールシーズンタイヤは、ドライ路面はサマータイヤ並みに走ることができて、M+Sという…これは形式的な性能ですが冬用タイヤの認証も得ていますから、ウインター性能を求めない地域の人にも受け入れやすかったというのもあると思います。


●「M+S」は、「マッド&スノー」を意味する

斎藤 で、思わぬところに需要が生まれたので、イッキに様々なタイヤメーカーが参入してちょっとしたバブルになったってことですね。で、それが最近日本にも波及した。

―― オールシーズンタイヤとウインタータイヤ、そしてスタッドレスタイヤって、どう分類したらいいのでしょう?

市川 スタッドレスタイヤというのは、ウインタータイヤの中の1カテゴリーなんです。まず大枠としてサマータイヤとウインタータイヤがあって、ウインタータイヤの中にスノータイヤ、スノータイヤの中にスパイクピンのないものと、スパイクの打てるスタッダブルタイヤというのがあったんです。
このほかスノータイヤの中には、ソフトコンパウンドのものもあれば、高速道路を走るのに向いた都市型スノータイヤとか高速型スノータイヤというのがあります。欧州ではいろんなタイプのスノータイヤがあるんですよ。

世界初のウインタータイヤはノキアンタイヤから!?



―― ノキアンタイヤは世界で初めてウインタータイヤを作ったメーカーということですが、そのときのタイヤはスパイクタイヤだったんですか?


●ノキアンタイヤのウインタータイヤ「WR D4」。ウエット、ドライ、スノー性能を優れたバランスで実現。高速走行時の卓越した安定性とバランス性能、シャーベットやウエット路面にも強い。優れた排水性が特徴だ

市川 スパイクのないスノータイヤでした。

―― やはり会社がフィンランドにあるというのが、ウインタータイヤ開発の大きな背景なんでしょうね。

斎藤 それは間違いないと思う。ボクが感心するのは、そういう地理的環境の中にあったとしても1930年代にすでにスノータイヤの概念を持っていたということ。多分コンパウンドのレシピはグッドイヤー、ダンロップ、ミシュランといった大手タイヤメーカーのある温暖な地域に適したものだったと思うんです。それを北欧向けに作り直してタイヤとして成立させているところです。
それがノキアンタイヤというタイヤメーカーのタイヤづくりの取り組み方を象徴していると思う。

市川 じつはノキアンタイヤのウインタータイヤをきっかけに、欧州ではウインタータイヤが普及して、様々な種類のスノータイヤに発展していくわけです。

なぜ日本ではウインタータイヤではなくスタッドレスタイヤ?



―― 日本でスノータイヤがあまり普及しなかったのは、どうしてなんでしょう。

斎藤 日本の冬は、気温が0度付近を行き来するので、水、シャーベット、氷、解けかけの氷が混在するとても滑りやすい路面なんです。冬タイヤにとっては最も過酷な路面だといわれているんだよね。

市川 そうなんです。だからスパイクタイヤを履く人が多くて、これが粉塵問題を引き起こすんです。

斎藤 粉塵問題で1991年3月からスパイクタイヤの販売が禁止になりました。それに代わって登場したのがスタッドレスタイヤ。スタッドタイヤに対するスパイクピンのないスタッドレスなのでそう呼ばれるようになったんだんだけど、ネーミング的にはちょっとややこしいね。

―― このネーミングがタイヤの分類を混乱させる諸悪の根源のような気がしています。

市川 スタッドレスタイヤは国内でスパイクタイヤの製造・販売が禁止になるのが決まって、それに代わるタイヤを作りなさいという国からの要請で開発が始まったんです。

斎藤 当時は1年ごとにモデルチェンジは当たり前で、ものすごい勢いで開発競争が始まった。それと同時にほかのウインタータイヤがほとんど売れなくなってしまった。

市川 そうなんです。それで日本のスタッドレスタイヤは氷の路面を重視した、かなり特殊な形で進化していくんです。


●現在も北欧を始め極寒地ではスタッドタイヤが販売されている。写真はノキアンタイヤのハッカペリッタ9。スタッドは単なる釘ではなく、特殊な形状。しかも2種類埋め込まれており、氷上路で卓越した引っかき性能を発揮する

オールシーズンタイヤって何モノ!?



―― なるほど。日本ではそんなふうにスタッドレスタイヤが登場して進化を始めるんですね。ところでオールシーズンタイヤはどのカテゴリーに属するんですか? ウインタータイヤの一種と考えていいんでしょうか。

斎藤 オールシーズンタイヤはサマータイヤとウインタータイヤの中間にあるタイヤ。ボクのイメージでは雪も走れるサマータイヤくらいに考えるのがいいんじゃないかと思う。

―― それって何が違うんですか。オールシーズンタイヤとスノータイヤ、スタッドレスタイヤってゴムが違う?

市川 トレッドパターンも工夫はされますが、おもにトレッドゴムの機能する温度域が違います。サマータイヤは気温が7度を下まわるとゴムの柔軟性が徐々に失われていってグリップ性能が落ちてくる。ウインタータイヤは7度以下でもゴムの柔軟性が失われにくく造られています。オールシーズンタイヤはサマータイヤよりも低温性能はいいけれど、ウインタータイヤほどよくありません。

―― なるほど。オールシーズンタイヤはサマータイヤとウインタータイヤの間にあるタイヤなんですね。

斎藤 そう。ただ、ウインタータイヤでもスノー性能重視のものと高速道路重視のものがあるように、オールシーズンタイヤでも、ドライ路面を重視したものからスノー性能を重視したものまで幅があるみたい。
「みたい」というのは、比較テストしたことがないのでメーカーの言い分を信用するしかないんだよね。もちろん試乗もしているんだけど、コンディションによって印象がガラッと変わってしまうから横比較が難しいんだ。

オールシーズンタイヤ vs スタッドレスタイヤ



―― 例えばスタッドレスタイヤと比べたら、オールシーズンタイヤの性能はどのくらいなんでしょう。スタッドレスタイヤの代わりに使えるんでしょうか。

斎藤 どのメーカーもこれは異口同音に言っていることだけど、スタッドレスタイヤにはスノー性能もアイス性能もかなわない。特にアイス性能は比較にならないくらい差がある。

市川 氷雪性能と一口に言いますが、圧雪路とアイス路面ではグリップのメカニズムが違うんです。
圧雪路での性能はトレッドパターンが大きく影響します。もちろんゴムの柔軟性も必要なんですが、雪を踏んで固めて蹴りだすという雪柱せん断力が大きく作用するんです。
これに対してアイス性能はゴムのグリップ力が大切で、グリップ性能を引き出すために氷とタイヤの間にある薄い水幕を取り除く除水性能が重要になってきます。

斎藤 オールシーズンタイヤは、圧雪路に効くトレッドパターンと、寒冷時でもなんとかしなやかさを発揮してくれるコンパウンドを使っているので、圧雪路の性能は案外いいんだけれど、氷の路面で十分なグリップするほどコンパウンドは柔らかくないし、除水するための機能もほとんど持たないのでアイス路面は得意じゃないってことなんだ。

―― なるほど!

斎藤 だからオールシーズンタイヤは、冬道を走るためのタイヤではなく、サマータイヤとほぼ同等の性能でドライ路面を走ることができ、雪が降っても何とかしのげるタイヤ、くらいに考えるのがいいと思う。非降雪地域向けのタイヤってことだね。南関東のように年に数回しか雪が降らない地域の人にとって、わざわざスタッドレスタイヤやスノータイヤに履き換えるのは…という人に向けたタイヤってことだね。

―― スタッドレスタイヤと比べると、氷雪性能はかなり差があるってことですね。そうなると今度は同じゴムなのに、なぜスタッドレスタイヤがそれほど氷雪路面でグリップするのかというのが気になってきます。

〈続く〉※次回は、なぜスタッドレスタイヤは氷路面で効くのか?という素朴な疑問に迫ります

まとめ=斎藤 聡

■問い合わせ先
阿部商会
https://abeshokai.jp/nokian/

ドライバーWeb編集部

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