2020/03/26 新車

新型フィットのクロスターと売れてるライズ、どっちが買い!?

SUVらしさか、クロスオーバースタイルか

快進撃を続けるコンパクトSUV、トヨタ ライズ/ダイハツ ロッキー。今までスズキのクロスビーが1LクラスのSUVとして存在していたが、クロスオーバー的な雰囲気であり、軽自動車のハスラーのイメージに近いため、力強さという面ではもの足りない印象も受ける。


ライズ Z

それに対してライズ/ロッキーはまったく逆のイメージ作戦で来た。ライズ/ロッキーはダイハツが開発の主導を取り、いわゆる兄弟車。とはいえフロントフェイスは別物で、ライズは先に登場して好評となったRAV4に似たエクステリアデザインに仕上げられているのが特徴だ。RAV4は誰が見てもSUVとわかる力強いイメージで、ライズはそのエッセンスを十分に効かせている。RAV4はボディも大きくて価格も高いが、ライズは1LクラスのコンパクトSUVで価格も安いとなれば、ユーザーが放っておかないのは理解できる。

まるで独り勝ちのようなライズだったが、そこに現れたのがフィット クロスター(以下クロスター)だ。一見するとライバルになりそうもないのだが、じつはボディサイズや価格を考えると立派な競合車になる。


フィットe:HEVクロスター

今回は、2モーターハイブリッドを搭載するフィット e:HEVクロスター(FF。228万8000円)と、ライズのZグレード(FF。206万円)で比較してみたい。

じつはボディサイズも近い2台



まずボディサイズから。ライズは全長3995mm、全幅1695mm、全高1620mmと5ナンバー枠に納まる。対するクロスターは同4090mm、同1725mm、同1545(ルーフレール付き1570)mmと、サイズ的には3ナンバー。だが、これは前後バンパーデザインがクロスター以外と差別化され、少し大型化されているから。さらにSUVらしくフェンダープロテクターを装着しており、5ナンバー枠をはみ出している。全高はライズのほうがSUVらしく高めの設定であることを除けば、サイズ感はほぼ一緒と言っていい。



2台を頭合わせで並ばせて横から見ると、クロスターの全高が高く感じた。メーカーオプションのルーフレールによって全高が1570mmまで高められているためもあるが、じつはデザインの効果も大きい。新型フィットはCピラーを強調するデザインで、ルーフからボディサイドまで太いピラーが続くためリヤまわりにボリューム感がある。クロスターはルーフレールとプロテクターなどによる演出がうまく、標準車とはまったく違った雰囲気に仕立てられている。


●クロスターのステアリングはウレタン

●ライズのZグレードは本革ステアリングを採用

ドライビング時の視界を比べると意外に差が小さい。ライズは少しだけアイポイントが高いが、クロスターは例のAピラーを前に出したフロントウインドーのおかげで見晴らしがとてもいい。取りまわしも視界による差はほとんどなく、2台ともコンパクトらしく扱いやすい。


●クロスターは撥水ファブリックシートが標準となる

●ライズはGグレード以上が見栄えのいいレッドパイピング入り

運転席に座って感じる差はシートの出来栄えだ。サイズ感はほぼ同じだがクロスターは腰をしっかり支えてくれる感じで座り心地もいい。従来のSバネによる構造ではなく、面で支える上級車並みのシート構造を採用していることが効いている。かといってライズが悪いわけではないのだが。

パッケージングもじつは似通っている!?


●後席の背もたれの長さははクロスターのほうが上。アームレストも標準装備だ

●ヒザまわりのスペースはクロスターに比肩。ただアームレストは装備されない

リヤシートは、パッケージング上手のフィット(クロスター)が有利だと思っていたが、比べると意外にもほぼ同じ広さ。クロスターはセンタータンクレイアウトを採用するため、「広い」という先入観があった。だがライズの車内に乗り込んで驚いてしまったほど、広さを確保している。正確に比べるとやはりクロスターのほうがヒザと前席との間隔があり、身長165cmの筆者が座るとコブシ3個半の余裕に対し、ライズは3個とちょっとにとどまる。どちらのモデルも、身長180cmぐらいでも後席の足元の広さに不満が出ることはないはずだ。座り心地に大きな差はないが、ライズはリクライニングを2段で変えられるがクロスターはなし。ロングドライブでは、角度調整が可能なライズのほうが有利かもしれない。


フィットe:HEVクロスター

ライズ Z
■荷室寸法(実測値) フィット クロスター ライズ
高さ 84cm 75cm
最小幅 101cm 99cm
最大幅 116cm 127cm
荷室の奥行き 66cm 71cm
後席倒し時の奥行き 143cm 132cm

荷室もほぼ互角といっていいだろう。荷室長はわずかにライズのほうが上まわっているが、後席を倒したときの荷室長はクロスターが上まわっている。高さの比較でもクロスターが上。だがライズにはラゲッジボードが備わっており、この数値はボード上段での値。下段にすればもっと高さを稼げる。さらにこのボードの下には大きなスペースがあるため、総合的な荷室容量としてはライズが上まわっている。だがクロスターには秘策が。そう、リヤシートをチップアップして後席スペースを荷室にする方法だ。背が高い荷物も後席シートアレンジで収納できるというのがクロスターの強みだ。


●e:HEVはバッテリーなどを搭載する関係上、フロア下のスペースは最小限。後席座面のチップアップがフィットの売りで、背の高い荷物をラクラク積載可能だ

●ライズのラゲッジボードは全車標準。後席背もたれ倒し時にフラットにしたいなら上段に設置。下段にすれば荷室高を稼げる。フロア下には深くて広いスペースを確保

次ページからは、
走り面を比較してみる!

速く感じさせるか、スムーズな走りか


ここまで比べると、いかに似たような実力であるかがわかる。そしてじつは、動力性能も似ている。

とその前にフィットのe:HEVを簡単におさらいしておくと、基本的にモーター駆動がメインで、高速域などではエンジンが主体となる。街乗りではEV感覚、高速道路ではエンジン主導、そんなイメージのハイブリッドシステムである。


というわけで両車のスペックを比較してみると、e:HEVのモーターは最大トルク253Nmを発生、ライズの1リッターターボの140Nmを圧倒している。しかもクロスターは0〜3000回転で最大トルクを発生しているわけだから、さぞかしトルクフルで「速そう」と思いがちだ。だが実際に乗り比べると、ライズの1Lターボはトルクフルな感じで車体を軽々加速させる。特に2500回転くらいからはクロスターより力感があるように思える。


これはモーターとターボエンジンの出力特性の違いによるところが大きい。ライズはアクセルを踏み込むとターボが過給してグッとトルクを発生させるが、クロスターはモーターのため最大トルクが大きくてもスムーズにトルクを立ち上げる制御。静かでスムーズで実際に速いのはクロスターだが、ドライバーの感性に「速いぞ」と感じさせるのはライズのほうだ。

クロスターには、1.3Lエンジンも用意されている。こちらは最高出力98馬力、最大トルク118Nmとやや非力に見えるが、けっこう走りは元気だ。4気筒でi-VTECを採用しているのはe:HEVと同じだが、こちらも高回転域のエンジンフィールと音が気持ちよく、動力性能もこれでも十分と思わせるほど。ライズのようなトルク感はないが、エンジンを存分に回して走りを楽しみたいというのであれば、1.3Lのクロスターもおもしろい。

乗り心地はクロスターが圧倒


乗り心地と静粛性という点ではクロスターがライズを圧倒している。新型フィット全体にいえることだが、乗り心地の質感や静粛性はコンパクトの領域を超えてミドルクラスサールンに迫るものだといっていい。路面が変化しても室内のノイズのボリュームや音質は変化が少ない。これはe:HEVに限ったことではなく、1.3Lのガソリン車でも確認している。ドアまわりのゴムを全周2重化するなどコストをかけているためで、ライズに大きな差をつけている。


ライズのFFはサスペンションが突っ張った感じがあって段差を通過すると突き上げ感が大きい。4WDなら突き上げ感はかなり緩和されるが、乗り心地や静粛性という面では、ライズはコンパクトカーのレベルにとどまっている。インパネの質感も両車では差が大きく、ライズの“割り切り”を実感する。

先進安全装備ではクロスターが一枚上手


●クロスターのみならず、フィットは全車電動パーキングが標準装備

先進安全装備を比べると、やはりクロスターが勝る。アダプティブクルーズコントロール(ACC)は全速域制御で、停止時には電動パーキングブレーキ(EPB)によって停止保持可能。もちろんオートブレーキホールド機能も付いているため、一般路の信号待ちでブレーキペダルから足を離すこともでき、とてもラクだ。少し気になったのは、クロスターで首都高速を走っていたときトンネルの入り口で衝突軽減ブレーキのランプが点灯し、実際に初期のブレーキングも行われた。新型フィットのホンダセンシングは従来のミリ波レーダーと単眼カメラ併用からフロントワイドビューカメラ(単眼)に変更されたが、そのワイドビュー化の影響でなければいいのだが…。それに加えて、渋滞時の追従発進の加速制御がやや遅いのも気になる。


●パーキングブレーキが手動式のため、ACCは停止保持ができない

一方でライズは、ステレオカメラ方式。ACCも全速域制御だが、停止時にブレーキを保持しないため、停止約2秒後にクリープ走行になってしまうのが残念。行楽などで渋滞したときに残念な思いをするわけだが、これはパーキングブレーキが従来のレバー式のため、停止保持ができないからだ。

車線中央維持(レーンキープ)は両車とも装備。ライズは約60km/h以上、クロスターは約65km/h以上から制御するため制御範囲の速度はほぼ同じだが、レーンの中央をキープする能力はクロスターが上。ライズはセンターをキープするというより、車線内をキープする感じだ。

e:HEVとの価格差20万円は、ほぼ“埋まる”


●クロスターの最低地上高は160mm(e:HEVのFF)。一方でライズは185mm。そしてライズはボンネットが高く、SUVらしい主張がある

ではどちらが買い得なのだろうか? 車両価格を比べると、ライズは今回のZグレードで206万円、クロスターはハイブリッドモデルで228万8000円。その差は約20万円高だ。コンパクトクラスでこの価格差は確かに小さくない。しかしエコカー減税(e:HEVは免税、ライズは減税なし)や燃費(WLTCモードでe:HEVは27.2km/L、ライズは18.6km/L)などを考慮すると、その差はかなり埋まってくる。

とはいえ、価格的にライズが有利であることに間違いはない。だが安全装備の機能や上級車並みの走りの質感を考えるとクロスターだ(ライズのZは本革ステアリングが標準だが、クロスターはオプションでも選べないなどの装備差はあるが)。最後の判断はやはりスタイリングか。SUVらしいコンパクトカーが欲しいのであれば迷わずライズ。クロスオーバーテイストで満足できるなら、総合力の高さでクロスターをオススメしたい。

〈文=丸山 誠 写真=山内潤也〉

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