2019/07/17 ニュース

ついに乗った!触った!マツダ2セダンベースの「マツダ教習車」のホントのところ

マツダが、2019年5月27日に発売した新型「マツダ教習車」。従来のアクセラに代え、ベース車両はなんと国内未導入の「マツダ2セダン」。いわゆるデミオのセダン版だ。ベース車を変更した背景には同じく5月に国内販売を開始したマツダ3のサイズ拡大が1つの要因である。もちろんそれだけではなく、マツダが教習車の理想を追求した結果として「マツダ2セダン」がベース車として採用されたという。



●「マツダ教習車」タイで生産されるマツダ2セダンがベース。※取材したのは開発車両のため細部の仕様が異なる



●「マツダ教習車」ホイールはオプションのアルミホイール仕様。タイヤサイズは185/65R15

輸入してまでベース車を変更したマツダの本気を取材した。ちなみに、従来モデルは「アクセラ教習車」であったが、今回からはベース車両が国内販売されておらず、マツダで唯一の教習車であることから「マツダ教習車」とした。



●MAZDA2ではなく「MAZDA」

「人間中心」の開発思想で技量習得が早くなる

マツダは「教習生が運転操作に早く慣れ、交通環境の中で安全運転ができるスキルを早く習得できること」が、教習車のあるべき姿と考えている。これだけだと教習生が得られるメリットを重視しているように思えるかもしれないが、「マツダ教習車」の導入により、指導員や教習所経営にもおよび、いわば教習環境全体にメリットをもたらすことになるのだという。



●インパネまわりは基本的にデミオと共通。右ハンドル仕様だ

ひとつ目のメリットはもちろん教習生にとって運転しやすい環境を整えることにある。第6世代商品群のマツダ2セダンは「人間中心」の開発思想のもとにつくられている。正しい姿勢で容易に操作ができるよう、自然に足を伸ばしたところに配置されたペダルレイアウトを実現。さらにステアリングにはチルトだけでなくテレスコピック機構も備わるので、小柄な人から大柄な人まで適正なドライビングポジションを採りやすくしている



●シートはしっかりと体幹を支え快適な乗り心地を実現する衝撃吸収ウレタンを背もたれ部にも採用(現行デミオと同じ)

「人間中心」の開発思想ならば、従来型のアクセラ教習車も適正なドライビングポジションが取れるという点では同じである。が、「マツダ教習車」は従来型よりもコンパクトな5ナンバー枠に収まるサイズ。全幅が1695mm、全長に至っては4410mmと教習車要件を満たすギリギリの短いボディは扱いやすく、最小回転半径も5.3mから4.7mになったことで、教習所内の3.5m幅のクランク路などで取りまわしもしやすい。

ボンネットの先が従来型よりも約1m手前が見えることや、ベルトラインが低くなったおかげで窓越しに後方確認がしやすくなるなど、教習生が正しい運転を早く取得でき、さまざまな交通環境で安全・安心な運転ができるスキルを身につけられる。



●教習所を模したコースを実際に走ってみた。道路の幅は3.5mの設定。コンパクトなボディで取りまわしがしやすい印象



●従来型のアクセラ教習車も試した。大柄なボディと最小回転半径5.3mだと、クランク脱出に恐る恐るでイン側を気にしていたら、アウト側が急接近!!



●「マツダ教習車」だとかなり余裕。車両サイズや最小回転半径の差は、教習生には大きいハズ


指導員も快適に。的確な指導で教習生の成長も早まる

そして、もうひとつ「マツダ教習車」がこだわったのが、指導員に対しての配慮だ。長時間クルマに同乗し教習生の指導に当たる指導員にとって、教習車はいわばオフィスである。今回新型で取り組んだのは、指導員の足元に備わるサブブレーキとそのまわりのフットレストまわりの配置の最適化だ。



●指導員席の足元も「人間中心」のレイアウトに。左右のフットレストが安楽姿勢と踏んばり姿勢を両立する角度や、踏み替えのしやすい寸法など最適化された



●こちらは従来型

ざっくり言うと指導員用のサブブレーキをコンパクト化して足元にゆとりを持たせたことと、運転席同様の足さばきが行えるようにアクセルペダル位置に相当する右側と左足用のフットレストの角度を調整している。また、右足横に備わるエアコン吹き出し口も風を分散して送り出すように特別にチューニング。座面の高さ調節ができるようにシートリフターも装備するなど、長時間指導の疲労を軽減する策を講じている。指導員が快適に過ごせる空間とすることで、教習生への的確な指導に専念できるようになる。これにより教習生が期待したどおりに運転技量を高め、成長してくれるようになるというわけだ。



●指導員席側にも運転席同様シートリフターが付く。さまざまな体格に対応する



●指導員用インナーミラーが通常使用のインナーミラーに映り込まないように配置が見直されている
 


GVCがもたらす運転のしやすさと快適性

さらに見逃せないのが、スカイアクティブG1.5の採用と、6速AT、そして乗用の教習車として初採用となる6速MTを組み合わせたパワートレーン。従来型に比べ、アクセル操作に対してリニアリティが向上。さらにGベクタリングコントロール(GVC)の採用により、教習生は揺れの少ない素直なハンドリングにより正しく運転でき、ムダに揺れないから指導員も疲れない。運転に不慣れどころか、教習生のガッチガチに緊張したハンドルさばきによる運転を想像すると、これをいなしてくれるのはどんなにありがたいことか……。


 

スピードコントロールしやすいサブブレーキ

教習車の専用装備である指導員用のサブブレーキにもこだわった。マツダはサブブレーキの使い方について独自の調査をした。その結果、指導員がサブブレーキを使用する大半が危険を未然に防ぐために速度を抑制するなどのスピードコントロールに用いていることがわかったという。従来型が危険回避のために、効きはじめの減速度の立ち上がりが早い制御としていたため、いわゆる”カックン”ブレーキのようなものだったのに対して、「マツダ教習車」ではマイルドな立ち上がりに変更。使用頻度の高いスピードコントロール時の操作フィーリングを向上させている。



●サブブレーキはベース車が国内に陸揚げされた後、架装される。運転席のブレーキペダルとリンクやワイヤーを介してつながれる

実際に試してみると、従来型ではサブブレーキを踏み始めてあるところから急に制動力が高まり、スピードのコントロールという使い方だと違和感のあるものだったが、新型では右足フットレストの角度が最適化されたことと相まって、通常のブレーキ操作と同じような操作フィーリングになっていた。

新旧の指導員席で乗り比べてみると、正直、後付け感がないわけではないが、従来型に比べれば その環境はかなりよくなっていると感じた。コンパクトになったサブブレーキのおかげで、シートをそれほど下げずにドライビングポジション同等の姿勢を確保できる。足を自然に伸ばした状態で違和感なくフットレストに足が乗るよう左右対称に配置され、絶妙な角度で違和感を感じない。そこからサブブレーキを踏むための右足の移動も素直に行える。



●指導員モニター。スピードメーターやインジケーター、ホーンスイッチフットランプスイッチを備える。スピードメーターは教習生からは見えにくくなっている

指導員席(=助手席)の足元空間にゆとりを持たせたことで、前席シート位置を無理に下げずに済む。これにより従来型と同等以上の後席足元空間を確保。ボディのサイズダウンによる影響を最小限に抑え、路上教習などで、ほかの教習生が後席に同乗する際にも不自由することはない。



●後席足元空間は従来型同等以上を確保
 


小型化とこだわりがランニングコスト低減に貢献

教習生が早く運転スキルを身につけられる環境が整えば、教習所としては新たな教習生を受け入れられる。すなわち円滑な教習生の入れ替わりが行われる。これに加えて、教習車にかかるランニングコストも軽減するから、効率的に教習所経営ができるのだという。



●スカイアクティブG1.5に6速ATもしくは6速MTの組み合わせ

ランニングコストに関しては、アクセラベースの従来型に比べ、軽量なマツダ2セダンベースであることが大きく貢献する。環境性能に優れるスカイアクティブG1.5エンジンの組み合わせにより、燃費が向上。従来型はMT:15.8km/L、AT:13.6km/L(JC08モード)と、新型はMT:18.6km/L、AT:17.4km/L(WLTCモード)と条件が異なるものの、WLTCモード値はJC08モードに比べ一般的に1割程度数値が低くなる。それでも約2割いい数値を実現している。



●タイヤサイズは185/65R15。従来型に比べて小型化されたことで交換コスト低減が図れる

そして、タイヤサイズが185/65R15に小型化(従来型は205/60R16)したことで、タイヤおよびホイールの交換コストも低減する。また、新型「マツダ教習車」の6速MT車ではクラッチの長寿命化を実現。軽量コンパクトでクラッチ負荷の低減が図れるだけでなく、クラッチディスクを大径化し強化した。これにより従来型に比べて2〜3倍に寿命を延ばし、結果的にクラッチの交換コストや交換作業時の不稼働期間を抑制するなどメンテナンスコストを低減しているのだ。

さらに、マツダ2(デミオ)で採用するLEDヘッドライトも標準装備。従来型ではハロゲンバルブだったから高寿命なLEDの採用は交換コストを抑えるのに有効な策といえる。



●ヘッドライトはLEDタイプを標準装備

コスト面で優位性を示せるのが、接触などによる外装パーツの交換修理にかかるところだろう。「マツダ教習車」の外観上で大きくベース車両と異なるのが、リヤバンパー下部に装着されたプロテクターだ。教習所では車庫入れや縦列駐車などで壁などの障壁代わりにポールを設置している。これに接触すると減点や検定中止など教習生にとってもイタい思いをするのだが、ボディのキズ付きも避けられない。

ということで、新型には未塗装の樹脂製プロテクターを専用設計し、装着している。これによりトランクやバンパーのキズ付きを低減できるし、キズも目立ちにくい。損傷が軽度であればプロテクターのみの交換で済むので修理コスト軽減にも寄与する。しかもこのプロテクターはよ〜く見ないと後付けであることがわからないくらいボディデザインにマッチしている。「マツダ教習車」開発陣のデザインへのこだわりから生まれたパーツなのだ。



●リヤバンパー下部に付くプロテクター。これが先に障害物と当たりバンパーやトランクなどのキズ付きを抑える

ちなみに、フロント側でも修理コスト低減にこだわる箇所がある。それはナンバーの装着位置だ。クルマのナンバープレートをグリルの助手席側に、「教習中」などのプレートホルダーを運転席側に並べて配置。これ、見た目重視というわけではなく、バンパーの切り欠きの延長上に配置することで、壁など障害物に接触しづらくしているのだ。

また、プレートホルダーをオフセットして装着する方法もあるが、それだと角度によって見えづらくなったりもする。グリル内に集中配置することでどの角度からでも見えやすくしているとのこと。これは従来型から継承された部分でもある。



●フロントグリル内側内に納めたナンバープレートと「仮免」プレートホルダー



●指導員用のアウターミラーはサイドミラーからはみ出さないように設置される
 

なぜそこまでしてマツダが教習車にこだわるのか?

マツダは、初代アクセラをベースにした教習車の発売をきっかけに、国内の教習車シェアを拡大。一時期は40%を超えるほどのシェアを獲得したこともあるほど。最近では各社の教習車が新型に更新されたことなどもあり、2018年では20%強なっているのだが……。マツダ3、特にセダンのボディサイズ拡大が教習車としては大きすぎるという判断により、採用されたのがタイ生産のマツダ2セダン。でも、輸入してまでベースの車種変えをする必要があったのか?



●商品本部 マツダ教習車商品主査の富山道雄氏。CX-3開発主査などを歴任する

「マツダ教習車」商品主査の富山道雄氏に聞くと「マツダの教習車ビジネスがけっして利益を優先するものではない」と、前置きしたうえで、「マツダというブランドタッチのきっかけになることを目的としているんです。初めてクルマを運転する”教習車”がマツダ車であれば、これをきっかけに初めてのクルマやいずれ手にするクルマとして、マツダ車を選んでもらえればというのはあります。実際に、教習車がマツダ車であった場合に、購入するクルマとしてマツダ車を選んでいただいたというのも、そうでなかった場合に比べて多いのは事実です。」

-「マツダ教習車」はタイからの輸入車ですが、「教習車の要件に合うサイズとして、現状のラインアップからはマツダ2セダン以外はなかった。ハッチバックでは短すぎるので教習車の諸元を満たしません。マツダ2セダンは5ナンバーサイズで全長4400mm以上の要件をギリギリで満たす4410mmのコンパクトさ。運転のしやすさという点でかなりのメリットになるはずです。」

-輸入というとコストアップの懸念もありますが、「タイから輸入するということ自体が今回初めてのことだったので、そのプロセスの構築が一番苦労しました。そこで学んだことも多いです。もちろん利益が上がらないと輸入どころではないわけで、少しでも収益が上がるようにさまざまな調整をしています。」価格は6速MT車が187万5960円、6速AT車が194万2920円で、アクセラ教習車よりも2〜3万円ほど抑えた設定。実際にはライバル車とほぼ同額とした戦略価格であることのほうが、販売戦略上では優先されるそう。

-ライバルの教習車に対しての優位点は?「競合に対してというわけではないのですが、マツダ教習車の魅力は『魂動』デザインにより、周囲の目を引く魅力的なスタイリングにあります。リヤバンパーのプロテクターも”付ければいいでしょ”ではなく、全体のデザインを崩さず機能性も両立させるこだわりのパーツです。また、『人間中心』の開発思想に基づいた正しい運転を身につけられるのはもちろん、指導員も長時間座るいわばオフィスみたいなものですから、快適で疲れない空間にしましょうということで、サブブレーキの小型化やフットレストの適正配置などに取り組んでいます。」

ついでなので、ダメもとで聞いてみた。デミオ2セダンの国内市販化は?「ないです。」残念! セダンボディの国内販売化があれば、とっくにやっているそう。マツダ教習車の導入手続きに苦労する必要もないですもんねぇ……。

でも、「マツダ教習車」で教習を受けた人が、マイカーに同じものがほしいといったときに困りますね。「同じ車両感覚で乗れるハッチバックのデミオがあります。でなければ、進化したマツダ3もぜひ検討してください(笑)」 

今回の取材では、実際に従来型と新型の比較もでき、進化のポイントをしっかりと確認できたのだが、「教習車」の相手は”初めてクルマのハンドルを握る人”である(再講習などの場合もあるが)。マツダの考える「人間中心」の開発思想を基にしたクルマづくりを、どれほど感じ取れるのかは知るよしもない。

しかし、初めてのクルマが、意識しなくても正しい運転姿勢を取りやすく、素直なハンドリングやリニアリティのある走りをサポートしてくれるなんて、何ともうらやましいかぎりだ。ちなみに「マツダ教習車」は広島県のロイヤルドライビングスクールですでに17台が納入されているとのこと。他地域でも導入予定の教習所も増えつつある。アクセラ教習車に続き、「マツダ教習車」があちらこちらで見かけられることを大いに期待したい。



●マツダ教習車のトランクルーム。デミオ(ハッチバックモデル=250L)よりも広い!もしかするとマツダ3ファストバック(334L)よりも広い!?(※写真は開発車両。マツダ教習車の後席シートバックは一体可倒式)

 ※掲載の写真は「マツダ教習車」開発車両で、実際に販売されているものと仕様が異なっている 

〈文=編集部・兒嶋 写真=澤田和久〉
*製品仕様・価格(税込み)などは発表時のもの
マツダhttps://www.mazda.co.jp 

https://driver-web.jp/articles/detail/16405/

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