2018/02/21 ニュース

世界初!トヨタがレアアースであるネオジム使用量を大幅に削減したモーター用磁石「新ネオジム耐熱磁石」を開発

トヨタは2018年2月20日、モーターに用いられる磁石について、レアアースであるネオジム(Nd)の使用量を大幅に削減した世界で初めて(2018年1月現在、トヨタ調べ)の新型磁石「省ネオジム耐熱磁石」を開発したと発表した。電気自動車やハイブリッドカーなど、電動車に搭載する高出力モーターをはじめとした、さまざまなモーターに使用されるのがネオジム磁石。これに含まれるレアアース(希土類元素)であるネオジムは、産出量も少なく、ゆえに高価である。今後電動車の急速な拡大が予想され、モーターの需要が高まっていくとネオジムの供給量が頭打ちとなり、モーターの安定的な供給が難しくなるという。

ネオジムの材料置換で供給安定化を図る研究

現在、自動車用モーターなどに採用される磁石は、高温でも磁力を高く保つことが重要となっている。そのため、磁石で使用する元素のうち、レアアースが約30%使われているという。また、強力なネオジム磁石を自動車用モーターに使用するために、高温下でも保磁力を高める、希少かつ高価なレアメタル(希少金属)テルビウムやディスプロシウムが添加されている。これらのレアメタルは産出地が限られており、地政学的なリスクも高い金属でもある。すでに新型プリウスに搭載されるモーターでは、テルビウムやディスプロシウムの使用量を大幅に削減。次のステップとしてネオジムに置き換わる素材を使用し、かつネオジム磁石同等の性能を発揮する研究開発を続けてきた。
●電動車の駆動用モーターの磁石に使用する元素のうち約30%がレアアースとなっている。4代目プリウスにおいてレアメタルであるテルビウムやディスプロシウムを大幅に削減した。今後はレアアースの大半を占めるネオジムを削減が必要で、今回、レアアースのなかでも産出量が多く安価なランタンやセリウムに置き換えた「省ネオジム耐熱磁石」を開発
今回開発した磁石は、高耐熱ネオジム磁石に必要なレアアースのなかでも希少なレアメタル(希少金属)に分類されるテルビウム(Td)やディスプロシウム(Dy)を使用せず、ネオジムの一部を、レアアースのなかでも安価で産出量の豊富なランタン(La)とセリウム(Ce)に置き換えることでネオジムの使用量を削減したものだ。
ただ、単純にネオジムをほかの素材に置換すればいいというわけではない。それは、ネオジムが強力な磁力と耐熱性を保持するうえで大きな役割を占めているからだ。これを単にランタンとセリウムに置き換えるだけだと、磁力はネオジムに及ばず十分な耐熱性を持つものにはならない。高温になると磁力が低下し、モーターとしての役割を十分に発揮できなくなってしまうのだ。そこで、新たに開発した3つの新技術を組み合わせることで、ネオジムを最大50%削減しても従来のネオジム磁石同等の高い耐熱性を維持できる性能を実現したという。

新技術1:磁石を構成する粒の微細化


従来のネオジム磁石は5μm(マイクロメートル)の粒で構成されている。これを1/10以下に微細化。粒と粒の間の仕切りの面積を大きくすることで高温でも磁力を保てる仕組みとした。これはどういうことかというと、磁石は粒の集合体である。その粒一つ一つが隣どうしを引きつける力を持ち、強固に結束している。だから、大きな粒よりも小さな粒のほうが、粒と粒の仕切り面積が増え、高温での保磁力(磁力を保つ力)を高く保てるというわけだ。

新技術2:粒の表面はネオジムを多く、内部は少なくする二重構造化


従来のネオジム磁石は、ネオジムが磁石の粒にほぼ均等に存在している。多くの磁石の場合、実際に磁力を維持するために必要な量以上のネオジムを使用していることになる。磁力を維持するのに使われる領域は粒の表面付近であり、中心部では表面と同量のネオジムは必要がない。そこで、保磁力を高めるのに必要な部分(=粒の表面)のネオジム濃度を高くして、内部の濃度を低くする二重構造化を図った。これによりネオジムの使用量を削減しつつ、効率よくネオジムを活用できる。濃度を低くした部分に使用されるのがランタンとセリウムだ。

新技術3:ランタンとセリウムの最適配合


ネオジムにランタンやセリウムなどの軽希土類を単純に混ぜただけでは、耐熱性や磁力などの磁石の特性が大きく低下してしまう。そのため、軽希土類への置き換えは難しいとされていた。トヨタはこれを解決するため産出量が豊富で安価であるランタンとセリウムをさまざまな配合比で評価。その結果、特定の比率(ランタン:セリウム=1:3)で混ぜることで耐熱性や磁力低下という特性の悪化を抑えられることを見いだした。
これら3つの技術を織り込んで開発したのが、今回発表された「省ネオジウム耐熱磁石」だ。

2020年代前半の実用化を目指す

これはまだ開発段階で、実用化には至っていない。今後電動車の駆動用・発電用モーターをはじめ、電動パワーステアリング、ロボットや家電製品など比較的高い出力が必要なモーターなど幅広い用途への応用が可能だという。実用化に向けてさらなる研究と開発を進め、自動車の電動パワーステアリングなどのモーターでは2020年代前半の実用化を、さらに要求性能が高い電動車の駆動用モーターでは、10年以内の実用化を目指すというから、期待したい。
●プリウスに搭載されるモーター。電動車の普及拡大により、強力な磁力と耐熱性を保持するうえで大きな役割を占めるネオジムの供給不足が懸念される。今回発表された「省ネオジム耐熱磁石」のような材料置換により、モーターの安定供給が期待できる

「省ネオジム耐熱磁石」の製造工程
●モーターの磁石に用いられる素材。ネオジム削減のためにこれにランタンとセリウムを最適配合したものを加えている

●素材を解かして合金にする

●合金が溶けた状態で、冷却装置にスプレー状に吹きつけることで瞬時に冷却。リボン状にする

●急冷リボンをさらに粉砕して細かな粒にする(左)。その後、焼き固めて(中)、さらに圧力を加えることで磁力の向きを整える。これに磁力を持たせれば「省ネオジム耐熱磁石」になる

なお、今回の研究・開発は、新エネルギー・総合技術開発機構(NEDO)が推進する「次世代向け高効率モーター用磁性材料技術開発」の一環として実施されている。 

RANKING