2018/01/20 コラム

まもなく半世紀 歴代モデル “試乗記” で見る スバル4WD「進化の軌跡」7

driver archive SPECIAL数ある自動車メーカーのなかでも “四駆” に強いこだわりを持っているのがスバル。その歴史は半世紀近くにさかのぼり、いまも水平対向エンジンと並ぶ同社のコア・テクノロジーである。林道から市街地、そしてサーキットまで。その進化の過程を、本誌試乗記で振り返ってみたい。 まとめ:編集部
 
1987 ALCYONE VX第7回は、1985年に誕生した「アルシオーネ」のフラッグシップとして、2年後のマイナーチェンジで追加された「VX」。2.7Lのフラット6を搭載し、4WDも量産市販車では世界初の、前後駆動トルク配分を自動制御する「ACT-4」へと進化。本来あるべき動力性能を手に入れた。*:当時の試乗記はすべて本誌の記事を抜粋、一部再構成したものです
「イメージリーダー」 1987(昭和62)年8月20日号「世界トップレベルの乗用車4WDメーカーと、自他ともに認めるスバルの富士重工。今、ようやく世界初のアクティブ・トルク・スプリット4WD(ACT-4)を完成させ、4WDグランツーリスモ “アルシオーネVX” をデビューさせた。『スバルがフラット6の開発を行っている』とのウワサを耳にしてから6〜7年が経つ。しかし、一昨年のモーターショーに参考出品されて以降、その存在が忘れられかけていた。そのフラット6がようやく日の目を見たのだ。(昭和)60年6月、その年のモーターショーの5カ月前、いかにもアメリカナイズされたスタイルのアルシオーネがデビューした。しかし、搭載エンジンがフラット6でないことを知ったとき、少なからずがっかりしたことを思い出す。それから2年、アルシオーネはようやく本来必要とするパワーユニットを手に入れたというべきだろう。アルシオーネVXの走りはジェントルそのもの。フラット4とは異なる6気筒の排気音は、もう少し低く太いほうがボクの好みだが、フラット4よりはずっとパワーを感じさせるものだ。その排気音も車内にはほとんど響かず、エンジン本体から発するメカニカルなサウンドが、わずかに聞こえるだけ。ER27型のボア×ストロークは、EA82型フラット4と同じ。つまり、92mm×67mmのオーバースクエアシリンダーを2気筒増やし、排気量を2672ccとしているのだ。最高出力は150馬力/5200rpm、最大トルクは21.5kgm/4000rpm。1.8L 4気筒ターボの120馬力&18.2kgmに比べ、30馬力、3.3kgmアップしている。トルク特性はフラットそのもの。エンジン性能曲線をみると、1000回転から最大トルクを発生する4000回転を経て5500回転まで、つねに最大トルク値の80%以上をキープし続けている。そして新開発の電子制御4速AT(E-4AT)とのマッチングも良く、フラット6エンジンの持ち味を十分引き出している。E-4ATは、2つのプラネタリーキャリアを内蔵するオールレンジ電子制御4速AT。油圧ロックアップクラッチを採用して、パワーの伝達をより緻密、正確に行っている。さらに従来のMP-Tを進化させたアクティブ・トルク・スプリットで、前後輪のトラクション性能を向上させている。通常の走行ではACT-4の効果を確かめることは困難だ。それほどに自然に走り、自然に曲がり、自然に止まる。ただ、その発進、加速、停止が高レベルに安定していることで4WDとわかる。トルクスプリットが行われ、そして4WD乗用車としては日本初の4輪アンチロックブレーキが効いていることもわかるというもの。もっとハードに攻めてみようとワインディングへ。だが、スポーツ感覚を期待したとしたら、結果はまったくの的はずれ。コーナリング車速のアベレージが高く、瞬間的な速さが感じられないのだ。コーナリング性能については、新しく手が加えられたエアサスに負うところが多い。その電子制御ニューマチックサスペンションとエンジン、E-4AT、ACT-4、ABSなどのトータルなコントロール&コンビネーションがうまくいっていることを感じさせる。しかし、その走りっぷり自体は楽しいとはいえず、スムーズな移動のためのパーソナルツーリングカーの域にあり、“スポーティ” あるいは “スポーツライク” といった形容詞は与えられない。おそらく、次のレオーネにはこのシステムがもっと完成されて搭載されよう。それが大きな楽しみである。 (中田和夫)

●ACT-4のほか、世界で初めて速度感応型電動パワステを搭載したのもこのクルマだった(当時は「モータードライブ式パワステ」とも呼ばれていた)
文字どおりのアクティブ制御従来の「MP-T(油圧多板クラッチ)4WD」の作動油圧を電子制御化し、前後輪へのトルク配分を自動的かつ連続可変させる「ACT-4」。トルク配分(前:後)は、63:37から50:50の範囲で変化。その配分比率は、車速、スロットル開度、前後輪回転比、ATの走行レンジ信号、ABS信号などによりコンピュータが判断する。ATも、ようやくオールレンジ電子制御の4速(E-4AT)へ。
●ローノーズ&ハイデッキのスタイリングをはじめ、ドアハンドルには凹凸をなくす可動式フラップを採用。エクステリアは空力性能を追求。日本車で初めてCD値:0.30の壁を突破した

●初期型のカタログから。L字型ステアリングや、その左右にスイッチを配した「コントロールウイング」、ガングリップタイプのシフトレバーにテレビゲームのようなメーター(VXはアナログのみ)と内装も個性的

●85年6月の日本発売に先立ち、同年1月のデトロイトショーで「XTクーペ」として初披露。主戦場はアメリカだった(画像はアルシオーネVXの北米版「XT6」)

■アルシオーネ VX(4WD・4速AT) 全長:4510mm 全幅:1690mm 全高:1335mm 車両重量:1300kg 水平対向6気筒OHC 2672cc 150馬力/21.5kgm
スバル初の海外先行発売車として85年に新規投入されたアルシオーネ(XTクーペ)。北米では安価なコンパクトクーペとして、発売直後の売れ行きは好調だった。しかし、プラザ合意(同年9月)以降の急激な円高により販売台数が激減。そこで追加されたのが、このフラット6搭載モデルというわけ。意欲的な新技術の投入とともに、高級路線へシフトすることで窮地からの脱出を図るも……国内外とも人気回復には至らなかった。

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