2023/03/28 コラム

高速道路の「車間距離不保持」取り締まりが3年間だけ倍増したのはナゼ!?

数あるオービスのうち、写真は三菱電機のRS-2000型

違反別の交通違反取り締まり件数(警察庁作成の一覧表)を前の記事で紹介した。2022年の総数は614万1535件だった。そのうち高速道路での取り締まりについてまとめた一覧表が別にある。高速道路での2022年の総数は49万9515件。2割近くを占める。

国土交通省によれば、2020年3月末現在の日本の道路の「総実延長」は122万7422.3km、うち高速道路は9050.3km、約0.7%にすぎない。一般道路にはクルマが通れないような部分もあるにしても、高速道路での取り締まり遭遇率は一般道路よりかなり高いと言えそうだ。

高速道路での取り締まりの総数を、コロナ前の2019年から並べてみる。カッコ内は前年比だ。

2019年 63万8312件(-0.5%)
2020年 57万1963件(-10.4%)
2021年 55万0093件(-3.8%)
2022年 49万9515件(-9.2%)

手元に2001年からのデータがある。2012年の86万8116件をピークにどんどん減っている。続いて違反別に見てみよう。



■速度違反

一般道路では超過30キロがいわゆる青切符と赤切符の境目だ。高速道路ではその境目は超過40キロ。40キロ未満は青切符を切られ、反則金(軽い行政罰。最高額は4万円)ですますことができる。超過40キロ以上は赤切符を切られ、罰金刑(刑事罰。前科になる)の対象とされる。超過速度がかなり高いと懲役刑(同)だ。違反点数は、超過40キロ未満が1~3点、40キロ台が6点、50キロ以上は12点。

高速道路における速度違反の取り締まり件数を2012年からぜんぶ拾ってみる。以下、左側が超過40キロ未満、右側が超過40キロ以上だ。

2012年 38万7183件 3万6283件
2013年 39万4143件 3万3350件
2014年 36万8605件 2万8300件
2015年 37万2886件 3万1080件
2016年 36万3980件 3万4365件
2017年 34万3110件 3万0975件
2018年 30万7515件 2万8831件
2019年 30万2574件 2万3181件
2020年 30万6028件 1万4079件
2021年 29万0180件 1万4103件
2022年 25万6935件 1万6060件

40キロ未満に比べ、40キロ以上の減少ぶりが激しい。高速道路のオービスは大幅な速度違反を取り締まる。情報公開条例により警視庁などから私が開示を受けた文書によれば、オービスのうち三菱電機のRS-2000型、あの四角いハンペンのようなレーダーアンテナを備えたオービスは、遅くとも2018年3月末で部品供給や工場修理対応などを終了した。その影響もあるのだろう。

■車間距離不保持

これはねえ、ちょっとびっくりな展開になっている。2001年からのデータを見ると、ピークは2005年で1万9859件。その後どんどん減り、2017年はピーク時の3分の1以下にまで落ちこんだ。そしてこうなった!

2017年   6139件
2018年 1万1793件
2019年 1万3787件
2020年 1万1523件
2021年   7422件
2022年   5213件

突然、2018年からの3年間だけ倍増、なぜ? 2017年6月に東名高速道路で「あおり運転」により夫婦2人が死亡させられるというとんでもない事件があった(合掌)。もう大々報道され、全国の道路での悪質な「あおり運転」のドライブレコーダー映像を、各テレビ局が競って放映した。1つの映像が何十回、何百回とテレビ画面に流れた。そうして警察は車間距離不保持の取り締まりをほぼ倍増させたのだ。

2020年6月30日、「あおり運転」の厳罰化がスタート。たとえば高速道路上での車間距離不保持は、それだけなら反則金(普通車は7千円)と違反点数2点だが、「他の車両等の通行を妨害する目的」で「交通の危険を生じさせるおそれのある方法」でやると、反則金ではすまない。3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される。違反点数は25点だ。

厳罰化が達成され、車間距離不保持の取り締まり件数はがくんと落ちこんだ。厳罰化にびびって「あおり運転」が激減したのか。いやあ、どうだろう、「あおり運転」をする者はだいたいこんなふうに考えるようだ。

「マナーの悪い運転、下手くそな運転のせいで自分は迷惑をこうむった。自分は被害者だ。正義のために懲らしめねば!」

「正義の被害者」には厳罰化など関係ない。重く処罰されるとか、免許取り消しを食らうとか、重大事故になりかねないとか、ぜんぶ頭から吹っ飛んでしまう。そんなタイプの人が多いのか、厳罰化以降もあおり運転のドラレコ映像がよくテレビニュースになっている。

「あおり運転」に対する社会の怒りを受け、取り締まりを倍増させろと警察庁が全国の高速道路交通警察隊に号令をかけた。3年後、厳罰化の道交法改正が成り、号令は解除された、そういうことではないかと私は見る。

■通行区分違反

通行区分違反は508件から1174件へ、2倍以上に増えた。高速道路で通行区分違反といえば路側帯通行と逆送が思い浮かぶ。超高齢ドライバーの逆送は、報道される以上によくあるのかも。もしそうだったら怖ろしい話だ。

■通行帯違反 

通行帯違反の取り締まりは7万2851件から5万7011件へ21.7%減った。トレーラーは原則いちばん左側を通行せよとか通行帯のルールはいろいろあるが、取り締まりが多いのは追い越し車線の漫然走行じゃないかな。

高速道路では、片側2車線でも3車線でも、いちばん右側が追い越し車線だ。追い越しをしないのに、また、追い越しを終えたのち、左車線へ安全に戻れるのに戻らず追い越し車線を走行すると、通行帯違反になる。

とにかくね、高速道路は一般道路より取り締まり遭遇率が高いことも頭におきつつ、気持ち良く安全運転でいきましょう。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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